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社畜さん、ヒモになる〜助けた少女は大富豪の令嬢だった〜  作者: 空野進
第二部

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8.

更新遅くなってしまい申し訳ありません。

 ようやく莉愛達が離れてくれると周りの人もぞろぞろと移動を開始する。



「みんなどこに行くんだ?」

「そろそろ花火が始まるんだと思いますよ」

「うん、私たちも行こう!」



 伊緒が俺と莉愛の手を引っ張ってくる。

 ただ、その途中で何か思い立ったように立ち止まっていた。

 それを不思議に思い、思わず聞いてしまう。



「どうしたんだ?」

「ちょっとだけ待ってもらっていいかな?」



 伊緒はそういうとスマホを取り出して少し離れた位置で会話のような事をやりだした。


 ような事……というのは、通話の時に光るはずのランプが光ってないので、今の伊緒が演技をしているというのがわかった。


 ただ、莉愛はそのことに気づいていないようで心配そうに彼女の後ろ姿を眺めていた。


 そして、戻ってくると伊緒は申し訳なさそうに言ってくる。



「ごめんね、莉愛ちゃんとお兄ちゃん。少し用事ができちゃったから私、先に帰るね」

「えっ、花火を見ていかないのですか?」

「うん、残念だけど仕方ないよ。お兄ちゃんと二人、楽しんできてね」



 伊緒が軽くウインクするとそのまま走り去っていった。



「伊緒ちゃん……、大丈夫でしょうか?」



 不安そうな表情を見せてくる莉愛。



「多分大丈夫だろう」



 俺たちに気を使ってくれただけだもんな。

 おそらく俺と莉愛を二人きりにさせようとした伊緒の心遣いだ。

 また今度お礼に伊緒の好きなパフェでも奢ってやろう。



「それよりも花火が始まってしまうぞ。俺たちも急ごう」

「そうですね……」


 莉愛と手をつなぎ、二人で慌てて他の人の後を追っていった。


 ◇


 そして、やってきたのは神社の裏側だった。

 ここが花火を見るのに人気の場所みたいでたくさんの人が花火を見るために待っているようだった。



「うーん、あまり見えないですね……」



 他の人を追っていったらかなりの人だかりに巻き込まれた。

 身動きもほとんど取れないくらいの人たち……。

 どこにこれだけ人がいたんだと感心すらしてしまう。



「どうする? 今からでも移動しても良いが……」

「いえ、こういう所で見るのも思い出になるかなと思いまして……。有場さんと二人ならなおさら――」



 莉愛が顔を赤めらせながら、恥ずかしそうに俯いていた。

 すると突然後ろから肩を叩かれる。



「おうおう、兄ちゃん。熱々じゃないか」



 まぁこういう所にもこんな人物がいるよな。

 俺はあきれ顔になりながら後ろを振り向く。

 するとチンピラ風の男達がなぜかスーツ姿でサングラスをつけた二人の人に連れて行かれていき、俺の肩を叩いた人物はそこにはいなかった。

 そして、そのサングラスの人が軽く笑みを浮かべてそのまま去って行った。



「あれっ?」

「どうかしましたか、有場さん」

「いや、なんでもないよ。気のせいだったみたいだ」



 なんだか釈然としないながらも莉愛には不安を与えないために笑みを見せる。

 今の人物は……。おそらく莉愛を守るために勇吾さんがつけていた護衛……だろうな。

 いかにもな姿をしていたし、よく今まで気づかなかったなと俺も苦笑を浮かべるしか出来なかった。



「そうですか……。それよりもそろそろ花火が始まるみたいですね」



 莉愛が俺の服を引っ張ってくる。



「そうみたいだな。見にくいなら肩車でもしてやろうか?」

「い、いえ、それはいいです……」



 莉愛は恥ずかしそうに必死に首を横に振っていた。

 さすがにそれは子供っぽかったか……。

 莉愛の様子を微笑みながら見ていると大きな音が響き、空に花火が浮かび上がる。


 人が多いので見にくいかと思ったが、意外と空に浮かぶ花火がはっきり見ることが出来た。



「うわぁ……、きれい……」



 莉愛が感嘆の声をあげていた。


