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第59話 俺は面白い経験をしてしまったぞ

「それでは、これにて鑑定人対決終わりにしたいと……えっ?」


MCが横の方を見ている。

なんかカンペみたいな物が出ている……でも、何が書いてあるか、こっちからは見えないな。


「ちょっと待ってください。大変なことが起きました」

「なになにーーー」

「どうも、あのモネの作品は贋作じゃないか、という連絡が入りました」

「ええーーーー」

「連絡をしてきたのは、贋作コレクターの第一人者の方です」

「えーーーー」

「とんでもないことが起きました!」


さすが『とんでも鑑定団』だな、なんて思っていたら、本当にとんでもないことらしい。


MCと永島先生とディレクターらしき男が協議を始めたぞ。


どうかな、龍之介が勝利なんていう間違った結果が覆るのか?

わくわく。


「番組で用意したモネの作品なんですが、贋作コレクターの方がいうには、展示されている美術館で見たことがあるそうです」

「それでそれで?」

「ファン・フォン・メールヘンっていう有名な贋作師が20世紀前半にいたんですが、その人の特徴が出ているっていうんです」

「えっ、でも。有名な美術館に収蔵されてるんのよねー。それが贋作!? なんか大変なことになりそうっ」

「そうなんですよ。いままでは真作と思われてきたんですが……これは事件です」


プロデューサやら、放送作家やら、裏方が出てきた。

わいわい、やっているだけで全然決まらない。


「えっと、すみません。時間になってしまいました。とんでも鑑定団、終わりになります」


生放送は終わった。


だけど、これって放送事故扱いになってしまうんじゃないのか。

ちゃんとした勝負の結果がでなかったしな。


番組が終わったあと、番組サイドのディレクターを中心として、参加した鑑定人達も含めて事後処理のミーティングをすることになった。


「なに言ってるんだよ。美術館が本物として認めているんだから、本物扱いでいいだろ」

「龍之介さん、言いたいことは分かります。番組としても本物として出した訳でして」

「だったら、私が正解でしょう。なんで私の優勝にならないんだ!」


うーむ。

この龍之介とかいう鑑定人。

やたらと勝ち負けにこだわるらしい。


まぁ、俺としたら勝ち負けはどうでもいいんだが。

俺の鑑定が間違っているというのは認められないがな。


「しかし、あれは贋作だ。俺の鑑定に間違いはない」


そこだけは主張しておくとしよう。


どう見ても、あの作品には、ふたつの心が入っているからな。

どっちの心もオーラが強いから、どういう作品なのかと思ったら、有名贋作家だったとは。


どうもミーティングの流れでは、俺の優勝という形になりそうだ。

まぁ、それが順当なとこだな。


文句を言っている龍之介には、なにか特別賞が出るということで話がまとまる流れになっている。


ガチャ。


そんな時、ミーティングルームの扉が開いた。


ミーティングルームの扉からは、いかにもADぽいのが入ってきたぞ。

なんかディレクターと話をしている。


「た、大変です。翔太さんに取材の申し込みが殺到しています」

「取材?」

「美術館も本物だと思っていた作品を贋作だと簡単に見抜いた鑑定人、翔太さんに取材申し込みがたくさん来ているらしいんです」

「取材か……面倒だな」

「面倒って! 駄目ですよ。生放送で全国に翔太さんの鑑定力を公開してしまったから。局の電話が鳴りっぱなしだそうです」

「それで、どうしたらいいんだ?」

「どうでしょう。翔太さんと番組を代表してディレクターの私が記者会見をしましょう」

「なんか面倒だな」

「そう言わずに。もう、ネットの中でも大騒ぎになっているみたいです。すでにヤホーニュースではトップ記事らしいです」


ADがもってきたノートパソコンでは、俺の写真とモネの絵がどアップになっている。


おい、なんだ、その俺のドヤ顔は。

そんな顔、番組の中でしたか?


