第77話 俺はロスメンの改善をはじめてみた
バリ島親分に紹介されたロスメンにカスミと一緒にやってきた。
最初は何も言わずに普通の宿泊客として。
そのロスメンはプールの周りに2階建ての宿泊設備があるバリ島ではよくある形だ。
部屋は全部で12あるようだ。
中庭にあたる部分がプールになっている形で、建物のひとつは食堂になっていて、そこで朝食が提供されるらしい。
俺達は入口から見ると反対側の1階の部屋に通された。
その部屋はカビくさかった。
壁は汚れがあちこちにあった。
「これはひどいな」
「ないわね」
ちょっと見ただけで、宿泊したいと思う部屋じゃない。
バスルームは浴槽はなくシャワーだけで洋式のトイレと一緒になっている。
「ドブくさい匂いだな」
「ここじゃ、シャワーしたくない」
ちょっと水を出してみると、ちゃんと流れない。
排水孔になんか詰まっているようだ。
「文句を言ってくるぞ」
「私、待ってる」
小さなロビーには、やる気がなさそうな若い男がいる。
「シャワーウオーター、ノット、ストリューム」
我ながら下手な英語だな。
まぁ、普通に旅行するくらいなら、別に困らないが。
「オーケー。アイゴートゥギャザー」
部屋に連れていくと、排水孔の網を外して中にあった髪の毛を取り除く。
網を戻して、水が流れるのを確認している。
「オーケー。ノープロブレム」
「おいおい。問題ありありだろう」
日本語で言ってしまった。
まぁ、伝わったようだ。
「ソーリー。ナウ、リペアード」
とりあえず、謝ったから良しとしよう。
まぁ、こんな感じだろう。
ロビースタッフは、出て行った。
「これじゃ、お客さんいないの分かる」
「だな。朝食付き1200円だとしてもな」
「そんなに安いの? ふたりだと2400円ね」
「いや、ふたりで1200円だ。税金とかは別だが」
そう。
このロスメンは1200円で12室。
全部の部屋が宿泊しても、1日14400円にしかならない。
それなのにスタッフは3人いて、他にも電気水道代がかかる。
「それじゃ赤字よね」
「ああ。年間稼働率が3割だという。正月のように他のとこが満室のときはそこそこ宿泊客がいるからな」
平均すると1日4800円。
いくら人件費が安いバリ島でも赤字になるのは当然だ。
「どうするの? 無理じゃない?」
「いや。建物は古いがプールも食堂もある。可能性はあるぞ」
「本当?」
既に俺にはイメージができあがった。
ちゃんと人気があるロスメンにするイメージだ。
あとは鍵になるのがスタッフだな。
☆ ☆ ☆
「どうだ? 翔太の眼に適うのはいるかい?」
「うーん。違うな」
俺は今、ロスメンスタッフの面接中だ。
20人ほどの若い女性がきている。
今回はバリ島親分の別荘に来ている。
10軒以上持っている別荘のひとつだが。
「どの娘も思っているのと違うな」
「それなら、次も呼ぶぞ」
また20人並んだ。
どうも違う。
「おかしいな。ホテルやリゾートの仕事を経験している娘達だぞ」
「もしかしたら、それがいけないのかもしれないな」
俺は求めている人材のイメージが伝わっていないと感じた。
どうすればいいのか?
「オチャ、ドウゾ」
「あっ」
たぶん、バリ島親分の別荘メイドだろう。
片言の日本語でお茶のサービスをしてくれた。
このメイドの方がイメージに近い。
もしかして。
「この別荘のメイドは何人いるんだ?」
「意外といるぞ。10人くらいか」
「なぜ、そんなにいるんだ」
「まぁ、ほとんどのメイドは中学卒業して仕事がなかった娘達だからな。今は俺の別荘で礼儀作法の勉強中だ」
メイドと言う名にして、給料を出しながら勉強させているらしい。
バリ島親分らしい。
「メイドを全部呼んでくれないか?」
「おいおい。英語も日本語もできない子達だぞ」
「ああ、それでいい」
16歳から18歳のメイドがずらりと並んだ。
面接だと伝えられていないから、きゃっきゃっと騒いでいる。
「いた!」
ひとりだけ、特別な女の子がいた。
その子には、白いオーラが輝いている。
「あの子、借りていいか?」
「もちろんいいが。他はどうする?」
「必要ない」
「いくら客が少ないと言ってもひとりじゃ無理だぞ。最低でも3人はいるぞ」
「今の3人がいるぞ」
「えっ。クビにしないつもりか?」
もちろん、クビにはしない。
俺にはちゃんとポリシーがあるからな。
「全員新しいスタッフの方が良くはないか?」
「大丈夫だ。今のスタッフでも立てなおせる」
「なぜ。そう思う?」
「ひとはな。しっかり働くのも、サボるのも環境次第だからな」
「そうは言っても……」
「環境さえ変えれば、能力を発揮するぞ。その環境を変えるのが彼女の役割だ」
「うーむ。分からん。ここはお手並み拝見といくか」
よし。それでいい。
後は彼女に俺なりの文化を伝えるだけだ。




