第15話 カレー勝負の審査員として参加したぞ
「なかなか本格的なインドカレーだな」
今、俺は婆ちゃん達のカレー対決に審査員として参加している。
俺だけじゃなくて、会社で俺の下でデバッグを手伝ってくれた男とその知り合い達もだ。
手伝いの男はグルメブログをやっていて、週末になるとあちこち食べ歩いていてブログにアップしている。
ブログ読者には同じようにグルメブログをしている友達もいて、誘ってくれたのだ。
「本当に。スパイスを炒めて作っているのね」
カスミも来ていて、俺の隣でカレーを食べている。
インテリ婆さんの作ったカレーだ。
2種類のカレー、サフランライスを添えて。
そんな感じのカレーだ。
今回のカレー対決は、男が仕事をしている日のランチに食べるならどっちがいいか。
そんなテーマが決まっている。
普通のランチだから、800円程度で出せること。
それが条件なんだ。
「プロが作ったのと違いを感じないな」
「そうね。一瞬、インド人シェフかもと思ったわ」
うん、カスミもグルメサイトの男達も、本格的なカレーでびっくりしている。
「どう? バルモントカレーと違うでしょう?」
「本当にそうだな。本格的なインドカレーだ」
「ナンが欲しくなるわ」
インドカレー屋いくとナンが基本だったりする。
ただ、ナンを焼くには専用の窯がいるって聞いたことがあったな。
「それでは、もうひとつのカレー、やみつきカレーです」
こっちは隣の婆さんのカレーだ。
やみつきとはなかなか強気で出てきたな。
バルモンドカレーだと、やみつきってほどにはならないな。
母さんが作ってくれたカレーってとこか。
「うん。見た目はそのままバルモントカレーだな」
本格インドカレーの後だから、余計にそう思う。
それをみてインテリ婆さんはすでに勝った顔をしている。
「どれどれ」
一口、カレーを食べてみる。
あれ? ガツンと来たぞ。
「これって、バルモンドカレーじゃないだろう」
「いや、ルーはバルモンドカレーを使っているよ」
辛さもなかなかだが、辛さだけじゃない。
酸味も感じられるし、甘味も感じる。
「肉は豚か?」
「豚だよ。普通のね」
分からん。何が入っているんだ、このカレー。
ルーがバルモンドなら、隠し味がいろいろと入っているということか。
「よかったら、これをトッピングしてけれ」
青菜の炒めた物が別添えで用意されている。
「これは?」
「大根の葉だよ」
なんでもテレビでやっていたのを試したらカレーに合うのでトッピングとしていつも用意しているとのこと。
「これも、うまいな」
「だろう」
隣の婆さんも満足げだ。
「なによ、たかがバルモントカレーでしょ。スパイスからちゃんと作ったカレーに敵うはずないわよ」
そんなことを言って、味見させてもらっている。
「!」
やっぱり、うまいんだろう。
バルモンドカレーとは別種の物になっているぞ。
それぞれがインテリ婆さんの本格インドカレーとバルモンドカレーを味わった、ということで。
「それでは、どっちがランチに食べたいか、選んでくだされ」
進行役の婆さんが宣言をした。
審査員は俺とカスミ、グルメサイトの男達3人、インテリ婆さんの知り合いの若い男4人。
それぞれ、赤と青の丸い印がついている棒を持っている。
インテリ婆さんが赤で、隣の婆さんが青。
ランチで食べたい方を上げる。
「それでは札をあげてください」
俺は迷わず青だ。
インテリ婆さんの本格インドカレーもすごいとは思うが、ランチで食べるならバルモンドカレーの方だ。
「決まりました。全員、青だ」
なんと、全員一致か。
まぁ、わからんでもないがな。
「なぜ? 私の作ったのが美味しくないっていうの?」
「あー。確かにまずい訳じゃないが。それなら、インドカレー屋で食べるな」
そう。
インドカレー屋なら、最近はあちこちで見かける。
ひとつの駅の近くに何軒もあったりする。
そこで食べる方がうまそうだ。
「本格インドカレーなんだから、似ているのは仕方ないじゃない!」
「いや。似ているのはカレーだけだ。俺はインドカレーはナン派だからな。ナンの付かないインドカレーは無しだ」
「あ、それ、俺も思った。ランチでカレーだと900円くらいでナン食べ放題っていう店があるしな」
「なによ。じゃあ、このバルモンドカレーがいいというの?」
「そうなんだよな。なぜか、これ、美味いんだよな」
やみつきって名前がついているのが分かる気がする。
なぜかインパクトあるカレーに仕上がっている。
「これ、何が入っているの?」
隣の婆さんにカスミが質問している。
作り方を教わって、自分でもつくろうというのか。
へぇ~とか、嘘とか。
いろいろと騒いでいるな。
ちょっとカスミにまとめてもらい、どういうカレーなのか発表してもらおう。
「このカレー、元は肉じゃがなんですって」
「肉じゃが?」
肉じゃがを作った翌日、バルモンドカレーのルーを入れてカレーにする。
それが隣の婆ちゃんカレーのスタートらしい。
そこから、さらにトマトジュースとすりおろしのニンニクとショウガのチューブのものを入れて、一味唐辛子を入れる。
それも、ガツンと来るくらいに。
ただ、それをすると辛く感じすぎるから砂糖で調整。
「えっ、砂糖が入っているのか? この辛さで?」
「辛くておいしく感じるのは砂糖が入っているからだな」
グルメブログの同僚も驚いている。
自分でも料理するから、レシピにも詳しい男なんだがな。
「まぁ、今となったら肉じゃがとは全く違う物になっているが」
そりゃそうだ。
こんなにガツンと来る肉じゃががあるはずない。
「子供や孫が喜ぶ味を追求していたら、こうなったんだ」
隣の婆ちゃんの料理はそういうものらしい。
もっとも、孫ももう成人しているから、ガツンとした物が受けるらしいな。
「婆ちゃんなら、食堂をやっても人気になる気がするな」
「そうそう。私も応援しちゃうわ」
「僕らもブログで紹介するよ」
みんな隣の婆ちゃんの料理に興味があるらしい。
対して、インテリ婆ちゃんは誰にも興味持たれていないらしい。
「何よ。ちゃんとした料理が分からない奴らね」
そんな捨てセリフを残して、インテリ婆さんは帰って行った。
俺は本気で隣の婆さんが店をする気がないのか、聞いてみた。
「ない訳じゃないがなぁー。お店の開き方なんてわからんし」
面白そうだな。
一度、試しでお店を開いてみようか。
婆さんと真面目にそんな話をしてみることにした。