 しかし、それ一発打ち上がった後にポツ……ポツ……っと雨が降り始めてしまう。



「あっ……」



 悲しそうな顔を見せる莉愛。

 周りの人も残念そうな声を上げていた。



「莉愛、濡れる前にとりあえず屋根のあるところに移動するぞ」

「でも花火が……」



 莉愛が空を見上げるとその瞬間に放送が流れてくる。



「本日は雨天により、花火を中止させていただきます。お越し下さった方は本当に申し訳ありません――」



 やっぱり雨が降ってきたら仕方ないな。


 周りの人たちも避難するように移動していくので俺たちもとりあえず屋根がある所へと避難する。


 ◇



「なかなか止みませんね……」



 緩やかに降っていた雨だが、次第にきつくなり、今では傘無しだとドボドボになってしまいそうなほど強く降っていた。



「一応遠山さんに連絡したからもうすぐしたら来てくれると思うが……」



 夏場とはいえ、夜中に雨に濡れた体だと流石に肌寒かった。

 それは莉愛も同じで雨に濡れた浴衣はぴったりと莉愛の体に張り付いていた。



「……くしゅん」



 莉愛が咳をする。よくみると彼女の体は小刻みに震えていた。



「大丈夫か?」

「う、うん、大丈夫……」



 弱々しくはにかんでから莉愛。

 ただ彼女には前歴があるので、あまり信じてはいけないだろう。


 寒いなら体を温めたらいいわけだけど……。

 そうだ――。


 莉愛に近づいていくと、俺はそっと彼女を抱きしめる。

 すると莉愛は突然のことに驚き、顔を真っ赤にして、手足をばたつかせていた。



「あ、有場さん!? い、一体何を!?」

「こうすれば少しは暖かいだろう?」

「あ、暖かいというか……、その……、あ、熱すぎるくらいですよ……」



 莉愛の顔は茹で上がったかのように真っ赤に染まっていた。


 どうやら少しは暖かくなったようだからよかった……。


 その状態でしばらく待っていると遠山が傘を持って現れてくれる。



「お待たせいたしました」



 顔色一つ変えずに深々と頭を下げてくる。

 俺たちは抱き合った状態なのに……。


 流石にその状態では恥ずかしさが勝り、莉愛から距離を開ける。



「す、すみません、わざわざありがとうございます」



 莉愛が軽く頭を下げる。



「いえ、莉愛様と有場様のお力になれることは私にとってこの上ない幸せに存じますので」



 恥ずかしそうに手をばたつかせる莉愛に対して、遠山は淡々と答える。

 むしろ表情を変えてくれた方が恥ずかしさも緩和されたかもしれないが、一切顔色を変えない遠山を見ていると俺の方も恥ずかしくなってくる。



「ではこちらの傘を受け取ってください。車までご案内しますので」



 遠山が車まで案内してくれる。

 ただ、莉愛が少しだけ考えていた。



「せっかくですから有場さん、一緒に歩いて帰りませんか?」

「いや、でも莉愛は濡れてるから早く帰らないと風邪を引くぞ」

「……くしゅん」



 莉愛が再び小さくくしゃみをする。



「ほらっ、このまま長居をするのはまずそうだろう?」

「そう……ですね。せっかく一緒の傘で帰れるチャンスだと思ったんですけどね……」



 小さく微笑みながら莉愛が答えてくる。



「また機会があったらいくらでも一緒に帰ってやるから、今日は車で帰るぞ」

「……約束ですからね」



 ようやく納得してくれた莉愛と一緒に俺は家へと帰っていった。



「やっぱり少し寒いですね。着替える前にお風呂に入ってきますね」

「そうしたほうがいいだろうな」

「有場さんも体が冷たいですよ? 一緒に入りますか?」



 莉愛が俯きながら恥ずかしそうに言ってくる。



「いや、さすがにそれはまずいからな。一人で入ってくるといいぞ」

「……残念です」



 少し口を尖らせながら一人で浴室へと向かっていく莉愛。

 一方の俺は自分の部屋に戻ると濡れた服を新しいものへと替える。


 そして、花火を見られなくてがっかりしていた莉愛の顔を思い出していた。

 今はもう雨は止んでいる。一時の通り雨だったようだ。


 ……仕方ないな。


 俺はため息交じりに館を出て行く。

 確かこの時期ならコンビニにも売っていたよな?



