第104話 もうひとつのショータイムが始まった
「あの。ここで、一番強い人は誰ですか?」
「なんだ、嬢ちゃん。ここはあんたが来るようなとこじゃないぞ」
あ、よかった。
ちゃんと通じたぞ。
ポーションの力と即席学習で憶えたバリ語だから、少しだけ通じるかどうか不安だったぞ。
「私、とっても強いの。だから、もっと強い人とタイマン勝負をしたいの」
「はははは。お嬢ちゃん。そんなこと言っていると、俺のような荒くれ者がとっても、やらしいことしちゃうぞ」
「うん。私が負けたら、私の身体、好きにしていいわ」
「本当かっ! ちょっと待てよ。ここは、バリ島マフィア『ラスク』の事務所だぞ。入口には見張りが4人もいたはずだ」
「うん。寝てもらったの。入っちゃ駄目って言うから」
「あいつら。また、サボっていたということか!」
あれ、伝わらないみたいだ。
言葉が何か、違ったのか?
「とにかく、嬢ちゃん。俺が一発入れてやるから、覚悟しておけよ」
「そう、こなくっちゃ。世界共通語のランゲージでお話し、しましょう。暴力っていうランゲージで」
「とにかく、行くぞ!」
弱い! 一瞬で決まってしまった。
大かぶりの拳固を軽くかわし、首筋の麻痺のツボを小指の先でちょんとした。
190センチを超えているガタイがいい大男は大理石の床でぴくぴくしている。
「あなたじゃダメね。もっと強い人のとこに連れて行って」
ぴくびくしている大男に、我は依頼した。
「わ、分かった! 連れていくから、身体を動くようにしてくれ」
最初から、そうしていればよかったんだぞ。
まぁ、これからはちゃんとやってくれるだろう。
「こっちです。ささ」
大男が先に立って、歩いていく。
我はもちろん、その後についていく。
「ここに強い奴らがいます。待っていてくださいよ」
「ここで待てばいいんだな」
「ええ」
大男は先に入って、そこにいる連中に声を掛けた。
「敵襲だ。武器を持て」
それまで、スマホをいじっていたり、トランプギャンブルに興じていた100名ほどの男達。
それぞれが手に大ナタ等を持った。
「どうだ? さすがにこれだけの人数には勝てまい!」
「うーむ。これだけの人数では、ウォーミングアップにしかならないぞ」
我が大きな部屋に進み出ると、10人くらいが1度に跳びかかってきた。
10本の太刀筋をそれぞれ読み、空きエリアを縫って前に出る。
ついでに手足を使って、パンチやキックを入れていく。
どさっ、どさっ、どさっ、どさっ。
0.3秒にひとりづつ、倒れていく。
30秒もすると、立っているのは先ほどの大男だけだった。
「だから、もっと強い奴のところに連れていけ! 人数や装備ではレベルの差は埋められないぞ」
「は、ははっ。お見逸れしましたっ」
結局、我はバリ島マフィア『ラスク』のドンと呼ばれる男とタイマンで闘い、バリ島裏社会の支配者となったのだ。
☆ ☆ ☆
「大変ですよ。翔太さん」
「こんどは何が起きたんだ、在真?」
「魔王ちゃんです。魔王ちゃんがバリ島に襲来するらしいんです」
「はぁ? 魔王。この世界に魔王なんていないだろう」
「魔王じゃありません。魔王ちゃん」
魔王ちゃんというのは、凶悪なかわいさを持つ、中学生コスプレイヤー。
一度、コミケットに来襲して、そこにいたオタクどもの心を掻っ攫って行った。
僕は後からコミケットでの魔王ちゃんのコスプレショーの動画を見て、大ファンになってしまった。
その魔王ちゃんがPV撮影でバリ島に来ているというのだ。
それも、公開PV撮影でエキストラも募集している。
「魔王ちゃんのPV撮影の日、お休みもらっていいですか?」
「ああ、もちろんだ。在真はどれだけ休日出勤しているか分からんからな」
「翔太さんも、一緒にいきませんか。凶悪なほどかわいい完璧コスプレ状態の魔王ちゃんが身近で見られますよ」
「俺か? 俺は……いいかも、しれないな。気晴らしにな」
「行きましょうよ。楽しいですよ、きっと」
☆ ☆ ☆
こうして、何も知らない3人。
元勇者、元賢者の魂、元魔王の3者がバリ島のビーチに集まることになったのだ。
いや、もうひとつ、その場に参加しようとしている男がいた。
「うわ、魔王ちゃん、バリ島に襲来! これは見にいかない訳にはいかないな」
元手柄泥棒。
いや、今も翔太や在真が作った物を自らの物としようとしている男だから、手柄泥棒のままだ。
手柄泥棒も含めて、4者がバリ島ビーチに集結しようとしていた。
本編はいよいよ、ラストに向かってメインメンバーがバリ島に集結中。
後書きでは、今回は評価ポイントおねだりは控えて。
また、コロナのこと。これから1週間でほぼ起きるはずのこと。
気になる人だけ読んでね。
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