表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チート  作者: 瀬戸 生駒
1/3

異世界転生してチートになる話

異世界に転生すればチートになれる?

そう知った俺は異世界転生を決めた。

だがそこは、バカしかいない世界だった。

そりゃあ、バカ相手にならチートにもなれるさ。


バカを相手に無双を決める、俺の勇姿を見てくれ!

 オレは両手で握りしめた包丁の切っ先を見た。

 アパートの、ドアをノックする音が止まらない。


 異世界転生がブームらしい。

 なら、オレも流行に乗ってやる。


 関東の大学を卒業して、オレは大学の進路指導に言われるまま、就職した。

 が、そこがブラックで、中学生でもあるまいし、毎日朝礼がある。

 残業させられることもあったが、手取りは20万円を前後する。

 搾取だ。

 過労死させられたら割に合わないので、半年ほどでそこを辞めた。


 次は慎重に会社を選ぼうと考えた。

 よく広告を見かける、住宅販売の会社にした。

 ここはやる気次第では、月給手取り50万円もあるという。

 が、やはり罠があった。

「デキダカ」とやらで、売り上げを出さないと、むしろ前の会社よりも手取りが減るのだ。

 1日歩き回って電話もかけまくったが、怒鳴られたりガチャ切りされたり。

 上司が「ねばれ」というので真に受けて粘っていたら、警察を呼ばれて説教された。

 警察沙汰になるような会社は危ない。

 聡明なオレは判断して、そこを辞めた。


 仕事はなくても、腹は減る。

 大卒のオレが、コンビニでバイトをしてやることにした。

 ほかの店員は、高卒か、在学中の奴もいる。

 オレは高学歴者として、そいつらを指導してやろうとしたが、逆ギレされた。

 バカの相手は疲れる。

 バックヤードでタバコを吸って時間をつぶした。

 メシもタバコも、売るほどある。

 それを福利厚生に使っても文句はないだろうに、店長がわめきちらした。

 キ○ガイの相手はやってられないので、コンビニも辞めた。


 無職でも腹は減る。

 職探しもかねて歩いていたら、電柱に「無審査・無担保」というチラシが貼ってあったので電話をしたら、すぐ金が届いた。

 電柱を次々調べ、貼ってある番号に電話をかけ続けたら、半日もかからず最初の会社の月給を超えた。

 これは割がいいと荒稼ぎしていたら、1週間ほどたったころ、督促がきた。

 ふつう「無審査・無担保」ときたら「返済不要」だろう。

 そう思わせておいて金を奪おうとするのは、893に違いない!

 893には関わらないに限る。


 893といえば、オレが住んでいるアパートのオーナーもあやしい。

 建物は、人が住まなくなると、朽ちる。

 そこでオレが住んでやっているのに、感謝どころか「家賃」といってミカジメ料を求めてきたのだ。

 これが893でなくてなんだ?

 企業舎弟に違いない。


 そのうち、電話が止まった。

 スマホが使えない。

 通話は特に必要ないが、ネットは現代では社会インフラだ。

 それを、ほんの2ヶ月滞納しただけで止めるとは、社会正義に反する。

 おそらく、昭和の老害が判断したのだろう。


 あ。電話が使えないと、困ったことがおこる。

 クレカが「このカードは使えません」となったのでクレームを入れようと思ったのだが、ホームページにも行けないし、通話もできない。

 利用者に不便をかけておいてこの対応は何だ!


 そんなとき、オレは本屋の「試し読み」で、異世界転生を知った。

 試し読みだが、高学歴のオレなら、少し読めばすべてがわかる。

 異世界に転生して、現代の最先端知識を使い、チートになるのだ。

 やがて勇者となり、美しい姫をめとって王となり、住民から崇められて神になる。


 そこまではわかる。

 が、残念ながら、オレは大学で剣も魔法も受講していなかった。

 あるいは、教授が謎の呪文を唱えていたから、あれが魔法だったのかもしれないが、教えていたのは「眠り」の魔法だろう。

 オレがいくら優秀でも、教授も含めてまわりがバカばかりだから、難しい魔法は誰も使えない。

 大学も含め、学校はバカにレベルをあわそうとする。


 アパートのドアをノックする音が、蹴るような音に変わった。

 人数も増えているようだし、異世界転生するなら、今しかない。

 剣と魔法の世界では、オレはなれて賢者だろう。

 いや。

 別に名誉にこだわらなければ・・・ふと外を見て、赤色灯を回すパトカーが目に入り、ひらめいた。

 異世界でガソリンスタンドを経営すれば、商売敵もいないし、オレが独占できる。

 トヨタもホンダもオレ抜きには動かない。

 オレにひれ伏すしかない。

 オレはトヨタを超えられる!


