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第19話 黒き真実


 季節は冬を迎えていた。

 気がつけば学園に入学してから半年以上が経過していた。あれから俺の日常に変わったことはない。

 

 そして放課後、俺はいつものように生徒会室へと出向いていた。


「失礼します」


 三回ノックし、俺は生徒会室に足を踏み入れる。

 と、中には会長と副会長がいた。


「金山か。お疲れ」

「お疲れさま。金山君」

「先輩方もお疲れ様です。ところで今日は何をするんですか?」

「ああ、その話なんだが今日は私と國松に急用が入ってしまってな。活動ができないんだ」

「それじゃあ今日の活動は無しですか?」

「いや、本当はこの生徒会室の大掃除をやろうと思っていたのだが……」

「え? それってまさか……」


 俺はなんとなく次の言葉が予想できた。


「ああ。悪いが、我々の代わりに大掃除をやってもらいたいのだ」

「そ、そうなりますよね……」


 ため息をつく俺に会長が申し訳なさそうに、


「い、いや全部とは言わない。奥にある書類の山とその周辺を少しだけ掃除してもらうだけだ」

「わかりました」


 特に断る理由もなかったので承諾した。

 で、二人は急用とのことで……


「すまんな、金山。じゃあ國松、行くぞ」

「はい、会長。ごめんね、金山君」

「い、いえ。お気になさらず」


 そういって二人は生徒会室から出ていった。

 そして一人取り残されてしまった俺は渋々掃除を始める。


「はぁ……会長、多分俺に掃除をやらせるために待っていたな」

 

 ハメられてしまった。

 でも我らが生徒会長がそういうなら仕方がない。

 別にサボりとかじゃなくて正当な理由があるみたいだったし。


「やるっきゃないか……」


 とりあえず、部屋の中で汚さそうな場所を探してみる。

 と、生徒会室の奥の部屋が見た目に反して凄く汚かった。


「こ、こりゃまったく掃除していないな……」


 今まで入ったことがなかったのでその汚さに驚いた。


「これを一人でやるのか……骨が折れるなぁ」


 止まらない文句を押し殺し、俺は掃除用具をせっせと持ってくる。

 

「まずは資料の整理からするか……」


 そう思い、床に散らばっている資料を整理しようとした時だった。


「ん、なんだ?」


 地面に歪な窪みのようなものをたまたま発見。

 そしてその部分をマジマジと見つめてみると、一瞬目を疑うようなものが見えてきた。


「こ、これって……扉?」


 ほこりを被っていて普通の人なら視認ができない所になんと小さな扉があったのだ。

 あ、ちなみにこれは余談だが俺はかなり視力が良い。


 小さい頃、眼科に行った時に医者が仰天するほどの視力と視認能力の高さだったという。俺が生まれつきもっている唯一の才能みたいなものだった。

 なので目の良さに関しては自信があった。


(ま、そんなことは今はどうでもいいとして……)

 

