1.
一方、神楽坂家にて。
突然勇吾から呼び出しを受けた俺。
おそらく、次の仕事の話だろうと予想して、それなりに整ったスーツ姿で向かっていた。
すると、その予測通り、勇吾は机に肘をつき、真剣な表情で俺を見て来た。
これはなにかあったのか?
と、俺も唾を飲み顔を引き締める。
そして、勇吾が声を出すのを待っていた。
「有場くん、君にしか頼めない重要な仕事が入って来た」
「はい」
ゆっくりと勇吾が声を出す。
その内容は、俺が予想したものと同じで、とても重要な案件のようだ。
おそらく信頼の出来る身内にしか任せられないような……。
「何でも言ってください。精一杯、力を尽くさせていただきます」
「うむっ、君ならそういってくれると思っていたよ。では有場くん、君に重大な仕事を任せる」
「はい、任せてください。それで内容の方は?」
「あぁ、近々莉愛の体育祭がある。そこで、練習の風景や当日の撮影を頼む!」
「はい! ……はいっ?」
てっきり神楽坂グループの重要案件を任されるのかと期待したが、結局勇吾はいつもの勇吾だった。
「えっと、それは本当に重要な仕事なのですか?」
「もちろんだ! 他の仕事を差し置いてでもするべき重要な仕事だ! 莉愛の成長を私が見られるかどうかは有場くんにかかっている。ぜひよろしく頼む!」
「――自分で見に行かれる……という選択肢はないのですか?」
「もちろん最初はそのつもりだった。そのためにわざわざ体育祭も保護者なら入れるようにしたんだ……。それなのに……それなのに……」
勇吾は目に腕を当て、涙を拭っていた。
すると、そのタイミングで部屋の扉が開く。
「社長、そろそろお時間です。出発の準備を――」
「い、嫌だ! 私は莉愛の体育祭を見に行くんだ……」
「ダメですよ。社長でしかできない仕事なんですからね。今から一ヶ月は海外へ出張ですよ」
あぁ……、そういうことか……。
本当なら自分で体育祭を見に行くために手を打っていたが、急な出張が入って見られなくなった。
だからその光景を動画でとって欲しい……、ということなのだろう。
「あ、有場くん。頼んだよ……。これは君にしか出来ないことなんだ……」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 保護者だけって俺も入れないんじゃないですか!?」
「大丈夫、君は莉愛の家族だ! 何だったら許嫁の宣言をしてくれても良いから」
「そ、そんな……。ま、まだ俺たちは――」
「それじゃあ、頼んだよー……」
勇吾が連れて行かれ、あとに俺だけが残されてしまう。
こ、これはどうしたら良いんだ?
困惑のあまり、動きが止まっていた俺。
莉愛を迎えに行く時間になるまで、その場で固まったまま動けなかった。
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