第12話 お宝の山を鑑定することに
「また、遺品整理屋の社長から電話があってね」
「じゃあ、今日はお手伝いなの?」
「いや、夕方だけで良いらしい」
カスミちゃんに骨董品を売った半額の29万円を持っていってもらった。
そしたら、また、骨董品の買い取りのお誘いをもらった。
それも今回はすごいぞ。
なんと、倉庫一杯の骨董品だと言う。
「なんでも、仲間内の共同倉庫で骨董品をはじめ、高い値が付きそうなものを集めているらしいぞ」
「ええーっ。じゃあ、宝の山じゃない! 一軒の蔵で58万円なら、そこにはいくらの骨董品があるのかしら」
「楽しみだな。一緒に行くか」
「うん!」
その倉庫は千葉県の外れにあるらしく、前回の蔵からの骨董品は俺が買い取ってしまった。
今日の朝から遺品整理で骨董品を引き取ることになっているという。
「俺の愛車で向かうとするか」
「あー。ボロボロの軽ね」
そうだな。
バグ取りで400万円も入ったし、もうちょっと良い車に変えるか。
こいつは6年落ちを10万円で買った車だし。
「そのうち、新しいのを買おう」
「本当!? じゅあ、今度は赤いの」
「俺が運転するんだから、赤は無しだな」
「ちぇっ、ケチ!」
☆ ☆ ☆
「おー、よく来たな」
「ああ。またお宝を楽しみにしてた」
「今度はすこいぞ。まずは倉庫だな。その後、今日の収穫も観てくれ」
「了解だ」
基本的には買い取り価格の山分けという形で俺が気に入った骨董品を預かる約束だ。
前回ので、山分けであっても、自分が売るより高く売れると分かったらしい。
「本当に、骨董品屋はとんでもない奴らだ。すぐに足元を見てきやがる」
この倉庫は、仲間の遺品整理や不用品買い取り業者が10社集まって借りている倉庫だ。
仲間内に話して、俺が買い取りできるようにしてくれたらしい。
買い取り金を半分渡した効果が出たな。
「もう、仲間3人が集まっているぞ。来ていない仲間の分も含めて、倉庫の中の物はすべて買い取り可能だ」
その倉庫はでかかった。
たぶん400坪を越えているんではないだろうか。
こういうのは、ドキドキするな。
中に宝の山があると分かっている。
ドラゴンを倒した後、宝がある部屋に踏み込んだとき以来のドキドキ感だ。
ドアから入ると体育館のようなだだっ広い倉庫の中に、骨董品やら古道具やら沢山、入っている。
赤色のテープでブロック分けしているのは、所有者が誰か分かるようにしているらしい。
「あれ?」
「どうした?」
「いや、なんでもない」
正直、がっかりした。
まだぱっと見だけど、あまり良いものはない感じがする。
はっきり言ってガラクタだらけの感じがする。
「このエリアがうちの骨董品だ。どれを持っていくか?」
「えっと……」
これは見事だな。
見事に無価値な骨董品だぞ。
なによりもオーラがすごい。
偽物オーラが半端ない。
どうして、こんなに偽物ばかりなのか?
「これなんかどうだ? ここにサインがあるだろう? 調べてみたら有名な明治の日本画家みたいだぞ」
「あー。駄目っぽいな。これは価値ないみたいだぞ」
「嘘だろう? じゃ、こっちは?」
そんな感じで見せられた物をひとつひとつオーラ見をしたけど、偽物オーラしか感じられない。
中には本物ぽいオーラがある骨董品があるが、パワーが強くない。
たいして実力がある人が作ったものではないのだろう。
安物オーラが出ている。
「おいおい。これだけあって、価値がある物がないというのか」
「ズバリ言うぜ。ここにあるのは偽物と安物だよ」
社長は落ち込んだ。
まぁ、仕方ない。
こんなのを持っていったら骨董屋の爺さんに舐められてしまうからな。
「ははは。言うねぇ。そいつは物を見る目がないからな」
「そいつは買い取り屋の社長だ」
「どうだ? 俺のとこを見てくれないか。すごいのがあるぞ」
「どこなんだ?」
「こっちだ」
倉庫の別の一角に連れていかれる。
すぐに分かってしまった。
これは、駄目だって。
「あー、いきなりだけど、言うぞ。全部、偽物か安物だ」
「ぜ、全部!?」
絶句してしまったな。
来ていたふたりの社長のとこも見たが全然だった。
「あ」
ひとつだけ違うオーラを放つ一角があった。
「ん? それはここにはいない社長の物だが」
「あー。いないんだな」
オーラが強い物がいくつか見つかった。
ただし、オーラの強さは強いが、色が黒い。
禍々しい何かを発している。
「そいつは、まだこの業界に入ったばかりのやつだがな。なんだ、こいつのは価値があるのか?」
「いや。価値というより、おかしな念が入っているようなんだが」
「あー、それはあるかもな。そいつ、何をやってもうまくいかなくて、この世界に入ったんだがどんな物件でもやるって有名な奴でな」
ゴミ屋敷や孤独死、時には殺人があった部屋整理。
他の業者でもやりたがらないことを、なんでもいいからやってしまう人らしい。
「この人は要注意だな。おかしな物に取りつかれているかもしれないぞ」
「ちげーねぇな。悪霊の3匹くらい飼っていそうな奴だぞ」
オーラがあっても真っ黒なのはいただけないな。
これは見なかったことにしよう。
「いままで見た物の中には1000円くらいの物しかないぞ」
「それはひどいな。100万円とは言わないが、10万円、いや1万円のものすらないのか」
「ああ」
前回の骨董品屋巡りで、だいたいの値段は分かるようになっている。
骨董品が持っているオーラと、だいたいのジャンルでね。
だけど、ここにある骨董品は見事にオーラがない。
なんで、ここには良い骨董がないのか?
不思議でしかない。
「ここに集めてあるのは、遺品とか不要物で引き取ったものだろう?」
「おう、そうだ。良い物ばかりだぞ」
「正直に言うか。はっきり言って、ろくな物がない!」
「なに~」
やっぱりショックだろうな。
自分の集めた物だけでなく、仲間の物まで否定されてしまったんだからな。
「そんなはずはないだろう。前回みたいなでかい屋敷の蔵から出てきた骨董品もあるんだぞ」
「ああ。前回の屋敷の蔵はすごかった。こんなもんとは違っていたぞ」
「おかしいな。良い物だけここに集めているんだがな」
あ、だいたい分かってきたぞ。
ここにある者は遺品整理か不用品回収の人たちが選別して集めてきたもの。
つまり、その人たちの選別作業が入っているということか。
「なんか、分かってきたぞ」
「何かだ?」
「そういえば、今日の収穫とか言っていたな」
「ああ。今日も建て替えをするという旧家から不用品整理をしてきたからな」
「今はそこから回収した物が全部あるのか?」
「そうだ。ほとんどがゴミで売れそうな物はごく一部だがな」
よし、俺の想定を検証してみよう。
今日の収穫を見せてもらうことにした。