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第31話 隠れ家と居場所ってなんだろう

「ここは?」

「私の隠れ家かしら」


あまり目だだない銀座の裏通りにある雑居ビル。

この7階にそのバーはあった。


「いらっしゃいませ。おや、男の方と一緒ですか。珍しいですね」


そのバーはカウンターだけで7席ほどだ。

カウンターの中には、40歳手前くらいのマスターがひとりだけいる。


先客は若い女性と年配の男のカップル。

たぶん、水商売の女と客だろう。


「マスター、いつもの」

「はい。お連れの方は何にしましょうか」

「何があるんだ?」


正直、こんなバーには初めて来たから何を頼んだらいいのか迷うな。


「カクテルなら大抵の物はつくれますが」

「それでは、レインボーを頼む」


たしか、何かの映画に出てきたカクテルだ。

7層になって綺麗なカクテルだ。


「レインボーですね。かしこまりました」


まずはママさんのカクテルが出てくる。

グラスにライムのイチョウ切りがたくさん入ったカクテルだ。


「それは?」

「カイピリーニャよ。甘いけど強いカクテルね」


俺のカクテルは手間が掛かるな。

7つの酒を重たい順に静かに入れていく。


今、4つ目。


「ママさん。お先にどうぞ」

「ううん。乾杯してからにしましょう」

「その方がいいなら、そうしよう」

「それと、ママさんはよして。みおって呼んで欲しいわ」

「澪ちゃんか」

「うふふ。ちゃんづけされるの久しぶりだわ」


そんな話をしていると俺のカクテルが出来上がった。

ロンググラスに7色の層になったお酒。


「それ、どうやって飲むの?」

「俺も知らんな。普通に飲むか」

「細かいことは気にしないのね」


澪ちゃんと俺は乾杯をしてカクテルに口をつけた。


「ここはね。仕事を離れてひとりになりたいときに来るの」

「俺と一緒じゃ、ひとりになれないな」

「いいの、翔太さん別ね。澪として一緒にいたいと思う男だから」

「本気にするぞ」

「本気よ」


澪ちゃんと見つめあう。

不思議な感じが伝わってくる。


なんだろう、この感じは。


「なんだよ、無理に決まっているだろう。魔王討伐なんて」

「そんなことはないさ。あるさ、細い道だけどな」

「細いとかそういうんじゃなくて。限りなく遠いじゃないか」

「そう、細くて遠い、ただひとつの道」

「本当にそんな道があるのか!」

「あるさ、ジョータなら必ず見つけることができるさ」


なんで、あいつのことを思い出すんだ。

それも、初期の頃。


夢の中でしか話はできない賢者の魂。

おれの異世界での30年を己の目標のために奪ったあいつ。


「どうしたの?」

「いや。ちょっと嫌な奴を思い出してな」

「そう? なんか、懐かしい人を思い出しているような顔をしていたわ」

「そんなことあるか!」


しかし、なんで澪ちゃんと話していてあいつを思い出すんだ。


「まぁ、いいわ。せっかくふたりきりだから、ふたりの話をしましょうよ」

「そうだな」


いかん。

こういう状況はあまり経験していないぞ。


女性と交渉するならずいぶんと経験した。

恋の勝負もたくさんやってきた。


女性を落として魔王討伐の協力者にする。

思い返せば、ずいぶんなことをしてきたな。


しかし、今はそんな必要はない。

ただ、男と女として、落ち着いたバーで話しているだけだ。


「あまりしゃべらないのね」

「いや。こういう空気は慣れてないからな」

「そんなことないでしょう。ずいぶん女を泣かしてきたんでしょう」


まぁ、それは当たりだな。

もっともそれは、すべて賢者の魂の指示に従っただけだがな。


「まぁ、あるとも言えるし、ないとも言えるな」

「そこなのよ! 翔太さんが気になるのは!!」

「はぁ?」

「本当はどうなのか。見通せなくて。私、人物鑑定には自信があるのよ」


あー、そうだろうな。

銀座のママさんを長年やっているんだから。


人物鑑定スキルくらいは身に着けているだろうな。


「それなのに、翔太さんは分からない」

「そんなに複雑か?」

「お店では、分かった気がしたの。優秀な技術系で本来は内気な性格」

「おっ、当たっているな」

「だけど、人間関係で悩んだことがあってそれを乗り越えて」

「うーむ。そこまで読むか」

「そして俺様系を表面に出している」

「あー、それはどうだろうか」


勇者をしているうちに、それが当たり前になってしまったからな。

特別な気遣いが必要ない相手は、俺様系が周りが一番しっくりくると思ってな。


「だけど、フットサルを見てすべてふっとんでしまったわ」

「そうなのか」

「どう見ても、運動万能なんて見えなかったもの」


あー、身体付きが違うからな。

戻ってくる前だったら、どう見ても運動万能にしか見えない鍛えた身体だったからな。


「常務すら認める天才技術者で、元Jリーガーさえ手玉に取るフットサルの上級者。ううん、フットサルだけじゃないでしょう。どう見ても武道の動きもしていたわ」


武道か。

ちょっと違うな。

剣士としてのたしなみだな。


「どれが本当の翔太さんなのって。その上、あっさり純ちゃんを落としちゃうし」

「あ、バレてたか」

「そりゃそうよ。翔太さんが来た時の嬉しそうな顔。純ちゃんがあんな顔するなんて。純ちゃんは若いけどプライドが高い女だったのよ」

「そうかな。意外とすぐ落ちたぞ」

「それは翔太さんだからよ。他の男じゃ落ちないわ」


