第49話 ところで人間の価値はどこで決まる物なのか
「一昨日のスカウト代です」
「1470万円も?」
「採用になった17人の合計年収1億4700万円の1割です」
「ええー、17人?」
思ったより採用になっているみたいだ。
20人のうち17人となるとすごい確率だな。
「しかし、俺が誘ったとき年収1千万円も夢じゃないって話をしているが」
「大丈夫です。ちゃんと昨日と今日の面接で待遇に了解をもらっていますから」
しかし、なんだ。
1億4700万円で17人というと、一人当たり年収865万円くらいか。
確かに高いがAIプログラマーの一線級の引き抜きだからな。
よくその程度で収まったな。
そこのところを聞いたら、 こんな答えだった。
「そうなんですよ。正直言うとトータル年収だと予算オーバーでして」
「だろう? 年収1千万円て10人って言っていたよな」
「ええ。だけど面接したら、すごいプログラマーが多くて」
「まぁ、俺のチョイスだから、そうなるわな」
「20人のうち10人が選べないって状態になりまして」
「それで17人か」
「ええ。残りの3人も採用したかったんですが、さすがに予算の1.5倍は無理だと言われて」
いくらAIプログラマーが足りないと言っても、それは無茶だろう。
会社というのは予算をしっかりと決めてだな…まぁ、そのあたりは常務の方が専門だな。
「だから、思い切って年収を800万円くらいで交渉したんです」
「200万円も落としたのか?」
「ええ。実は半分くらい断られるんじゃないかとドキドキでした」
まぁ、年収1000万円と聞いて行ったら200万円も値引きされたら、俺だったら断るぞ。
「それが、多くの面接者が『そんなにもらえるんですか?』って反応だったんです」
「あー、そういうことか」
暗黒オーラを出している奴らだからな。
元の待遇がひどかったのか。
「なかには、ほとんど休みなく残業たっぷりしているのに年収300万円って人もいたんです」
「それはブラックだな。もしかしたら最低賃金以下じゃないか」
「そうなんですよ。年間340日で平均12時間だって言っていたから、年間4080時間くらいだって言うんです。最低賃金だって400万円を超えるんです」
「だよな。それもAIプログラマーなんて引手あまたのはずなんだがな」
「なんか、妙に責任持たされて、ずるずると、なんて話をしていて。年収800万円で月間残業80時間までと言ったら、泣いて喜んでいました」
まぁ、ブラック企業にハマってしまう奴はいるからな。
ブラック企業の中では、それが当たり前になっていて感覚がマヒするんだろう。
「おかげで平均年収860万円ちょっとで17人の優秀なAIプログラマーが集まったという訳です」
「それはよかった」
そんな話をしていたら、酔っぱらった在真がこっちの話に紛れこんできた。
「おっさん。飲んでる?」
「おい、酔っ払い。邪魔するんじゃないぞ。そっちの女の子と仲良くやってろ」
「いやぁー、ここは楽しいところだから、そっちのおっさんにも楽しさ教えてあげなきゃなーと思って」
「おっさんじゃないぞ。日本一の企業、富田自動車の常務だぞ」
「ええっーーーー」
おっ、こいつ、意外と肩書に弱いらしい。
それまでの酔っ払いが急にシャキっとしたじゃないか。
「す、すみません。そんなすごい人だとは思いもよらず。失礼しました」
「いえ、気にせずに。翔太さんのお友達ですよね。おっさんでいいですよ」
さすが、一流企業の常務だけあるな。
偉ぶらないというのは、なかなかできないことでもある。
「あーら。みっちゃん。最近、ご無沙汰ね」
「ママさん。そう言うなよ。翔太さんのおかげで、仕事が絶好調なんです」
「すごいわね。みっちゃんにそこまで言わせちゃうんだ、翔太さん」
「いや、本当に翔太様々さ」
銀座のクラブというのは、気持ち良くしてもらえるところだと分かっていたが。
ついでに一流企業のお偉いさんにまで、よいしょしてもらえるとはな。
「ええっ、翔太さんはそんなにすごい人なんですか?」
「ああ。うちの会社、富田自動車の救世主さ」
「ええーーっ、本当ですか」
「えっ、この方はどういう関係で?」
