第24話 元Jリーガーの悩みを聞いてみた
打ち上げの居酒屋では、両チームのメンバー及び応援の女性3人。
おまけで他のコートでフットサルをしていた観客たちも一緒に来た。
全部で23人にもなった。
さすがに一緒の席にはならず、3つに分かれて座った。
俺にはニッキーが完全にマークしていて離してくれない。
俺が何をしたのか聞くまでは帰らない。
そんな顔をしていた。
もうひとつ俺をマークしているのが純ちゃん。
ママさんもマークしたそうな顔をしていたが、相手チームが車屋の専務だと知って常務と専務の席に座っている。
俺に対する興味より、お店の営業ということだな。
「どうせ、全部教えろと言っても無理だろ」
「なんのことかな」
「どうして、元Jリーガーの僕を翻弄できたのかい?」
まぁ、適当な話をすることにした。
「でも、すごいわ、翔太さん。Jリーガー以上なのね」
「まさか。ニッキーの全盛の頃だったら、勝てやしなかったよ」
「本当か? 今のJリーガーのトップ選手でも勝てるんじゃないか?」
「そんなことはない」
当然あるがな。
それは言うのはやめておこう。
「でも、なんでニッキーさんはこんな草フットサルの試合に出ることになったの?」
おっ、純ちゃん、ナイスサポート。
俺への質問をカットして、俺も聞きたいことを直球で聞いてくれる。
「それがな。元Jリーガーと言っても、今はただの失業者だからな」
ニッキーの話を聞いたら、なかなか暗い話だった。
5年前はフットサルが人気になっていたので、コーチやら講習会やら。
いろいろとお呼びがあったらしい。
ところが今はフットサル人口が半分に減ってしまったようだ。
「それじゃ、コーチの仕事も減ったのか?」
「ああ。新しいチームができていないから、減る一方でね。トップ選手ならCMに出ていたりするが僕くらいのは全くないし」
「それでこんな草試合の助っ人か?」
「ああ。呼ばれて、それがお金になるなら何でも参加するよ」
うーん。
アスリートって、意外につぶしがきかないと聞いたことがある。
力士が引退後、ちゃんこ屋をするのは、そのくらいしかないって話をどこかで読んだな。
「ね。翔太さん。ニッキーのこと、考えてあげて」
「おいおい。いきなり何をいうのか」
「だって、常務さん。翔太さんが人の活用がすごいうまいって言ったわ」
「そういえば言われた気がするな」
「あの常務さんの丁寧な言葉に騙されちゃ駄目よ。本当はすごい切れ者なの」
「そうだろうな」
もちろん、そのくらいは鑑定などしなくても分かる。
俺のことをスカウトするくらいだからな。
「その常務さんが舌を巻くくらい人を活かすことができるって言うのよ、翔太さんは」
「本当なのか。もし、そうなら、僕も含めて元Jリーガーの仲間も助けて欲しい」
だんだんとお酒が入って、口が軽くなっているみたいだ。
初めて会って、それも敵側で、そのうえコテンパンにされた相手なのに。
「面白いかもな。明日1日くらい考えてみて、明後日話をしよう」
「それなら、仲間も何人か連れていっていいかな」
「そうだな。どちらかというと頭を使うのがうまい選手をあと4人くらい連れてきて欲しいな」
「わかった。よろこんで集めさせてもらうよ」
元Jリーガーというのも、才能を活かせていない人たちだな。
もっと、活躍できる場があるはずなのにな。
そう思うともう、頭の中でプランがいくつも出来上がってくる。
ただ、あまり情報もないこともあるし、今は頭の中でしまっておこう。
「ありがとう、翔太さん。私の願い聞いてくれて」
「えっ、まあ。気にするな」
「そうはいかないわ。銀座の女というのはちゃんと恩は返すのよ」
「そうなのか」
「うん。ママの教えなの。それで銀座で20年やってきたってね」
「それはいい教えだな」
「だから、今夜。どう?」
おいおい、今夜どう?ってなんだ。
まさか、あっちの話じゃないのか、
「もしかして。夜通しフットサルをしようというお誘いじゃないよな」
「そんな訳ないでしょ。翔太さんは私みたいな女、興味ない?」
「興味、バリバリあるぞ」
これは据え膳だと思っていいな。
据え膳も、食事も残してはいけないというのが、賢者の魂の教えだからな。
「ほら、みんな楽しそうにやっているし」
ニッキーはもう、明後日の話を仲間に伝えるために電話しまくっている。
カスミは車屋の若手に囲まれて楽しそうだ。
彼らからしても、カスミは美少女だろうからな。
常務と専務とママさんは、楽しそうにしている。
「ね。抜け出さない?」
「ああ。いいぞ」
「やった!」
うん。
誘いは素直に乗るのが基本だな。
特に綺麗な女性の誘いはな。
元Jリーガーは大変らしい。
元勇者は、お気楽だけどね。




