第26話 俺は元Jリーガーのブランドを活用した
俺はニッキーも含めて元Jリーガー3人と会っている。
場所は個室があるレストラン。
個室だから、周りの目を気にしないで話ができる。
ニッキーが連れてきたのは、俺は名前も知らない元Jリーガー。
ニッキーは40歳を越えているが、後のふたりは30代と20代だ。
「3人とも、元Jリーガーなんだよな」
「ええ。僕は高校卒業してプロになって、6年ほどプロに在籍していました」
そうか。
6年で除籍になると、まだ20代半ばということだな。
「しかし、プロでやってきたんだから、サッカー関連の仕事はないのか?」
「ニッキー先輩のような実績を残した選手ならコーチとかいろいろな道がありますが、僕くらいの経験ではコーチをやっても教えて欲しいという人は少ないんです」
「それで翔太さんに相談したいんだ。常務がすごい人と言うから、もしかして、何かいい方法を知っているかと」
そう。
ニッキーの相談は、Jリーガーを引退した後輩たちのこと。
いくらプロのサッカー選手をしていたと言っても、実社会では通用しない。
ほとんどの仕事では、プロで活躍していた期間は、実務上何も役立つことをしていなかったとして扱われてしまう。
「フリーターをしていたのと同じ扱いなんです」
20代男は、寂しそうな顔で言う。
「そうなんすよ。まだ、若ければ新しい道を探すこともできるんですがね。僕みたいに30後半だともっと厳しくて」
30代男が言う。
「しかし、プロで活躍してきたというなら、根性はあるんだろう」
「もちろんです。アスリートとして評価してもらえるんなら、普通のサラリーマンには負けません」
「そうすよー。運動とかならいいんだけど。仕事としての評価だと、認めてもらえないんすよ」
確かに今の会社は、即戦力を求める傾向があるな。
フットサルなら、昨日のチームメンバーに負けることはないだろうが、仕事としてみたら間違いなく彼等の方が上だ。
「もちろん、教えるのがうまいとか、ビジネスセンスがあるとか。サッカー以外に能力がある人ならいいんです。お店をやっている元Jリーガーもいれば、サッカースクールを始めたのもいます」
「すると、この3人はサッカー以外の能力がみつかっていないってことか」
「みつかっていないというよりも、そもそもないんすよ。根っからのサッカーバカ、すよ」
うん、30代男が一番、バカっぽい話し方をするな。
それじゃ、普通の会社の面接で落とされそうだな。
「実は、昨日1日、サッカーやフットサル業界をネットで調べてみた」
「どうでした? いい情報とかありました?」
ニッキーが喰いついてきた。
たぶん、ニッキーが一番俺に期待をしているのだろう。
「いい情報というんじゃないが。フットサルの業界もあまりよくないな」
「そうなんですよ。5年前に比べてフットサル人口が半減しているって言われてて」
ニッキーは名前を知られている元Jリーガーだから、フットサルチームのコーチや指導を頼まれるらしい。
それでも、すごく収入が多いとはならない。
名前を知られていない元Jリーガーでは、コーチの話も自分で動かない限り来ることはない。
「だけど、フットサルコートは増えているんだよな。要はチャンスはあると思う」
「何をしたら、そのチャンスというものをゲットできるんでしょうか?」
「俺に作戦がある。協力してくれるか?」
「もちろんです、な、みんな」
「必要なら言ってくれっす。元Jリーガーなら一杯いるっすから」
うん。試してみたいことがある。
それは、個サルと呼ばれる業界のこと。
個サルというのは、個人フットサルの略で、チームに属さないでフットサルを楽しむ人のこと。
時間と場所と料金を決めて、フットサルを楽しみたい人達を業者が集めて試合をする。
チームに属すほど熱心ではないが、サッカーの試合を楽しみたい人向けに用意した方法だ。
最初はフットサルコートを運営している会社が始めたのだが、今はイベント会社も参加している。
個サルが始まったことで、一気にフットサル人口は増えた。
しかし、長続きしなかった。
フットサルをしたいと言っても、どんなスタイルでフットサルをしたいか人によってさまざまだ。
本気でやりたいガチ勢と、楽しくやりたいエンジョイ勢が大きく分ければいる。
ただ、ガチにしろ、エンジョイにしろ。
もっといろいろと別れてしまうというのがある。
フットサルがチーム戦である以上、チームメイトとの関係が、フットサルをした後の満足感に大きく影響する。
それのコントロールは、参加者任せというのが実際のとこになっている。
だから「思ったほど楽しくない」というのが、フットサル人口が半減してしまった理由なのだろう。
それを知って、俺はひとつのアイデアを思い付いた。
「元Jリーガーと楽しむフットサル」
ガチ勢向けがいいのか。
それとも、エンジョイ勢向けがいいのか。
そこは分からない。
しかし、プロの世界を一緒に体験してみたい。
そう思う人もいるんではないか。
それがアイデアの元だ。
そして、普通のサラリーマン以下の仕事しかない元Jリーガーがたくさんいる。
さらに、コートは空きがある。
きっとコートの空きを埋めたいという運営会社も多いだろう。
俺はこの線で計画を立てて元Jリーガーの協力の元、イベントを実施することにした。
いよいよ新しいビジネスが始まるよ。
「そんなに簡単にうまくいくのか」
と思ったら。
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