第11話 夏休みへ向けて
時が経つのは早いもので、俺が月花学園に入学してもう三か月経とうとしていた。
8月に入り、地上での季節は夏へとシフト。
それに合わせ、この地下都市も夏モードへと完全移行した。
地下なのに地上の気温とを比べてみてもそこまで大差はなく、夏さながらの環境が演出されていた。
「暑い。しかもこの暑さが人の手で作られたものとはな……」
忠実に季節まで再現していて、改めてこの地下都市の技術の凄さに驚く。
だが俺にはそれよりも一つ、夏前に行われるあるイベントについての心配をしていた。
「――おい、そういえばもうすぐ中間考査だったよな?」
「――ああ、確か夏休みの一週間前だったはずだ」
「――自信のほどは?」
「――あるわけないだろ。でも……」
「――ああ、赤点とったらその時点で……だよな?」
ヒソヒソと聞こえてくる外衆の会話。
そう……そのイベントとはズバリ、前期末試験のことである。
この実力至上主義のエリート学園にとって前期末試験とは文化祭や体育祭などよりも大きなイベントに値する。
生きる余裕を得られるか死に近づくかの審査がされる運命の日とも言っても過言ではない。
もちろん、大量失点をしてそのまま処刑所なんてことも普通にあり得る。
要は、この学園の試験だけは死ぬ気でやらないといけないわけである。
俺は生徒会に入り、懸命に働いていたためか、APが40ポイントほど増えていた。
ちなみに卒業に必要な最低ポイントは300APだ。
要するに一年間で100AP取らなければならない計算になる。
しかし一年次は入学時に100APが支給されるため、いかにこの一年でポイントを稼げるかが肝になる。
だが俺には関係のない話だった。
あのKDとかいう男が言っていたことが本当であれば、俺は卒業時に誰よりもポイントを持っていないとそのままゲームオーバーになるとのこと。
その真実を掴むべく生徒会に入ったのはいいが、未だに有益な情報は手に入っていなかった。
で、そうこうしている内に前期末試験が近づいていたというわけだ。
「もうすぐ夏休みだね!」
こういうのはクラス委員長の星宮芽久だ。
「そうだね! でも俺はそれよりまず前期末試験が心配で仕方ないよ」
「大丈夫! 分からない所があったら私に言って!」
「ありがとう! 助かるよ」
あの一件から星宮さんとはすごく仲良くなり、昼にはお弁当を用意してくれるくらいだ。なんでそこまでしてくれているのか未だに不明だが。
二人は付き合っているんじゃないかという変な噂も流れていて、たびたび男衆から嫉妬の嵐を受けていた。
そりゃ嫉妬も受けるだろう。
天真爛漫で優しくて、責任感が強く、頼りがいがあり、何より可愛いしスタイルもいい。人気がないわけがない。
「おはよう。金山くん、星宮さん」
クラスの二大美女、白峰夕が教室に入ってきた。
「おはよう! 白峰さん」
周りの男からすれば二人の美女を掌握している女たらし野郎とでも思われているのだろう。今でも嫉妬の視線が熱い。
(はぁ~そういう関係じゃないんだけどな)
「生徒会の仕事の方はどう?」
「大変だけどそれなりに充実しているよ」
「そうなんだ~何か手伝えることがあれば言ってね」
「ありがとう。星宮さん」
俺に向けてくれた彼女の笑顔はとても眩しかった。
思わず見とれてしまっていると横で白峰さんが不満そうな顔で見つめている。
「どうしたの……? 白峰さん」
「いえ、別に何でもないわ」
いつも冷静沈着な白峰さんだが、こういう時に少し分からない所がある。
と、その時だ。
「ねえねえ今日みんなで勉強会しない?」
唐突な提案を星宮さんが言う。
学生の間ではテストが近づけば高確率でやってくる定番イベント、勉強会のお誘いだった。
「俺は構わないよ。逆に教えてもらいたいし」
俺は即座に返答。
それに続いて白峰さんも返答する。
「私も大丈夫よ」
「じゃあ後は勉強会の場所を決めなきゃだね」
「場所なら俺の部屋を提供するよ。広いし、勉強会をするにはうってつけだと思う」
「え、金山君の部屋……?」
星宮さんの「えっ」と言わんばかりの反応。
それを見た時、俺は「はっ」と思いつくように後ずさった。
(マズイ。話の流れでつい部屋を提供するって言ってしまったが、これって違う意味でも……)
捉えられてしまう可能性は十分に……というか今の反応は間違いなくそう捉えられていたと考えた方がいいだろう。
白峰さんもその一言を聞いた途端、どこか違うところへ目線をそらしたし。
(やばい……これは地雷を踏んでしまったか?)
