第8話 骨董品の買い取り交渉に挑戦してみた
「これなんだがな」
「掛け軸ですな。最初に言っておきますが、掛け軸は値が付かないことも多いんですよ」
ちょっとインテリ風の骨董店の店員が俺が見せた掛け軸を手に取って語り始めた。
今日は本音で言えば、骨董の知識収集が目的なのだ。
俺の鑑定スキルは骨董品が持つオーラは判断できる。
当然、贋作はオーラが濁っているから分かる。
作者のエネルギーが弱いものも分かる。
保続状態の良し悪しも分かる。
しかし、骨董品の価値はそれだけでは決まらない。
人気のある物とない物。
それで値段は大きく変わる。
骨董品の世界を知らない今の俺では鑑定に限界があるのだ。
「あそこに掛かっている掛け軸はどのくらいする品物なのか?」
「あれは稲垣正彦の赤富士です。10万円ほどですな」
あれは確かに美しい絵だ。
しかし、それほどオーラがあるようには見えないが。
「人気作家ですから、値段も上がってきているんですよ」
「もっと古い掛け軸はないのか?」
「そういう掛け軸は展示せずに保管してありますよ。欲しい物がありますか?」
「いや、今日は買い取りだけだ」
見るだけをしたいんだがな。
まぁ、それは無理なのか。
「ほう。これはなかなか古い掛け軸ですな」
「どうだ? いい物なのか」
「残念ながら、それほどでもないですね。素人の作品ですよ」
うーむ、こいつは駄目だな。本当のことを言っていない。
俺は交渉スキルがあるから、分かりやすい嘘はすぐに見破れるぞ。
「それなら、返してくれ。他の店で見てもらうとしよう」
「えっ? 私の言うことが信用ならないというんですか?」
「いや。他の店なら、そこそこの価格で買ってくれると分かっているからな」
「もしかして、どこかで鑑定してもらったのですか?」
「ああ」
まぁ、鑑定したのは俺だけどな。
オーラがある程度強いから素人の作品ではなかろう。
そもそも、こいつの表情から見ても分かるしな。
「うーむ。ちょっと待ってください。詳しく見させてくれませんか?」
「いやいい。こういうことは信用できる相手と取引したいからな」
そう言い捨てて、俺は店を後にした。
「ねぇ、翔太さん。その掛け軸、そんなに価値あるの?」
一緒に行動しているカスミが質問してくる。
「いや。そこそこ程度だな。俺の車に乗せてある掛け軸では下の方だ」
「それなのに、どうしてあんなに強気で交渉できるの?」
「単にあの男の人物鑑定をしただけだ」
「へぇ。そうなのね」
「あの男は、カスミの元彼レベルの人物だな」
「それってことは…相当な駄目男ってことね」
「そうだ。お前も少しは人を見る目を養えよ」
「男を見る目がなくてすみませんね」
それから俺とカスミは通りに並ぶ骨董品屋に入っては、そこそこの掛け軸をみせて廻った。
5軒目に入った小さな店で俺は可能性がある爺さんに出会った。
「この品は保続状態は良いがな。有名な作者ではないが、なかなか画力がある作者とみえる。水墨画は人気もある物だからどうじゃ? 3千円でいいなら買い取るぞ」
「よし、売った!」
そこそこの掛け軸1本が3000円になった。
この爺さんならいいだろう。
カスミに渡してある、そこそこからちょっと良いレベルの掛け軸の20本も観てもらおう。
「ほう。なかなか、良い品が揃っているんじゃな。この掛け軸は1万円だせるぞい」
「なかなか、だな。他の掛け軸はどうなんだ?」
「たしかにな。品は良い物が多いが、残念ながら人気のないのも混ざっておる」
「どれが人気で、どれが人気がないのか教えてくれないか」
俺は爺さんに掛け軸のレクチャーを受けた。
俺が持ってきた掛け軸は虎を描いたのが一番人気があるらしい。
俺の鑑定では他の掛け軸の方が良い評価だが、こういう絵柄を好む客が多いのだろう。
「全部で4万円じゃな。それで良いかな」
「それでは、それで売ろう」
そんな話を横で聞いていて、カスミはニコニコしている。
車に乗っている骨董品全部を3万円で買い取ったと話してあるからな。
「他にも買い取りをしてもらいたいものがあるんだが」
「もろろん、歓迎じゃ。お主は骨董を見る目があるようだからな」
結局、すべての骨董を持ってきて鑑定してもらった。
全部で58万円になった。
「すごーい。55万円の儲けじゃないの」
「ああ。遺品整理をした蔵に良い物が多かったみたいだな」
「だけど、骨董品屋のお爺さんも褒めていたじゃない。翔太さんが見る目があるって」
「いや。俺は単に勘がいいだけなんだ」
さすがに、これだけの利益が出ることは珍しいだろう。
もっと、多くの骨董品を見る機会があれば別だがな。
「骨董品の専門家になったらいいのに」
「それもいいかもな」
俺はとりあえず、お宝発見という鑑定を使った仕事の目途が立ってほっとしていた。
辛かった異世界での経験が活かせる仕事だからな。
鑑定スキルと交渉スキルは現代でもしっかりと役立つことが証明されたんだ。
ローファンタジー日間ランキング3位に入りました。
ありがとうございます。
1週間かかってベスト5に入ったのは、初めての経験ですね。
不思議なくらい、確実にアクセスが増えています。
それも読んでいただいている、あなたのおかげです。
「鑑定はどのくらい金になるのか」とか。
「ここからスローライフに入るのか」とか。
先が気になるって方は、ブクマや評価をお願いします。