 館から出てきて一番近くにあるコンビニへ向かっている途中に見覚えのある後ろ姿を見かける。



「大家さん。今お帰りですか?」

「そうですよ。ちょうど良いところに。このビニールプールを持って帰るのを手伝ってもらえないですか?」



 大家さんの手には空気が抜かれたビニールプール。

 以前に莉愛達の勉強を見てもらったお礼に俺が買ったものだった。


 かなり大きいものなので持ち運ぶのは大変そうだ。



「良いですよ……」

「ありがとうございます。助かります」



 大家さんがお礼を言ってくる。

 そして、二人並んで大家さんのアパートへと向かっていく。



「そういえば今日の花火は残念でしたね」

「えぇ、雨が降ってくるとは思いませんでした……」

「通り雨でしたもんね。私ももっと稼げると思ったんですけど、さすがにあれだけ雨が降ってしまったら屋台も閉めるしかできなかったです」



 大家さんもどこか残念そうだった。



「莉愛も花火が見れなくて残念そうでしたからこれから少し買いに行こうと思いまして――」

「それならちょうど良いものがありますよ。景品のあまりってことで貰ったものなんですけど、いりますか?」



 大家さんが見せてきたもの。それは俺がちょうど買いに行こうとしていた花火だった。

 打ち上げるタイプのものではなく、手に持ってするものなのであまり見た目は派手ではないが、それでも何もないよりは莉愛が喜んでくれるんじゃないかなと思った。



「貰えるなら嬉しいですけど?」

「ビニールプールも運んで貰ってますし貰った分、あげますよ。莉愛ちゃんと楽しんでくださいね」



 大家さんが嬉しそうににやりと微笑む。



「ありがとうございます」



 大家さんにお礼を言うとアパートまで一緒に行く。



 大家さんから花火の袋詰めを二パックもらった。

 それを手に持ちながら俺は館の方へと戻っていく。



「……くしゅん」



 雨が降ったあとの夜は少し肌寒く、俺もくしゃみが出てしまう。


 ずるずる……。


 鼻水も少し出てくる。

 さすがにあまり長いこと外に出ていると風邪を引いてしまうかもしれない。

 鼻をかむと俺は少し小走りで館へと戻ってくる。


 館へと戻ってくると莉愛が心配そうな顔をしながら玄関で待っていた。



「あ、有場さん。ど、どこに行かれていたのですか?」

「いや、ちょっと買い物にな……」

「それならよかったです……。夕食の準備が出来ましたのでお呼びしに行ったら誰もいなくて心配になりまして……」



 莉愛が顔を伏せていた。



「悪かったな。あと、これはお土産だ」



 軽く莉愛の頭をなでると俺は手に持っていた花火を莉愛に渡す。



「これは……?」

「花火だ。お祭りでは雨が降って見られなかったからな。代わりになればと思ってな」

「あ、有場さん……、いいのですか?」



 莉愛が嬉しそうに微笑んでくる。

 だから俺も嬉しくなってくる。



 食事の後、莉愛と二人庭へと出てくる。

 ろうそくに火を灯し、莉愛は手に花火を持っていた。



「有場さん、見てください! 綺麗ですよ」



 莉愛が嬉しそうに火を付けた花火を眺めていた。

 打ち上げ花火と比べると見た目はそこまでだが、それでも莉愛が嬉しそうにしている。


 そんな彼女の隣に行くと俺も同じように火を付けた花火を眺めていた。



「えへへっ……、有場さん、ありがとうございます」



 莉愛が嬉しそうにはにかんでくる。

 その表情を見ていると俺も嬉しくなってくる。



「莉愛が喜んでくれたのならよかったよ」

「はい……」



 同じように腰をかがめながら花火を見ていると莉愛が少し俺に近づいてくる。

 そして、そっと肩を寄せてくる。



「莉愛?」

「ちょっとだけですから……」



 顔を赤らめさせながら莉愛が頼んでくるので、しばらく俺はその場から動かなかった。

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