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仕事帰りにパフェでもいかが?

作者: ざぶさん

「ぽかぽかと暖かい日和なのでパフェを食べにいきませんか。仕事帰りに」

 陸さんからお誘いのメールが届いた。


 ちいさな映画館へ行ってから二十四日が過ぎて、いつもより少しだけ春の気配を感じる昼休み。

「今夜はあいにく仕事の後に会議があるので」と返信しておいた。でも、少しばかりそっけなかったかと思い……しばらくして追伸した。

「二十時を過ぎてもよければお付き合いしますよ。私は苺のパフェがよいです」

 以前ちらり話していたのだけど、陸さんは忙しくなってくると、頭が回らなくなると、何か「甘いの」を食べたくなるそうだ。

 そうした時、不意に仕事帰りにいかが? とお誘いがある。もしも私が付き合わなければひとりで「甘いの」を食べに行くのだろうか。それとも、他の誰かに声をかけるだろうか。

「あなたの職場近くの喫茶店で待っています。それではまた後ほど」すぐに返事が届いた。


 残業をすることもなく、思いのほか会議も早く終わって、二十時まで少しばかりの時間ができた。

 ふとした思いつきがあって「少しだけ遅れます」陸さんに一言メールを送り、私は職場を後にした――。


 ずいぶん急いではみたものの、約束の時間を十分ほど過ぎて喫茶店の扉に手を掛けた。

 古い土蔵をリノベーションしたこのお店は古材の床板、白い漆喰塗りの壁。でも、今風にアレンジしていてとても雰囲気が良い。パフェの品数が多くて昼間は若い女性客で賑わう。さすがにこの時間になるとひと気も少なくなるけれど。

 私に気付くと、奥のカウンター席で店主と談笑していた陸さんは側においでと、軽く手招きをした。

「お待たせしてすみません」私はよじ登るようにして高椅子に腰掛けた。背が低いのでサッと座れずにいて、こういう時は少し恥ずかしい思いをする。

「急にお誘いしたのはボクの方ですしお気になさらず。まあ、話し相手に捕まってしまい店主はいい迷惑だったかもしれませんが」

 ちょうどお客さんが居ない時間だったのでどうともありません。店主はようこそいらっしゃいましたとお冷を注いでくれた。


「みゆさんは苺のパフェを御所望でしたね。旬のものですし、ボクもそれを」

「『同じのをとは面白くない』ですよ。このあいだはそう言っていました」

「確かに。なかなかやりますね」

「いえそれほどでも。なんならシェアします?」

「それは……流石に照れます。苺のパフェが二つとホットコーヒーを二つで」頬を少し赤らめて注文をした。あの陸さんが。珍しいこともあるものだ。

 店主もノリが良くにやにやと「一つじゃなくて良いですか?本当に?」とからかう。

「二つです。ほら仕事。厨房に行った行った」シッと店主を追い払い、困ったひとだと苦笑するので、私はにへらと笑いVサインを送った。


 そうそう、遅くなったけれど誕生日おめでとうございました。さり気なさを装い白い包みを手渡した。

「ありがとう。いま開けてもいいですか?」

 私はこくりとうなずいた。贈り物を選ぶのってなかなか難しい。

 気に入ってもらえるかどうか、負担に思われないように。それに急いでいたからじっくり選ぶ時間も無くて。

「お」陸さんはちいさくつぶやき、もう一度ありがとうを言った。しみじみと微笑みながら。

 ボクもね、あなたに用意していたのですよ。いつもお世話になっているからそのお礼にと思って。

 そう言い手渡された白い包み。どうぞ開けてくださいと促され、丁寧に包みを解いた。

「ありがとうございます。大事に使います」

 カウンターテーブルに「サル君のキーリング」が二つ並んだ。

「考えることがだいぶ似通ってきましたね」

「そりゃあもう、一年ほど一緒に居ましたから」

 なんだか可笑しくなって、ふたりして笑った。

「お待ちどうさま。賑やかですね、何か良いことありましたか?」コーヒーは後でお持ちしますね、微笑み踵を返した。

 苺のパフェも二つ並んで、ふたりして笑った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 前回のお話から、シンクロする話ですね。 思い出が積み重なって、波長がそろう瞬間を楽しんでいるのがすごく良いです。 最後に、苺のパフェが並んでいるという締めに、センスを感じます。
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