第82話 あまりに進展が早くてびっくりした
今日のタイトルは、本文と後書き、両方のものです。
今日だけは、後書きも読んでくださいね。
俺は約束の金曜日になったから評価をチェックした。
「おっ、上がっているじゃないか」
エリカがロスメンのスタッフになって丁度1週間。
宿泊サイトの評価を確認した。
「ん? なにが?」
どでかいベッドの横でカスミが話かけてくる。
彼女は寝る時、何もつけない派だから、肌掛けの下は全裸だろう。
「ああ。あのロスメン、評価が上がっているんだ」
「すごいじゃない。どのくらい?」
「えっと、0.1かな」
「なんだー、大したことないのね」
「そんなことはないぞ」
今まで入れられた口コミが全部で100件ほどあったはずだ。
それなのに、0.1の評価を上げるためには良い評価を入れてもらわないといけない。
「どれどれ、ほう。8の評価が2つと7の評価が1つあるぞ」
「すごーい。たしか平均4.5だったでしょう?」
おい、肌掛けが落ちたぞ。
朝日に素肌が輝いているじゃないか。
「すごいな。すると大入り袋は3つか」
「なにそれ」
「評価7以上をゲットした部屋担当は、日当の半分の大入り袋をもらえるんだ」
「あー。それはがんばるしかないわね」
そうだ。
まず分かりやすい評価が必要で、その評価によって収入にリンクさせる。
それによってやる気が出る。
もちろん、やる気になるかどうかは人によって違う。
だけど、評価と収入によってやる気になる率が格段にアップする。
「誰が大入り袋をもらうことになるのかな」
「やっぱり、バリ島親分のとこの子じゃないの?」
「エリカか? それはどうだろう。元々いた誰かかもしれないぞ」
「そうかなー」
カスミは、ひどい状態のロスメンを見ているからな。
その時のスタッフを信じることはできないみたいだ。
「どうだ? 一緒に行くか」
「いいの?」
「ああ。金曜日の午前中に15分だけやるスタッフミーティングだからな」
☆ ☆ ☆
「kenの担当者は誰だ?」
「エリカよっ」
「よくやった! kenの評価は8.1だ」
俺は大入り袋にエリカの日当の半分を入れる。
残りの3人はぶすっーした顔をしている。
「どうした? ここは拍手だろう」
「はくしゅ?」
「オベーション。これ」
まずは俺が盛大にエリカに向けて拍手をした。
ミーティングは立ってやっているから、スタンディングオベーションだ。
最初はパラパラくらいの拍手だったが、俺がけしかけていったら本格的な拍手になった。
大入り袋を両手でエリカに手渡した。
「次に大入り袋をもらうのは誰だ?」
4人の目を見ると、エリカ以外は下を向いてしまった。
「LUCYの部屋担当は誰だ?」
「それも私ね」
「よくやった! 7.9だ」
「嬉しい」
すごいな、エリカ。
拍手を受けて、2つ目の大入り袋を渡す。
するとやっぱり最後のも、彼女か。
「CHANの部屋担当は誰だ?」
「それも私」
「すごいな。3人目もエリカか」
「ちょっと待って。なんか変じゃないか」
一番古株の男がエリカをにらんでクレームを言い出す。
「そんなに簡単に評価があがるはずないだろう。インチキだ」
「それはそうだ。そんなに簡単に上がるはずなどないな。エリカ、どうだ?」
「そんなことないよ。インチキなんてしてないよー」
もちろん、エリカがインチキなどしていないと信じている。
しかし、何をしたのか俺も知りたいというのはある。
「この3人に、何をしたらこんなに良い評価がもられたんだ?」
「この人たちだけじゃなくて、みんなにしたの」
「何をだ?」
「良い評価をしたくなるように一杯勉強したの」
エリカが言うには、まずは評価を勉強したとのこと。
いままでの口コミで悪い評価の人がなぜ、そんな評価を入れたのか。
口コミを全部読んで、うちのロスメンの良くないところを調べ上げた。
もちろん、設備の問題やロケーションの問題とかはどうしようもないけど、できることはあると思ったらしい。
