第2話 異世界転生
ゆらゆら …… ふわふわ……
雪乃は無音の暗闇を一人彷徨っていた。
終わりの見えない闇をひたすら漂う。
……ふと、遠くに光の点が見えたような気がした。
(あっちのほうに行かなきゃ)
雪乃の意識はふわふわと漂いながら、
吸い寄せられるように点に向かって進んで行く。
急げ、急げ。
光の点の先から溢れ出る暖かさと明るさに、雪乃はひどく懐かしさを感じて恋しくなった。
(私は絶対にあそこに行かなければいけない)
あの光が消えてしまう前に。
点に近づくにつれ、光との距離は縮まり、それは強く大きく輝き出す。
暗闇を塗り潰す強烈なその光は、雪乃を呑み込み、耐え難い眩しさと熱さを与えた。
……光の先に誰かが立っているのが見えた。
『其方の強き意志、見事。
異界に再び生を授けん_______』
身を焼き尽くすような光に耐えられなくなった雪乃の意識は、再び浮上し始める……。
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雪乃は見知らぬ森で目を覚ました。
まだ頭がぼーっとして上手く考えられない。
そんな中、最初に雪乃が感じたのは戦慄だった。
顔が徐々に強張っていき、脳が覚醒してゆく。
雪乃の頭には、先程体験した死の記憶がこびりついていた。
あのときの記憶は、今でもはっきりと思い出すことができる。
強い衝撃が走る
瞬間、鋭い痛み
惨めな自分
最後に見た血染めの桜
失われてゆく体温
そして……死。
思い出せば思い出すほど記憶は鮮明に映りだし、
心臓が早鐘を鳴らす。
全身から汗が吹き出す。
指先が氷のように冷え、上手く動かせない。
雪乃の心と比例するかのように、震えは収まりそうになかった。
怖かった。すごく、怖かった。
そして悔しかった。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
もう二度とあんな体験はしたくない。
________死にたくない。
柔らかな光に照らされて生き生きと輝く草花。
鳥たちが楽しそうにさえずっている声。
そよ風が吹き、さらさらと葉が擦れ合う音。
____その光も、声も、葉の音も。
今の雪乃には鬱陶しく感じるだけ。
雪乃が座り込んでいる所、
それは複雑に木々が絡み合う鬱蒼とした森の中、
ぽっかりと穴が空いたように、全く木々が生えていない場所。
この世のものとは思えない、幻想的で美しい場所だった。
しかし、その奇跡のような風景にも、雪乃の心は動かない。
いつもならば、自然が好きな雪乃がこの景色を見た瞬間、飛び上がって喜ぶことは容易に想像できる。しかし、このときの雪乃は全てが皮肉に感じたのだ。
……ここが何処かなどはどうでもいい。
たとえここが夢の中だろうが異世界だろうが、はたまた天国だとしても、やる事はただひとつ。
「もうあんな思いはしたくない……っ」
雪乃は拳を小さく握りしめ、強く心に誓った。
_____そんな雪乃を、茂みの陰から優しく見守る、淡色の小さな光の玉がひとつ。
雪乃は気づかない
否、気づけない
今の雪乃には、見えるはずもないのだから。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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初めて見た瞬間は興奮が抑えられませんでした笑
良ければまた次回も読んでいただけると嬉しいです。