第103話 俺は企業改革を実践することにした
「諸君、よく集まってくれた」
とても大きな会場を用意したのだが、それでも座りきれないで後ろに立っている人もいる。
全部で1200名ほどの男女が集まっている。
年齢はおおむね若い。
平均だと23歳くらいだ。
「俺が翔太。株式会社ショウタイズムの社長だ」
なんか、すごい拍手があがったぞ。
座っている人でも立ち上がって拍手をしてくれる。
スタンディングオーベーションって奴か。
ここに集まったのは、うちの会社で正式採用している社員たちだ。
今や、ショウタイズムはバリ島でいろんな事業に進出しているから、社員のタイプはさまざまだ。
ただし、普通のロスメンのスタッフや現場の人間の多くは契約社員だったり、他の会社の所属だったりするからここには来ていない。
在真の下でプログラム開発をしている300人のプログラマは社員として雇っているから、ここにきている。
社員のうち、特別な事情がない人はみんな集まってもらった。
ショウタイズムの幹部たちで決めたことを全社員の前で発表することにした。
「まず、今日を持って株式会社ショウタイズムは名前を変える」
俺は参加者達が理解したかどうかを確認した。
みんな、俺の続きの言葉を待っている。
「新しい名前はショータイムホールディングだ!」
社員たちはざわついている。
株式会社が、ホールディングに変わったのは理解したようだ。
その代わり、会社の名前自体も変わっているのに気づいた人が少ない。
「いいか。いままではショウタイズムだ。これからはショータイムだ」
『ズ』が抜けただけだが、意味は相当変わった。
いままでは、社長の『翔太』の『イズム』つまり、翔太の主張を実験する場、として会社を運営してきた。
その段階は終わったということだ。
「はい!」
ひとりの若いバリ人の男が手をあげた。
「すると、これからはショウタイズムと言いづらい名前じゃなくて良く間違われていたショータイムになるってこですか?」
「そうだ。言いやすくなるだろう」
確かにショウタイズムはよくショータイムに間違われていた。
特に社長の名前が翔太だと知らない相手にはな。
それが正式名称になるから分かりやすいということだ。
「ええ。言いやすいのはよかったです。だけど翔太社長の色が薄まるんですか」
「安心してくれたまえ、そうじゃない」
「よかった、そうですよね」
「色が薄まるんじゃない。社長交代だ」
「えーーーー」
そう。
これからは、俺が社長をするのでなく、新しい社長に任せることにしたのだ。
「社長は、彼女、エリカだ」
俺がそう宣言すると、固くなったエリカが壇上に上がる。
昨日の幹部会議で決まったことだ。
社長交代を言い出した俺に対して、エリカは猛然と喰ってかかってきた。
「翔太さんじゃなきゃ無理だ」って。
俺はそうは見ていない。
パーソナルトークンの評価を見ても俺よりエリカの方が経営者としての適性は上を指している。
「だけど、私なんて」
「エリカは結婚を考えていないんだろう。会社と共に人生を歩む気はないか」
「いくら私がそう思っても。みんながついてこないわ」
それが嘘だということはずっと見ていた俺だから分かる。
いかにエリカが信望を集めているか。
今はもう、ロスメン事業部だけでなく、プログラマたちの調整まで自然とやってしまっているエリカ。
まぁ、俺も在真も、そういう部分が苦手というのもあるがな。
「何よりも、新しくなる会社はバリ島の会社にする。だから代表はバリ人である必要があるのだ」
俺は社長を辞めてもオーナーとして関わりを続けていく。
新しいことも、ガンガン提案していく。
それを現実にビジネス化するのは俺じゃなくてエリカだ。
「だって、私、まだ20才よ」
「大丈夫だ。法律的には20才なら十分社長になる資格がある」
「そんなことを言ったって」
「エリカはやってみたくはないのか? バリ島でバリ人のためになる会社の仕切りをな」
「それは……やりたいわ」
「よし決まりだ。その気持ちがあれば十分だ」
できるかどうかではない。
やりたいかどうか。
これがパーソナルトークン結びを使って導き出した重要な結果だ。
経験がある。
スキルもある。
そういう個人よりも。
経験はないし、スキルもない。
十分な学歴も知識もない。
だけど、やりたい気持ちがある。
こういう人が化けるっていうことを。
三方一両損のエチゼンリープ計画はそこから生まれた訳だ。
まだ1週間ほどしか経っていないのに、正式採用になった人が12%にもなった。
1カ月あれば50%は余裕で超えるという予想も出ている。
俺の考えた、やりたい至上主義のショウタイズムは最初から結果に結びつこうとしている。
「なにより俺がバリ人が好きなのは、楽しそうに仕事をする人が多い事だからな。それを新会社で実践して欲しい」
そう。
いくら俺でも、どこかで、やらなければいけないで動いている部分がある。
やりたいだけで突っ走れるほど、若くない。
こっちとあっちで合計すると、50年にもわたる仕事の経験持ちだ。
長老レベルだからな。
エリカのフレッシュな感性を生かしてもらいたい。
そして、仕切ることに喜びを感じる特性もがっつり生かしてもらいたい。
「私が新社長のエリカです」
おっ、みんなの前に立ったら、表情が変わったぞ。
うん、いい感じだ。
子供の頃、幼虫から育てていたカブトムシがさなぎになって、いよいよカブトムシになる瞬間を見ているようだ。
「会社の名前はショータイムよ! これからわが社が全世界を新しい世界に変えていく。そんな大舞台のショーが始まるのよ」
おおーー。
やるな、エリカ。
たった一言で、1200人をまとめてしまった。
俺が登場したときの拍手の何倍も大きな拍手に会場は覆いつくされた。
もう、バリ島に来て二週間が過ぎてしまった。
その間、だいたい一泊か二泊で宿をあちこち泊まり歩いている。
ネットで選んで予約するんだけど、実際に行くと思っていたのと違うときが多い。
「評判いいのにな……」ってとこもある。
「まぁまぁ、かな」ってとこもある。
「ここいいね」ってとこはまた泊まったりしている。
だいたい一泊ふたりで2000円くらいがベースかな。
それより高いと高級感があり、安いとそれなり感がある。
まだ、1万5千円を超えるような高級リゾートは泊まっていない。
今回は一泊だけは泊まろうかなとは思っているけどね。
たぶん僕一人だと一泊500円くらいとこに居ついちゃうんだろうなー。
小説もそうだと思う。
大人気作には大人気作の良さがある。
新人さんのは新人さんの良さがある。
自分がお気に入りの小説を読んで、☆をぽちっとする。
気楽に評価をいれられるようになったのは、よかったと思うなー。