第81話 恨みはらさずにおくべきか
「やっと、運が巡ってきたようだな」
長かった。
まるで奴隷になったようだ。
それも、これも、すべてあいつのせいだ。
あいつに騙されるまでは、順調な人生だった。
会社には評価されて、そこそこの出世ができた。
結婚して、娘がふたり出来た。
贅沢はできはしなかったが、安定した生活はできていた。
それをすべてぶち壊したのがあいつだ。
仕事を奪い、家庭を奪い、巨額な借金を作らせた。
それも、血も涙もない闇金の奴からの借金だ。
まるで生きている心地がしなかった。
いつも借金取りにびくびくする毎日。
それもやっと終わった。
「借金を返すいい方法をあるんだが」
悪魔のような借金取りが提案してきた方法。
それが、魔法の薬との出会いだった。
最初聞いたとき、嘘だと思った。
なんの副作用もないスーパードラッグ。
そんなのあるはずがない。
一時的に力はでるけど、後からひどい目に遭うに違いない。
そう思った。
しかし、拒否などできない。
借金取りのせいで会社を辞めて収入のあてがない状態。
このままじゃ、臓器を売るしかないと脅されていた。
「なるようになれ」
どうせ、地獄の生活だ。
未練などありはしない。
魔法の薬を飲まされて、家の解体現場へと連れていかれた。
「なんて身体が軽いんだ」
10代の身体に戻ったような感覚。
いや、10代どころではない。
いままで、体験したこがない状態。
とても、持ち上げられはしないと思えるコンクリートブロックを持ち上げた。
まるでウエイトリフティングの選手になったようだ。
高いところに跳びあがることもできるし、バランスも崩しはしない。
求められた解体の仕事を予定の半分で終わらせた。
そして、もうひとつ違いに気づいた。
頭の回転が驚くほど速いのだ。
初めて経験した解体現場なのに、何をどうすればいいのかちょっとだけ指示をしてもらったら自分で作業を組み立てることができた。
こんなに要領よくできるなら、人の手助けなど必要ない。
自分ひとりでなんでもできる気がした。
今、一番やりたいこと。
それは復讐だ。
あいつを地獄に落とすこと。
それのためには、危険なことだって平気だ。
いや、危険などあるものか。
私は今、超人になっているのだ。
力も速さも頭の良さも。
全て手にいれた超人だ。
負けるはずなどない。
私か今、すべきことは魔法の薬を大量に手に入れること。
魔法の薬を手渡しているチンピラをだまして、魔法の薬の在りかを聞きだした。
簡単なことだった。
魔法の薬効果で相手の思考が読めてしまうのだ。
チンピラはまんまと魔法の薬の在りかを教えてくれた。
よし、いいぞ。
私は魔法の薬を大量に手に入れて、復活するのだ。
全てを奪った翔太に恨みをはらすべく、行動を開始した。
☆ ☆ ☆
「本当ですか! あれが手に入るんですか」
「ああ。もちろん、ただとは言わないがな」
「私にできることなら、なんでもやります」
手下を作るのは実に簡単なことだった。
それもただの手下ではない。
フリージャーナリストを名乗る雑誌記者がいる。
30年の経験を持つ探偵がいる。
とびっきりの腕を持つハッカーがいる。
私は翔太を追い込むために、必要になる手下を集めまくった。
簡単だった。
魔法の薬の力で、誰もが私の手下になりたがった。
まるで桃太郎になった気がする。
キビ団子を配るだけで簡単に仲間が増える。
そして、鬼退治に鬼ヶ島、いやバリ島に行く。
その日のために、私は力を蓄えておくのだ。
あいつの苦痛にゆがむ顔がみたい。
私の欲望も魔法の薬で強化されている気がする。
なんでもできる魔法の薬。
どんなことになるか、楽しみだ。
気持ちって顔に出るものだな。
恋愛であっても、そうだ。
別に僕に何の感情もないだろう思える女の子。
その女の子にあった気。
一瞬で彼女の気持ちが分かってしまった。
ちょっとだけ、顔を赤めたのだ。
ぽ、、、ちっとだけ。
ぽちっとだけ。
ぽちっとだけ、してくれたのだ。
いや、違うな。
ほちっとだけ、して頂戴な……お願いっ。