今の流れを簡潔に説明すれば俺は自分の部屋に異性の女の子を誘ったということになる。
別に俺に疾しい気持ちはない。ただ単に良心的思考のもとで発した発言に過ぎないのである。
だが、それは俺だけの認識。当然、人の認識には個人差が生じる。
今の反応を見る限り、先の発言による二人の認識は別の意味を含んでいると予想できる。
だとすれば、今さっき俺がした行動って……
「お、なにか面白そうなことやってるねぇ。俺も混ぜてよ」
ダラダラと滝のように流れる汗を額から垂らしていると、突然背後から一人の男子生徒が俺たちに声をかけてきた。
「あ、時宗君」
星宮さんがすぐに応対する。
「よっ、星宮さん。なになに、みんなでなにやるの?」
陽気に話しかけているこの男、実は俺たちとは割と深い面識を持つ友人の一人で名前は時宗 正。
一年×組の副クラス委員長的存在の知勇兼備な男子生徒である。
彼もクラス委員長の星宮さん同様に責任感が強くクラス委員長の星宮さんと協力しながらクラスをまとめてきたため、周りからの人望も厚い。
おかげで×組は今のところ問題もなく学園生活を送ることができている。その甲斐もあってかAPも減ることがほとんどなかった。
初めてのホームルームの時に彼は家の諸事情で学園に来れず、皆より遅くクラス入りをした。
俺たちがなぜ仲良くなったと言えば、それは入学して二か月くらい経ったときのことである。
まあ、最初は俺のミスで巻き起こしてしまったことなんだが。
♦
二か月前。
俺は教室で生徒会の書類を整理していた時の話だ。
俺は書類整理の期限に追われていてとても大変な時だった。
(暑いな~窓を開けるか)
そう思い、窓を開けた瞬間、かなりの強風が教室内を駆け巡った。
「やばい!」
そう思ったのも遅く、書類の一部が風で外に飛ばされてしまった。
しかも書類の中でも重要なもので無くしてはいけないものだった。
そして急いで教室を出たそのときだった。
背後から誰かに声をかけられ、
「あの~」
「え、なに?」
俺は書類の事で頭がいっぱいで少々荒い返答になってしまった。
「あ、すみません。お忙しかった所ですか?」
「え、まあはい。ちょっとやらかしてしまって」
「その、よかったらお手伝いしましょうか? 俺、この学園に来たばっかりで何も分からないですが」
「え! 本当ですか? ぜひお願いします!」
これが彼と初めて会った時だった。
その後、一緒に書類を探しに行き、無事に全部の書類を回収することができた。
「すみません。手伝っていただいて」
「いえいえ、お安い御用です」
彼は笑顔でそう答えた。そして彼は俺にこう話してきた。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。俺は時宗正。今日から一年×組のクラスに入ることになりました。よろしく!」
「俺は金山剣人。同じく一年×組。同じクラスだったんだね! 転校生とか?」
「いや、元々入学式からクラス入りするつもりだったんだけど家庭の事情で遅くなっちゃって」
「そうなんだ! よろしくね時宗君」
「正でいいよ。もっと砕けた感じで」
「わかった。よろしく正!」
この出来事以降、彼と俺は仲良くなり、自然と俺と交流のあった白峰さんや星宮さんとも仲良くなっていって現在に至るわけである。
そして話は現在に戻る。
「時宗君も来る? 勉強会」
「え、勉強会!? もちろんいくよ! 俺も勉強しないとまずいからさ」
正は前に初めて会った時よりも凄くフレンドリーな関係になっていた。
そして勉強会の話を聞いた途端、食いつくように話に混ざる。
「別にお前は勉強しなくてもいいだろ? 頭いいし」
「んなわけあるか。俺もこう見えて結構やべぇんだよ」
「ほ、本当なのか?」
「ああ!」
笑顔でそう言う正。まったく信用ならない。
すると正が、
「剣人、お前もやばいんだろ? やばい同士がんばろうぜ!」
「やばい同士って……」
初めて会った時の礼儀正しさはどこに行ったのかというくらい正はおちゃらけキャラと化していた。
でも一緒にいても苦にはならず、逆に堅苦しさがなくなったことでバカな俺にとっては一番付き合いやすい友人でもあった。
「じゃあ何時頃集合にしよっか? 勉強会」
「私は何時でも大丈夫よ」
「俺も~」
白峰さんと正がすぐに答えた。
俺も流れに準じて、
「俺は放課後に生徒会の仕事で書類運びがあるからちょっと遅くなるかも。でも今日の仕事はそれだけだからいつもみたいに遅くなることはないよ」
「じゃあ18時くらいでいいかな?」
「「「「「OK!」」」」」
全員が口をそろえて言う。
だが俺はこの時、ふと思った。
あれ、勉強会の場所は……?
♦
現状所持AP
金山剣人のAP 103
白峰夕のAP 135
星宮芽久のAP 140
國松彰吾のAP 不明
向郷翼のAP 不明
時宗正のAP 105




