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第39話 どうしてポリシーが大切なの?

「ね。翔太さん」

「なんだ?」

「さっきの話なんだけど」

「あー。どれだ?」

「ニッキー達とのポリシーの話」

「ああ」


ひとつの布団に入った俺とカスミ。

まだ、眠いというほどではないし、エッチしたいという気持ちでもない。


なんとなくぼーっとしていたら、カスミが話題を振ってきた。


「なんで、ポリシーがあるってだけで勝てるって思うの?」

「ん? そうか。カスミは部活は運動部じゃなかったのか」

「うん。勉強ばかりしていたから、部活は入ってなかったの」

「なら、分かりづらいかもな。あれは、チームをまとめて、目標を達成するために必要なことなんだ」


あいつがいつも言っていたな。


「いいか。チームをまとめるのはシンプルな言葉だ。それがあるとないのでは結果が違ってくる」


最初は俺もチームを率いたことがなかったから、素直にあいつに従っていた。


しかし、慣れてくると反抗したくなったもんだ。


「言葉、言葉って、うるさいな。もっと大切な物があるんじゃないか?」

「それはなんだと思う?」

「実力だよ、実力。言葉がいくらあっても実力がない状態じゃ目標を達成などできないからな」


あのとき、賢者の魂が大人しく引いたのをおかしいなと思った。

実力のある奴らを集めれば、もっと早く目標達成ができる。


それができるだけの実績や金もあった。


「それなら、思うようにやってみろ」

「ああ、絶対、達成してやるからな」


あいつに認めさせたくて、がむしゃらに頑張ったな。

自分の鍛錬、仲間のスカウト、レベルアップスケジュール。


その結果、俺はダンジョン攻略の一歩手前まで来た。


「いよいよ、ラスボスだ。みんないいか、いくぞ」


そう言って突っ込んでいったら、仲間がついてこない。


ボス部屋の扉が閉まって、俺とラスボスだけ。


「どうした? 助けが必要のようだが?」


あのときの嬉しそうな賢者の魂の声、忘れられない。


「いいか、お前と私は魔王討伐というシンプルな言葉でつながっているんだ。見捨てるはずないだろう」



結局、賢者の魂の手助けで地獄の部屋から逃げ出せたんだった。


あれから、仲間をまとめるシンプルな言葉は絶対必要だと分かった。


「それじゃ、問題をだそう。あっちの陣営の言葉『元Jリーガーの技を見せる』というのは、誰に向けた言葉だと思う?」

「えっ、元Jリーガーでしょ」

「では、こっちの陣営の言葉、『楽しい試合をする』というのは誰に向けた言葉だと思う?」

「同じじゃん。元Jリーガーよね」

「そこが伝わらなかったようだな。あの言葉は元Jリーガーだけじゃないんだ。フットサルコートを運営している人、審判をする人、そういう人たちにも向けているんだ」

「あ、そうなのね。だから、仲間が多くなるってこと?」

「もっと大きな伝える相手もいる。8000円を出して参加するチームメイトもだ」

「あ。確かに。あっちの陣営の言葉だと、参加する人は『見る』であって、『見せる』じゃないわ」

「そうだ。あれは、運営側だけをまとめる言葉なんだ。それでは本当の力は発揮できない」


ん?

どうした、カスミ?


急に黙ってしまったな。


「もしかして…私もそうだったのかな」

「カスミが?」

「うん。受験に失敗して。ううん。その前からかな」

「高校のときか?」

「ううん、中学の時から。勉強するのが苦しくなって」

「勉強か。あれは苦しいな」

「小学校の頃は勉強が楽しかったの」


勉強が楽しい?

俺は小学校のときも、その後も。

勉強が楽しいと思ったことはないぞ。


「小学校の頃は100点取ると両親が喜んでくれたの。だから、がんばって勉強するのが楽しかった」

「100点を取るというのが、カスミも両親もまとめる言葉だったんだな」

「うん、そう。だけど、中学になったら100点とれなくなって」

「ああ。私立ならそうなるな。進学校なんだろう」

「うん。みんな頭がよくて。両親を喜ばせたくても、100点取れなくて」

「そうなると、勉強するのが辛くなるな」

「そうなの。だけど両親はいうのよね。いい点を取って、いい高校へ行けって」

「その言葉。両親の目標につながる言葉ではあっても、カスミの言葉では無くなったんだな」

「そうなの」

「だけど、両親を恨むなよ。両親だってお前が苦労しないように言っていたんだろうからな」

「分かってはいたけど、駄目だった。勉強しなさいって言葉、嫌いになって、それを言う親も嫌いになった」


あんまり自分の話をしないカスミが今日はよく話す。

おさえていたものを吐き出すように。


「そうなると自分も嫌いになっちゃった。唯一好きだったのは、彼氏。それも東京に来て嫌いになっちゃった」

「あー、それは俺も共犯者だな」

「ううん。違う。あれは私の気持ちに翔太さんが協力してくれただけ」

「まぁ、そうとも言うな」

「自分もみんなも嫌いになって。ぽつんとホテルの部屋にひとりでいたの」


その前の話はカットなのね。

まぁ、良く知っているから、大丈夫だ。


「あー、そうだったな」

「あの時思ったの。あれ、ひとりだけ好きな人、いるじゃないって」

「・・・」

「うん。翔太さん。私のために、味方になってくれた翔太さん」


いや、あれはただの悪乗りだった。

魔王を倒したのに、こっちに戻ってしまって。


たまたま、そういう流れになったから、悪乗りして。

まぁ、そんな話をするタイミングじゃないし。


黙っているとしよう。


「そう思ったら。元彼も親も許せてきたの」

「それはいいな」

「だから、翔太さんが大好きって話」

「よせよ、照れるだろう」

「うふふ」

「それなら、親にメールの一本も送ってやれよ。まだ何も言っていないんだろう」

「うん。メール送ろうかな。女がいる男の人と暮らしています、って」

「おいっ」

「冗談よ。とっても優しい大人の人と一緒に暮らしています、かな」

「それがいいと思うぞ」

「とっても幸せですって書いちゃおうかな」


うーむ。

本当に幸せなのか?


俺と暮らすのが。


まぁ、いろいろと突っ込みたい気持ちもあるが、さすがに控えておこう。


「・・・」

「・・・」


それからふたりは黙ったままだった。


口を開くより、どちらからとも分からないまま。


手を握りあった。


そして。

熱い夜になった。


「もう離さないわ」

「ずっと一緒だよ」

「いままでは別々だったけど、これからはひとつになるのね」

「そうだ。そしてこれからずっとひとつのままだ」

「うれしい」

「それじゃ、いくよ」

「はい」

「「評価ポイント合算」


こうしてふたりは仲良く暮らしていったとさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気に読み切りました。面白かったので評価入れて置きます。元上司・・・何時、職場辞めたのかね。
[一言] バブルぐらいまでの日本のホテルが団体客向けにしか作られていなくて、部屋は大きいけどつくりは雑で、飯は冷めてまずいものばかりで個人やファミリー客は外資系や海外のホテルなどにどんどん奪われていっ…
[良い点] >「「評価ポイント合算」 サ◯ラ大戦の合体技を思い出した(笑)
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