 ばん!


 思わずにやけたタイミングでドアが破られ、紺色のベストを着た集団が土足で踏み込んできた。

 オレを羽交い締めにして「身柄確保!」とさけんでいる。

 トヨタに先手をうたれたか。

 背中に[POLICE]の文字を見とがめたオレは、資本主義と国家権力の犬を唾棄した。

 同時に、意識が混濁した。



 目に入ったのは、淡いピンクベージュの壁。

 部屋のすべてが、パステル色の、柔らかそうな素材でできている。

 現実感がない。

 角もない。

 あ。ここが異世界か。

 オレは転生したのか?


 落ち着きを取り戻し、部屋を観察する。

 窓は、一番内側が防虫ネットのようになっていて、その向こうに金属っぽい棒、その向こうがガラスか クリスタルか、透き通った素材だ。

 さらに細部を見ようと身体を起こそうとするが、これまたパステルブルーの全身防具(?)のため、かなり不自由だ。

 だが、素材そのものは柔らかく・・・・

「わははははは」

 オレはこみ上げてくる笑いを抑えられなかった。

 これが防具だとしたら、この世界には剣がない。

 あるのなら、こんな防具では切り裂かれてしまうから、逆説的に考えれば自明だ。

 そのくせ、窓にはまった金属っぽい棒は作れるらしい。

 それを武器に転用しようという知恵がないのなら、おそらく魔法もない。

 オレが「武器」という概念を使えば、無敵の勇者になれる!


 よし。

 この世界でオレは頂上に立つ!

 が、ベッドから落ちないようにか、ベルトで身体が固定されていて、動きにくい。

「おーい!」

 声をあげてみたが、返事がない。

 まー、バカの世界だ。

 ここで一番に駆け寄ってきたヤツを、オレの王国の大臣にしてやろうと思ったが、そんなオレの思慮にも気がつかないようだ。

「おーい!」

 もう一度大声を出したが、やはり誰も来ない。

 ばかばかしくなって、オレは眠りについた。


 目を覚ますと、5人の男達がいた。

 全員白衣というか、淡いベージュの白衣みたいなデザインの服を着ている。

 うち、4人はオレから見ても屈強そうだが、1人はジジイだ。

 そのジジイ、おそらく長老が口を開いた。

「あなたの名前は?」

 ・・・・・。

 やはり、勇者っぽい名前を名乗るべきだろうか。

 いつかオレの名を記した伝説が世界に広がったとき、本名ではしょぼすぎる。

 逡巡していると、両親の名前を出して「わかりますか?」と尋ねてきた。

 これは、何かの引っかけか?

 やはり黙っていると、ジジイが「2人はあなたのことを『知らない』と言っています」と。

 ほら、やっぱり引っかけだった。

 転生したオレと、かつて両親だった2人とは、もはや無関係だ。

 もっとも、さすがバカの世界、2人もバカだ。

 血縁者と名乗れば、オレが世界の頂点に立ったとき、世間のリスペクトのおこぼれが得られただろうに。

 思わずオレは笑い出してしまった。


 それから何日かたち、何度か男達がきて、会話と食事をした。

 武器を思いつかないバカの世界だけあって、箸もナイフもフォークも思いつかないらしい。

 かろうじてスプーンはあるようだが。

 味付けは薄味というか、味がついていない。

 味をつけることすら思いつかないほど、バカだったのか。

 コンビニ弁当1つで、その世界でも頂点が狙える。

 なるほど。前世の知識を残して転生するとチートになる理由に合点がいった。



 それから何日たっただろうか。

 魔王も世界も、どうでもよくなってきた。

 国も大臣も、どうでもよくなってきた。

 ただ・・・シモの世話は、できれば可愛い女の子にして欲しい。

 器量次第だが、妾にしてやる。

 オレがそう言うと、長老は首を振って部屋から出て行った。

 明日、また来てくれるだろうか?

 おむつ交換でも。

 そう考えたオレは、たった今出し切ったばかりの下腹部に、力を込めた。

誤字脱字など気がつかれましたら、ご指摘ください。

すみやかに訂正致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