「この騒ぎを納めるには、記者会見しかありません。あ、連絡をくれた贋作コレクターの方も後から来てくれるそうです」


どうも俺が面倒くさがっても駄目らしいな。


記者会見、やるとするか。


☆   ☆   ☆


急遽、テレビ局で記者会見会場が用意された。

いきなりなのに、テレビ局、週刊誌、夕刊紙、ネットニュース、ネットテレビ。


いろんな記者が集まってきたぞ。


記者会見と言っても、俺は何を話したらいいのか。

全然分からないから、記者の質問を受けることになった。



「それでは翔太さんに質問です。なぜ、あの絵がニセ物だと分かったんですか?」

「あー、アート作品にはな。オーラというものがあってな。本物なら芸術家のオーラが作品から出ているものだ」

「そうなんですか。あの作品にはオーラがなかったということですか?」

「いや、オーラはあったぞ。ただし、2種類のオーラだな。元の作品を描いたモネのオーラと贋作を描いた者のオーラが。元のオーラを引き継いでいるのだから、相当な贋作者だな」


なんか、記者達がどよめいている。


オーラの話は、スピリチュアル記事では定番だが、普通の記者にはどう受け止められるんだろう。

ただの怪しいおっさん化している気がするな。


「すると、翔太さんは印象派の鑑定の専門家ではないんですね」

「専門家どころか、印象派の作品鑑定は初めてだ」


また、どよめきが起きた。


さすがに、遺品整理だと印象派の絵は出てこないからな。

それっぽい絵が出てくることはあっても、まず印刷だからな。


「モネの鑑定を専門にしている人が、あれは本物だと言ったらどうしますか?」

「俺は、他の鑑定人の鑑定より、俺の鑑定の方が当たっていると思うぞ。もちろん、世間の評価がどうなるかは俺が決めることではないが」


この質問している美人な記者がどっちを信じるか、それは知らんが。

他のどうでもいい記者より、美人な記者に信じてもらいたいとは思うがな。


「あ、別の質問いいですかー」


後ろの方から声があがる。


記者会見の司会がその記者を指さして言う。


「はい、後ろの方、どうぞ」

「ヤホーニュースの記者です。ネットの中では翔太さん、すごい人気です」

「そうなのか。それはヤホーニュースがトップ扱いするからじゃないのか」

「いやー、うちはネットの中で話題になりそうなのをピックアップしているだけです」

「まぁ、そうか。それが仕事だからな」

「もっとも、うちのトップ扱いのネタでも、今回のは、とんでもなくバズる予想ですが」

「まぁ、それも仕事だろうな。がんばってくれ」

「はい。頑張ってバズらせますよ。で、聞きたいことと言うのは、鑑定アプリの話です」


鑑定アプリというのは、在真が作ったトークン結びで実現している骨董品の鑑定をスマホで見れるアプリだ。

コレクター向けのアプリで月額300円の利用料がかかる。


もちろん、それを作ったのも在真で、リリースしたのが俺の会社だ。


AIを開発すると決めてすぐに設立しておいた会社で「ショー・タイズム」が名前だ。

ショータイムズと間違われやすいが、語源がショータ・イズムだから、気をつけるように。


「鑑定アプリでは、鑑定人ランキングが出てきますが、翔太さんがトップなのは、何か特別なことをしているからですか?」

「あー、なんだ。ランキング?」

「えっ、知らないんですか?」


ヤバイ。

鑑定スタンドの方は骨董屋に営業したから、内容は把握しているがアプリは大してみていない。

あれは、勝手にダウンロードする形だ。


まだ本格的に広告する前だから、あることは知っているが内容は良く分からないな。


「すまん。そのあたりは開発担当者に任せてあってな」

「開発担当者は在真さんですよね。すごいプログラマーだと騒がれていますよ」

「ああ。あのシステムは在真がすごいだけだ。俺はただ、リリースしただけだからな」

「翔太さんはリリース会社の社長さんだというだけでなく、鑑定人登録していますよね」

「ああ。登録しているぞ。相当量の骨董品の鑑定をして、その内容を入れてあるぞ」

「それだけで、鑑定人のトップになったと?」

「ああ。たぶんそうだ」


記者たちがざわめきだした。

だって仕方ないだろう。


そもそも、そんなランキングがあると知らなかったんだからな。

ただ、在真が俺を特別扱いなどするはずがないと知っているだけだ。


そういうのを一番嫌う奴だしな。


「たぶん俺の鑑定が正確だと、在真の作った評価システムが考えたんじゃないか」

「本当ですか?」


質問しているおっさん記者。

どうも疑っているらしいな。


「まぁ、まだその件は確信がある訳ではないので、のちほど話を聞きにいくかもしれません」


なんか、厭な感じがする記者だな。

どうせ、政治家かなんかの後ろ暗いことを探ってばかりいるんだろう。


俺はそんな後ろ暗いことなどないから、そんなことを言われる筋合いはないんだがな。


おや、おっさん記者、ニヤニヤし始めたな。


きっと、バズる記事タイトルでも思いついたのだろう。