むむむ。
難しい質問だな。
なんて答えようか。
「この人は天才プログラマーだ」
「なんと。翔太さんが天才だと言うんですか」
「ああ。これから俺と一緒に新しい世界を作ってくれる仲間だ」
「うわっ、すごいですね。よかったらうちに来ませんか?」
「駄目だ。こいつは俺が囲うことにしたからな」
「ええ、そうなんです」
うむ。
ただの飲んだ上の口約束であっても、心から言った言葉は下手な契約より強い拘束力を持つからな。
「さすが、翔太さんだ。天才プログラマを囲えるだけの力があるってことですね」
「おお。ちょうどいい。年収分を渡してしまおう」
そう言って、常務からもらった紙袋から2束取り出した。
「これで在真は一年間、文句言わずに仕事をするんだぞ」
「ええーー、天才なんでしょ。なんで年収200万円なんですか」
「えっと、まぁ。そういうことに決まったみたいなんです」
「そ、それでいいんですか。うちなら1200万円まで出そう」
「常務。目の前で引き抜きはちょっと問題だぞ」
思わず威圧スキルが発動してしまった。
「あ、ごめんなさい、ごめんなさい。つい、お買い得の人材を見たら…」
「お買い得どころじゃないぞ。捨て値で買ったんだ、俺が」
「さすが、商売上手です、翔太さんは」
「まぁな。しかし、本当にいいんだな。在真」
しかしまぁ。
本人を前に、お買い得とかはどうなんだろう。
ちゃんと確認しておかねばな。
「もちろんです。一流企業のお偉いさんにも対等以上に尊敬されている翔太さんを見ていたら、すべてを任せようと思います」
「それはよかった。正しい判断だぞ」
「そうですか? どうみても、ブラック企業化しそうだと思うんですが」
「それは常務違うぞ」
「何がですか?」
「俺と一緒に1年死ぬ気で開発したら、こいつの価値はとんでもなく上がるんだ。1年後は年収2憶円になっているぞ」
「ええっ、2億円ですか。本当ですか?」
「俺の人物鑑定が信じられないと?」
はっとした顔をした常務。
きっと初めてなのだろう。
俺に認められて恥ずかしそうに喜んでいる在真。
「もちろん、完璧に信じていますよ。もしかしたら、3年後。今日の夜を思い出したら。あの夜が始まりだったんだ、と思うかもしれませんね」
「それは、フラグというものか?」
「フラグというか、予言というか。なんとなく、そう思ったまでです」
この常務、思ったよりすごいスキルを持っているのかもな。
大きな流れを感覚的にとらえる。
俺は魔王を倒すまでの血のにじむような30年で得たもの。
それを最初から持っている人なのかもしれないな。
「まぁ、とにかく。未来に乾杯しよう」
「「はい」」
男3人とママさんと純ちゃん。
5人でガンガン飲みまくってしまった。
ブラック企業で働いてしまう人。
人情とか、約束とか。
そういうもので縛られてしまうものだったりする。
実は僕もそんな経験を持っていて。
何が重要で何がどうでもいいか、判断できるかどうか。
そこにかかっているんだ。
いらないものを捨てる覚悟。
僕はそれを断捨離で身に着けた。
まずは物から。
もったいないで残していた物を捨てることでさっぱりする。
新しい価値観をその時に身に着けた。
ただ、問題は捨てすぎてしまうこと。
そのあと、ときめき整理術で捨てるどうかの判断の仕方を教わった。
ときめくかどうか、単純なやり方で判断できるようになった。
捨てるか残すか。
やり続けるか辞めるか。
引き受けるか引き受けないか。
断捨離と、ときめきで決めることができるようになった。
で。
ポイント評価の小話を続けるかどうか。
コメントでウザイと言われたりする。
だけど。
妙にときめくんだよね。
「本文より力入ってないですか?」
そんなコメントをいただいたりする。
ときめく限り続けていくつもり。
ときめかなくなったらバッサリ辞める。
これはポイント評価される側も。
ポイント評価する側も同じだと思う。
ときめいたらポイント評価したらいい。
「そんなのやらん」というのがときめくなら、それもいい。
自分の中にちゃんと選択する基準を持つといい。
だから……ポイント評価して欲しいな。笑




