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第10話 生徒会での初仕事


 次の日、俺は早速初仕事をするべく生徒会へと出向いていた。


「お、お疲れさまです」

「おう、金山か。早かったな」

「あ、はい。HR(ホームルーム)が手短に済んだので……」

「そうか、ちょうどよかった。早速で悪いが、お前にはこの仕事を手伝ってもらいたい」


 そう言って向郷会長は一体どこから出してきたんだと言わんばかりの大量の書類を机の上にドサッと置く。


 その書類の量を語るが如く、自分の身の丈くらいの書類の山が一つ、二つ、三つ……

 とにかく凄まじい量の書類が会長席の机に置かれた。


「こ、これは……?」

「学園予算案件、部活動の部費についての書類、その他諸々だ」

「そ、その他諸々って……」

「とりあえず、今日はこれを今夜中に全て印を押して仕上げなければならない。書記として活動記述と書類整理は基本中の基本だ。今夜はいい経験になるだろう」

「ま、マジすか……」


 今夜中って……普通に考えて無理だろ。

 

 しかも会長曰く、一人でやれとのこと。

  生徒会に入っての初仕事がこれってハードすぎないか?


「あの、会長……流石にこの量は無理があるんじゃ……」

「ん、そうか? これくらい普通だぞ?」

「……え?」

 

 俺は一瞬、自分の耳を疑った。

 今、確実に普通って言ったよな? この人……


「ふ、普通……なんですか?」

「ああ、むしろ今回は少ないくらいだ。私はまだ別の仕事があるから半分だけ終わらせておいたが、二時間もかからなかったぞ」

「え、半分? 今半分って言いました?」

「言ったが?」


 じゃ、じゃあ元々はこの量の倍以上はあったってことか?

 しかも二時間で終わらせたって……


「ま、あまり身構えるな。お前もすぐに慣れる」

「そ、そうっすかね。あはは……」


 いや、どう考えてもすぐには慣れんでしょこれは!

 ぶっちゃけ書類処理の修行期間が必要なレベルだぞ。

 

 そもそも見上げるほどの書類の山自体初めて見たし……


(今日は帰れないかもな……オレ)


 大量の書類をポカーンと見上げながら、そう思っていた時だ。


「失礼しまーす。お、金山君」

「國松副会長、お疲れ様です」

「うん。お疲れさま」


 生徒会室の扉を開け、入ってきたのは國松副会長だった。

 彼もまた、手元に大量の書類を担いで生徒会室へと入って来る。


「ふぅ……これでやっと一息できる」

「今日も研究室に籠りっきりか?」

「そうなりそうです……」


 はぁ~っと溜息を漏らし、ソファに腰を落ち着かせる國松副会長。


 この人もかなり多忙を極めているようで噂によれば授業以外は基本的に自身の研究室に籠りっきりとかなんとか。

 俺からすればこの人はもう学生の範疇を越えている。


「金山君は今日が初仕事かな?」

「はい。今日はこの書類の山を片付けるのが俺の仕事みたいです」

「おぉ~これはやりがいがあるねぇ」


 やりがいがあるねぇで済む話ではない。

 正直なところ、今俺の脳内にあるのは身の危険と無事に家に帰れるかどうか。


 その上、今夜中という制限付きだ。

 

 もうむしろある程度覚悟しておかないとこっちがやられる。

 俺の本能的な危機管理能力は言うまでもなくビンビンに作動していた。


「と、いうわけで金山。この仕事がお前が生徒会に入って記念すべき最初の仕事だ。しっかりと最後までこなすようにな」

「は、はい……」


 力ない返事をし、しぶしぶ頷く。

 すると、


「……さて、おい國松。私たちも行こうか」

「はい、会長」


 そう言いながら向郷会長は席を立つと、國松副会長と共に出口の方へと歩いていく。


「あれ? お二人は何か用事でもあるんですか?」

「ああ。今日は半期に一度の予算会議の日でな。生徒会長と副会長は生徒の代表として参加しなければならんのだ」

「予算会議?」

「大まかに言えば今後の学園の予算の方針を決める会議です。この一年でどういった場面でお金を使うかなどを学園の職員と共に事細かに決めるんです」

「へ、へぇ……そうなんですか」


 どう反応すればいいのか分からないのでとりあえず頷いてみる。


(金が絡むような会議にも参加しなきゃいけないのか……大変だな)


 もうこの二人が凄すぎて俺が彼らと同じ生徒会役員であるという事実が未だに実感が湧かない。

 いや、むしろ彼らと比べて自分が貧弱過ぎて泣けてくるレベルだ。


「じゃあ、私たちは行くから後は頑張ってくれよ金山」

「は、はい……」


 せめて誰かいてほしかったという甘えは流石に言えなかった。

 そして二人は扉を開け、生徒会室を出て行こうとする。


 が、その時だ。

 突然、向郷会長が再度俺の方を向き、


「あ、ちなみに言っておくが期限は絶対だぞ。もし終わらなかったから今後の学園の運営に響く。死んでも今日中に終わらせろ。分かったな?」

「えっ、ちょっ……!」


 ――バタン


 会長はそれだけ言うと部屋から出て行った。

 しかも、あの顔は……マジだった。


「う、嘘だろ。いきなりそんなこと言われてもできるわけないだろ……」


 取り残された俺はただ嘆き、書類の山を見上げる。

 だがもう俺には選択肢がない。


 もしこれを終わらせられなければ、後々が怖い。

 もしかすればポイント減の対象になるかもしれないし……

 

「くそ……もうこうなったらヤケだ。どうとでもなれ!」


 俺は勢いのままに書類を手に持ち、一枚一枚丁寧に片付けていく。


 こうして俺、金山剣人は地獄と呼べる初仕事を任されることとなった。

 

 結果は何とか日が変わるまでには終わらせることが出来た。

 が……その代償としてその後の一週間、俺は体調不良で学校を休むことになり、結局欠席による減点でポイントを失うことになってしまったのだった。


 ♦

 

 現状所持AP


 金山剣人のAP 七日欠席により―35AP(一日欠席-5AP)

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