第101話 マスコミはショウタイズムを批判的に扱った
「これはオランダ軍の再来です」
テレビをつけるとほとんどの局がショウタイズムの件をやっているな。
オランダ軍というのは、インドネシアが独立したときに戦った相手だったな。
それと同一視するとは、ちょっとひどい気がするな。
「だいたい、俺の会社はバリで新しい雇用を生み出しているんだがな」
ひとりごとを言ったら、思い出したぞ。
今日はエチゼンリープ計画の人数が集計される日じゃないか。
「もしもし。カスミか? あれの集計は来ているか?」
「えっ、はい。1万人は超えています」
「おお。やったな」
「それどころじゃありません。こっちは抗議の電話が殺到していて」
「俺もテレビをみていた。そっちに行ったほうがいいか?」
「来ては駄目です。もっと混乱します」
あー。
カスミにも振られてしまった。
開発オフィスの在真にも同じことを言われたし、ロスメン事業のエリカにも断られた。
「俺はどこにもいけないってことか」
だけど、エチゼンリープ計画は無事スタートしそうだ。
エチゼンリープ計画は、パーソナルトークン評価システムをバリ島の実社会に反映するための計画だ。
なぜ、エチゼンって名前がついているのかというと、大岡越前の三方一両損という落語がベースになっている。
三方が一両づつ損をすることで丸く収めた裁定のこと。
今回の計画では、まずは俺が1/3の損をする。
新しい仕事を求める人も1/3の損をする。
新しい人を雇う会社も1/3の損をする。
そんなシステムだ。
経験もコネもない才能評価しかない求職者が、新しい仕事をするにあたって三方一両損をする。
それで新しい流れをつくりだせるのではないかという試みだ。
会社からしたら、リープ入社の最初の1カ月は給料が1/3しかかからない。
そのうえ、1カ月でダメだと判断したら、そこでストップ。
簡単に新しい社員のテストができてしまう計算だ。
だけど、そこにパーソナルトークン評価によりマッチングした人を送り込む。
どのくらいの実際に使える人がでてくるのかを調べる実験でもある。
エチゼンリープ計画には毎月1万人に予算1億円をつけてある。
これを3カ月つづける予定だ。
継続して雇用をする場合は、月給2/3の費用をもらうので半分が継続雇用になれば、予算が減らずにずっとつづけられるはずなのだが。
エリカのロスメン事業では、パーソナルマッチングが活きているのは確認ずみだが、他の業種ではどうか。
そもそもバリ人だけの会社ではどうなのか。
そこが全く分からない。
「インドネシアの経済的独立を守るためには、この危険な会社のシステムを利用しないことが重要です」
「しかし、それはバリ島だけの問題ではないのですか?」
テレビでは経済評論家みたいな男にMCが質問している。
「それがバリ島だけでは収まらないんですよ。なんと、インドネシア全域にリリースが始まりました」
「それはまずいですよ。私達もうかうかしていられないかもしれません」
このMC軽いな。
全然、危機感もなく言っているのが分かるぞ。
だけど、それってフラグを立てたとなるかも。
パーソナルトークン評価がはじまったら、もっと優秀なMCが登場するんじゃないか。
「それでは、どんなサービスがあるのかみていくとしましょう」
おいおい、いいのか。
そんなことをして。
それって、テレビ番組を使った宣伝になるんじゃないか?
今日のバリTVのバリスターズ番組では、ショウタイズムは扱わないってことになった。
どんな反響があるかまだ分からないっていうのがひとつ。
もうひとつが、今、バリTVで扱うと宣伝になりかねないって意見があった。
別に宣伝扱いでもよかったが、それだと視聴者からの批判がでかくなるかもという制作サイドの判断があった。
それなのに、どうみても敵対的に扱っているインドネシア全国放送がショウタイズムのサービスを紹介してもいいのか?
どう転ぶか、全く分からなくなってきたな。
☆ ☆ ☆
「すごい反響ですよ。電話が鳴りやみません!」
「そうだろう。これで翔太はおしまいだな」
「もちろんです。あいつはインドネシアから追放されるでしょう」
番組が始まってからすごい勢いで電話がなっている。
ショウタイズムに仕事を奪われた人々のインタビューになると特に増えた。
「そういえば、配車アプリが普及しはじめた4年前もすごいデモが起きました」
「そうなのか?」
スマホでどこにいてどこに行きたいと入れると近くにいる車やバイクが来てくれる配車アプリ。
普及しはじめたときは、タクシー業者がこぞって反対した。
要は白タクだってことで認可をうけていない連中が勝手に商売しているというので。
結局バリ島では、有名観光地は利用不可という決定がされたらしい。
「今度はタクシー業者だけじゃないからな。いろんな業種に影響を与えるからな」
「そうですよ。今のうちに混乱の種は摘んでおかないと」
ふたりはもう勝ちを確信して笑いあった。
☆ ☆ ☆
「翔太さん、すごいわ。バリ島もそうだけど、バリ島以外のインドネシア各地で登録者数が急上昇しているわ」
カスミが上ずった声で報告してきた。
「やっぱり、そうなるか。そうだよな」
バリ島では、既に100万人くらいのパーソナル登録者がいるけど、バリ島以外は3万人ほどしか登録者がいなかった。
インドネシア全国放送の3局が集中的に取り上げてくれた関係で、あっという間に知れ渡りはじめた。
新しもの好きな若者が続々登録しているようだ。
「もう、バリ島以外で20万人を突破したわ。今日中にはバリ島より多くなるんじゃないから」
「なんか、これで一気に普及するんじゃないのか。まぁ、バリ島で経験を積んでいるから、対応できるはずだがな」
「でも、サーバーは大丈夫なの? いきなり登録者が倍になっても」
あー、カスミはよくわかっていなかったんだな。
トークン結びにはサーバーが存在しないってことが。
すべてのサービスは登録者のマシンによって実現する分散処理システムだ。・
登録者が増えるということは、処理パワーも増えるということ。
問題は起きえない。
「登録者が増えれば増えるだけ、利用頻度が増えれば増えるだけ、処理パワーが増える仕組みなんだ」
「そうなのね。じゃあ、増えるのは問題ないのね」
いや、問題ないとは言えないが。
社会的にはもっと大きな問題になる気がするな。
本編はいよいよクライマックスかーって感じになっているけど。
それはおいておいて、バリ島の話。
何事もゆるんだよね。
宿が朝ごはん付きのこが多いんだけど、宿の人がオーダーを取る。
「じゃ、パンケーキで、卵はオムレットね、あとコーヒー」
こんな感じでオーダーすると、カットフルーツと一緒にオーダー品が運ばれてくるはず…なんだけど。
お皿にはパンケーキだけで、オムレツがない。
「オムレット?」
「ん?」
「オムレット!」
「オムレット!!」
笑顔で忘れたことを返してくる。
日本だと、ムカっとするかもしれないけど、バリだとこっちも笑ってしまう。
日本だとプロ意識が当たり前だけど、こっちは仲間意識的な感じなのかな。
緩いのが嫌じゃない。
日本の評価基準を持ってくると駄目だけど、こっちの評価基準に合わせると生き方が楽になる。
いろんな評価があるのは、いいことだと思うなーーー。
で、あなたの評価にて☆をほちっとしてくれると嬉しいな。