「臭いとかカビとか。ちょっとした汚れとか。そういうのがまずはないようにしたの」
「それはあるな。悪い評価は大抵そのあたりだ」
「そうよ。最初泊まったとき、変な臭いがあったわ」
「あー。あれな。日本人だとあれがあったらまず駄目だ」
ここのスタッフはだいたい日本語は分かるはずだ。
一番、弱いのがエリカだな。
「だけど、おかしいだろう。こんな古くて小さいロスメンが評価8なんかになるか?」
「私も、最初無理って思ったのー。8じゃなくて7もー」
「だろう?」
「でも、他の評価がいいとこを見ていたら古いホームステイでプールもないようなドミトリーのとこが平均で9のことがあったの」
「ええっ、評価9。高級リゾートと一緒だろ、それ」
「うん。で、なんでそんなにいいのか。実際に泊まったの、そこに」
エリカ、そんなこともしていたのか。
ドミトリーなら500円くらいだろうが、勉強のためにそんなことをするのか。
「そしたら。宿のスタッフがみんなすっごくフレンドリーで、いろんな国の人と仲良く話せてとっても楽しかったの」
「バックパッカー用の宿だな。バックパッカーはそういうの好きだからな」
評価は別に基準などない。
泊まった人が満足すれば8どころか10を付けることもある。
「だから、お客さんに挨拶をしっかりとして、その後に話しかけてみたの」
「どんな話をしたのかな?」
「なにか知りたいことや、困ったことはないかって」
「あったか?」
「うん。美味しいワルン(しょくどう)がないか、とか。ドライヤーはないかとか」
「ああ。そういうの、聞かれるな」
「私の知ってるワルンじゃ、海外の人だと無理かなと思ったら、行ってみたいと言うの」
「ほう」
「だから、一緒にお昼ご飯したの。私の休憩時間に合わせて」
それは嬉しいかもしれないな。
ローカルな人しか行かないようなワルン。
ガイドブックにも載ってなさそうだし。
「辛いーーって言うの。私達には普通なのに」
「そりゃ、辛い感覚は違うな」
「だけど、本場の味って喜ぶの」
なんか、面白そうだな。
そういうのは。
「それで、こんなのを作ったの」
A4サイズの紙にびっしりと書き込みをしてある。
宿周辺のワルンやコンビニが書いてある。
「すごいな。まだ1週間なのにもうそれ作ったのか?」
「そのお客さん、LUCYさんだけど。手伝ってくれたの」
一緒に作ったのか。
だから、LUCYの評価がよかったのか。
「お互いがもっている情報で、これを作りながら交換したの。旅行者向けのお店とローカル向けの情報ね」
そんな話をエリカとばかり話していた。
いけない、予定の15分が終わってしまう。
「どうだ、みんな。エリカはインチキをしたと思うか?」
「すみません。インチキだと言って。評価8なんて無理だと思ってたから」
「エリカどうだ。インチキだと言われたこと、許すか?」
「えー、許すも何も。インチキなんてしていないから」
うん。大丈夫だろう。
ひとりだけ評価されると、どうしても孤立しやすいからな。
「エリカに頼みがあるんだけど」
「ん? 頼みか。なんだ?」
「もっと話を聞かせて欲しい。どうやって評価7以上を取ったのか」
「もちろん。聞いて欲しい。みんなに」
よし。
大丈夫だ、エリカは。
元々、彼女は仕切りを自然とするタイプだからな。
一番年下で初心者のばずが、なぜかみんなをうまく仕切って全体の結果を出してしまう。
まぁ、俺も賢者の魂に鍛えられたからできるが、彼女は生まれつき仕切りスキルを持っているからな。
「よし。それでは来週の金曜日には、全員大入り袋がもらえるようにしてくれ」
「「「「はいっ!」」」」
この感じならそろそろ、いいだろう。
バリ島親分がブログでこのロスメンを紹介したいと言っていたからな。
それをすると、日本人の客が急激に増えるだろうからな。
ちゃんと評価がもらえるようになってから、と待ってもらっている。
すぐにゴーを出して、日本人客を増やしてもらうとするか。