そんな表情だな。

まぁ、これ以上気にすることはないか。


次の質問は若い男の記者だな。


「もし、翔太さんの鑑定が正確なら、その鑑定アプリは骨董品の世界で革命を起こすんじゃないですか?」

「もちろんだ。そのために作った鑑定アプリだからな」


この若者記者は分かっているみたいだな。

在真が作ったシステムのすごさを、


「骨董品や美術品は、ネットでの流通が難しい商品のひとつなんです。それは偽物が多いからです」

「そうなんだよ。鑑定書がついていても、その鑑定書が本物なのか。そもそも、その鑑定人は信用できるのか、それが分からない」

「そうです。もし、骨董品を集めている人達が誰もが認める鑑定書があったら、ネットでも流通するってことですよね」

「そうだ。そのために作ったシステムだからな」


どうして家電やカメラがネット流通が当たり前になっても、美術品や骨董品は無理なのか。

今やファッションのようなものでも、ネット流通が当たり前になったのに。


骨董品には偽物がついてまわる。

そこを超えないと、流通が活発にならない。


そこを改善するために、鑑定システムが必要となる。


どこかの組織が管理するものでは駄目だ。

どうしても、組織に所属する鑑定士が有利になってしまうからな。


「もし、誰もが認める鑑定があれば、骨董品の世界は変わるってことですね」

「それは、違うな」

「えっ、どういうことでしょう」

「骨董品や絵画に限らないってことだ。鑑定が難しい物すべてが含まれるということだ」

「えっと。鑑定が難しい?…それはどういうことでしょう?」

「まだ、これからの話だから、何が含まれるのかは、自分で考えてくれ」

「えっと。。。分かりました!」


若者記者は納得したみたいだ。


もし、美人記者がふたりきりで俺の考えを教えて欲しいと言うなら、受けてもいいかなとは思うが。

男の記者だと答えはNOだ。


ちなみに俺が考えている一番鑑定が難しい物。

それは人間だ。


もちろん、人間そのものを鑑定システムに載せることはしないぞ。

少なくとも、今の段階ではな。

人権とかなんとか。

いろいろとうるさそうだからな。


しかし、スキルとか能力の部分なら載せることは可能だろう。

今の段階であっても、在真のプログラムならとんでもない鑑定システムができそうだしな。


その鑑定システムが完成して普及したら、会社という仕組みが変わるはずだ。

もしかしたら、サラリーマンという人種がいなくなるかもしれないな。


もっと緩やかな組織になって、適材適所が実現するんではないか。

そんなことを想像している。


少なくとも俺はそれを信じている。


ただ、まだマスコミ発表は早すぎる。

なんの形もできていない段階だから。


こんな話はまだ俺と在真の間で話しているだけだ。

もちろん、美人記者以外のマスコミ連中には話す気はないぞ。


その後も記者からいろんな質問が出た。

結局1時間ちょっとかかって記者会見は終わった。


期待した美人記者からの単独取材の話はこないままだった。



しかし、この日を境として。

想像もしていなかった展開が起きてしまったのだ。


今、バリ島移住を考えている。

もちろん、いきなり移住は問題多いから、まずは試験的に移住をする。


去年の12月には、1週間ほどの旅行だったけど、次は1カ月の滞在を予定している。

今度はバリ島で住むように暮らしてみる。


なぜ、バリ島を選んだのかというと。

基本的な考え方が違う。


日本って、評価のポイントが「ちゃんとする」だったりする。

決められたことをちゃんとできるとポイントが入る。


逆にそれができないとポイントは入らない。


日本的なポイント評価が僕に合っていないところがあるんだ。

もっとも、小説だと読者が面白いと思うかどうか、っていうのが評価のポイントだから好きなんだ。


もしかしたら、自分に会っているのはバリ島かもしれない。

そんな気がするから試してみる。


それが僕のバリ島移住なんだ。


実際はどうなるか分からない。

バリ島の人たちに受け入れてもらえるかどうか。


お互いにポイント評価していくのはこれからになるんだ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] あとがきに心が動いてコメントしました。本編面白くて気に入っています 現実がしんどいのでほっとできています 作者さんが面白いと思う作品をお願いします
[一言]  ご投稿お疲れ様です。  バリ島では基本的な考え方が違うとのことですが、日本ではちゃんとできるとポイントが入ると言っているけどバリ島がどうなのかは言ってないような。  逆説的に考えてまず…
[気になる点] おーーーー、バリ島移住・・・・なんか本気みたいなカキコですねえ。夢の暮らし・・・ あれ、もしかしてお酒と豚カツの無い暮らし・・・ インドネシアはイスラム国ですよねえ。 異教徒ならお酒も…
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