 俺はその小さな扉に近づき、開けられるかどうか試してみた。


 だがその扉にはドアノブがなく、鍵穴もなかった。ただ壁にくっついているだけという感じだ。

 俺の視認性が高かったため、微妙な隙間を見つけることができたが、普通の人ならただの壁にしか見えないだろう。


「どうやって開けるんだ?」


 試行錯誤を繰り返していく内にますますその扉の先にあるものが気になって仕方がなかった。

 だがなにをしても扉は微動だにしない。


「今度会長にきいてみるしかないか」


 そう思い、俺が掃除の続きをしようとした時、たまたま近くにあった書籍に足をかけてしまった。

 そして転んだのと同時に『ピピピ』という何かのセンサーに反応したような音がした。

 すると先ほど微動だにしなかった扉がいきなり開き始めた。


「ど、どういうことだ?」


 扉の先には階段があり、さらに地下に続いているようだった。

 俺は息を呑み、暗闇に続く階段を下りて行った。

 すると背後で『ガチャン』という大きな音がした。


「う、嘘だろ……」


 扉が勝手に閉まり、完全に閉じ込められてしまった。

 急いで携帯のライト機能を点けて扉を見てみるが出られる気配がない。


「くそっ!」


 帰る手段を失った俺は不安になりながらも先に進んだ。


「一体どこまで続いているんだ?」


 かれこれ10分ほど階段を降りているが、まだまだ先に続いているようだった。

 15分ちょっと降りた所でようやく階段が終わり、一直線の道へと変わった。

 道なりに進んでいくと、もう一つの大きな扉が現れた。


「まさかここまで来て開けられませんっていうオチはないよな……?」


 しかし今回はそういうことはなく、扉の前に立った瞬間、扉がいきなり重々しい音を立てて開いた。

 俺はその映画みたいな迫力のある光景に息を呑んだ。

 深く息を吸って扉の先へと進んだ。


 進んだ先には横幅が凄く広い道が続いていた。

 薄暗くてよく見えなかったため足元を照らしていたライトで周りを見渡してみた。

 すると目に入ってきたものは奥まで綺麗に並べられた機械歩兵の姿があった。


「な、なんだよ……これ」


 高さは見た感じ高層ビルに匹敵するほどの大きさだった。日本は兵器を持ってはいけないという法律があるが、これは紛れもなく兵器そのものだった。


「こんなものを潜ませていたなんて」


 俺は見てはいけない物をみてしまったような気がしてならなかった。

 まさか地下都市のさらに下層にこんな兵器を隠し持っていたなんて。


 俺は薄暗いライトに照らされた道を進むと、兵器たちが守るかのように一つの鉄の扉が現れた。

 だがこの扉の横をよく見てみると指紋認証用のタッチパネルとその横にはパスコードを入力する装置があった。


「くそっ! ここまできてこれかよ」


 当然パスコードなぞ知る由もなく、行動を阻まれる。

 なにもできず頭を抱える。


 と、その時だ。


 後ろから微かに足音のようなものが聞こえた気がした。


「……誰か来たのか?」


 急いでライトを消して機械歩兵の後ろに身を潜めた。

 俺の勘は見事に当たり、さっきの場所に一人の白衣を着た男が現れた。


 彼はタッチパネルに手を置き、パスコードを入力している仕草をみせた。

 すると、扉が開き、その男は足早に中に入っていった。


 だがこれこそが俺の進行を後押しする手段となった。

 扉が閉まる前に中に潜入することに成功したのだ。


(運が良かったな。まさかあのタイミングで人が来るとは)


 とりあえず、セキュリティは突破。

 さて、先を進もうと思い、前を向いた時だ。

 

 俺の視界には想像を絶するものが入ってきた。


「お、おいおいマジかよ……」


 なんと中では人が液体の中に入ったカプセルに入れられ、保管されていたのだ。

 しかも一つではなく複数のカプセルが道なりに並んでいた。


「どうなってるんだよ、これ……」


 混乱して頭の中で整理ができなかった。だがもう一度よく見てみるとカプセルの中に入っている人物に心当たりがあった。

 まさかと思い先に進むと、夏の定期テストでポイントが取れなくて姿を消したクラスメートたちの姿がそこにはあった。


 残念ながら彼らには息はなく綺麗なまま殺されていた。

 

 だがこれはまだほんの一部に過ぎなかった。


 俺はそんなカプセルの集団を見ていると、同時にある記憶が蘇った。


(あれ……? この風景どこかで……)


 そう。ここは過去に夢に出てきた場所にそっくりだったのだ。

 だがあの夢は女の子が助けを求めている声がしていたがここにはそれがなかった。


「俺の考えすぎなのか」


 そう思っていると、奥の方からなにか音みたいなのが聞こえた。

 その音を頼りに奥に進むとより音が強くなっていった。

 

 たどり着いた先にはまたもや一つの扉があった。だがこの扉は俺にも見覚えがあった。

 そう、これはこの前会長と研究施設に資料を取りに行った帰りに見つけた扉とまったく同じものであった。


 カードキーを差し込む所があるみたいだが既に誰かが認証しており、中に入ることができた。

 

 そしてその扉の先に進んでいくと、先ほどの保管カプセルの倍以上はあるとされる大きなカプセルに同じくらいの年齢の少女が保管されていた。


「この子は一体……」


 少女は他の人たちに比べると明らかに保管方法が異なっていた。

 

 このカプセルだけなぜか厳重な体制で保管されており、専用の部屋まで用意されている。

 しかし生きているか死んでいるかの区別はつけることができなかった。

 

 そんな彼女のカプセルを見ていると、いきなりあの時の声が大きく聞こえてきた。


『タス……タスケ……タスケテ!』


 俺はハッとし、カプセルに耳を当ててみたが何も聞こえなかった。


「空耳か……」


 だがそう思っていた次の瞬間、どこからか俺に話しかけてくる者がいた。


「あなたは禁忌に触れようとしている。今すぐこの場から立ち去りなさい。でないとあなたは確実に生きて帰れない」

「だ、だれだ!?」


 いきなり声をかけられ驚くも周りには誰もいない。

 だがこの声には聞き覚えがあった。

 

 難度も夢の中で出てきた女の子の声に、そっくりだったのだ。


「き、君なのか……?」


 カプセルの中の少女に話しかけてみるもなにも返事はない。

 だがその声はまたも俺の心の中で響いた。


『早く去りなさい! すぐここに奴らが来る。あなたはまだここに来るべき人間じゃない』

「こんな光景を見てそう簡単に引けるかよ」


 こう思っても実際に俺ができることなんて何もなかった。

 でも身体が身を引こうとしなかったのだ。


『あなたは私たちを救ってくれる切り札になるかもしれない。だから……今は……生きて……』

「え? それは……」


 しかし、ここでどうやら時間切れのようでドアの向こうから誰かがこの部屋に向かってくる足音が聞こえた。

 それも一人じゃなくかなり大勢の足音だ。


『私が、あなたを送るわ』


 心の中の声は俺にこう言ってくる。


「い、いいのか君は? こんな所に閉じ込められて。一体ここで何が行われているんだよ?」


 強く問いただすと心の中の声はそれ以上喋ることはなかった。

 するといきなり視界が真っ白になり俺はそのまま眠るように気絶してしまった。


 だが、一つだけ最後にあの声が俺にこう言い残したのだ。


『待ってる』


 ……と。

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