それはやっぱり、勇者の魅力なのか。

魔法的なものは残っていないと思うんだがな。


「まぁ、いいじゃないか。謎が多い男は嫌いかい」

「謎が多いって。多すぎるわ」

「そんなに簡単に分かる男が好きなのか?」

「分からなさすぎるわ」


澪ちゃんはかわいいな。

自分の気持ちをストレートにぶつけてくる。

裏も表もなく。


「俺もまだ自分が今、どこに向かっているのか分からないがな」

「もしかして。翔太さん自体、分かっていないの?」

「そうかもしれないな」


澪ちゃんは黙ってしまった。

俺の事をじぃーっと見つめている。


ちょっと照れるな。


「分かったわ。もう探るのはあきらめたわ」

「それがいいな」

「ただ、ひとつだけ質問させて」

「いいぞ」


ん?

澪ちゃんが考え出した。


どうしたのか?


「そうね。今、一番知りたいこと」

「なんだ?」

「翔太さんが今、必要な物とか、必要な人とか。そういう、何かはないの?」


必要な物、そうだな。

うん、あれかな。


「一億円ほど投資してくれるスポンサーかな」

「一億円?」

「ああ。実はフットサル事業を成功させるために、それだけの投資が必要なんだ」

「なら、翔太さんの未来を信じて一億円を投資してくれる人ね」

「ああ、そうだ」


また澪ちゃんが考え出した。

おっ、何か閃いたらしいぞ。


「いい人がいるわ。会ってみる?」

「一億円投資してくれそうなのか」

「それは分からないわ。だけど、そのくらい余裕で出来る人よ」

「どんな人だ?」

「あー、性格はあまりいいとは言えないわね。うちの客だけど、面倒くさいとこがある人」

「別に性格はどうでもいいが。投資家か?」

「そう、いろんな投資をしていて、運用資金がすごいことになってるみたい」

「それは会ってみたいな。セッティングしてくれるか」

「いいわよ」


しかし、そんなに簡単に知らない男に投資するものか?

澪ちゃんの紹介だとしても。


「前から、いい投資話があったら教えてくれと言われているの」

「おいおい。いい投資話じゃないだろう。俺の話は」

「ううん。最高にいい投資よ。間違いないわ」


どうして、そこまで信じてしまうんだろうか。

まだ、俺はこっちの世界に戻ってきて一カ月の男だ。


向こうなら、そのくらいの投資をする貴族は掃いて捨てるほどいたがな。

こっちでは、まだ、投資してもらえるだけの実績は残していないぞ。


「その一億円を投資したら、何倍かにして返してくれるんでしょう」

「いえ、何倍ではないな」

「何倍はさすがに無理かしら。でも、何年かしたら……」

「いや、最低30倍にはなるな。うまくいけばその10倍は1年の内には見えてくるはずだ」

「ええっ」


おっと、また、分からない男になってしまったか。

本来の数字は、1兆円超えだからな。


「まぁ、うまく行ったらの話だがな」

「なにか考えているのね」

「ああ。新しい物をちょっと作ろうと思ってな」

「どんな物?」

「AIだな。そんなに難しくない。最初の投資は1億円あればスタートできるくらいのな」

「よくわからないけど。翔太さんの作るAIはすごい物なんでしょう」

「たぶんな」


俺が考えているAIは、まずはフットサル・マッチングに使うAIでしかない。


当然、それでは大した利益を生む訳ではない。

だが、その基本法則は、爆発的に利用法が広がっていくはずだ。


それが成功したら、今のネット中心の成功企業、GAFAの4社を超える企業に発展する可能性がある。


俺が考えているAIは、適材適所を生み出すAIだ。

ネットの次にくるのは、人材活用になるはずだ。


今、一番成功している企業がネットと流通を融合した企業なのだから、それを超えるためにはもうひとつ要素がいる。


もちろんAIは当然入るパーツでしかない。

もうひとつプラスするのが人材というパーツだ。


それがうまく有機的に組み合わせることができれば、GAFAの上を行く、新世代の企業になるはすだ。

そのためのスタートアップ資金として、1億円。


「わかったわ。何がなんだか分からないけど。翔太さんだけは本物だからね。信じることにするわ」


ふう。

なんか、思っているのと違う方向に行ってしまったぞ。


これはまた、据え膳かと、下衆ゲスな考えをしていたんだがな。

投資の話だったのか。


「じゃあ、ひとつだけお願いがあるの」

「なんだい」

「投資家を紹介する紹介料が欲しいの」

「いくらかな」

「ううん。お金じゃないの」

「だったら、なんだろう」

「翔太さんの身体ね」


おーっと。

やっぱり、据え膳だったのか!


主人公が鑑定した愛田みっつ男の掛け軸にこんなことが書いてあった。


「入れたっていいじゃない。評価ポイントだもの」


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― 新着の感想 ―
[一言] 知り合いの 間光夫が 入れたっていいじゃない 穴だもの と言っていた
[一言] AIのバグの調査に協力した自動車会社の常務が一億くらい簡単に融資しそうだと思いますね。
[一言] レインボーカクテルって 作る側もだけど、飲む側にもいろいろ要求されるカクテルで 崩さずに、お茶目に、わざとらしくなく飲むのは 結構大変だとおもいます。 混ざらないように、だからといって、スト…
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