兵士は大変なんだぞ
兵士片方の視点です。
俺はオースティン、ガルシア大陸オルベトリア地方アリシア領で生まれて今は一般兵をやっているごくごく普通の男だ。
一般兵、といっても戦争なんて滅多に起こらないから普段は警備と訓練くらいなものだな。
で、だ。俺はアリシア領から少し離れた、森の民とやらが住んでいる森にいる。
理由は簡単、この森に突如として現れたあの遠方からも見える大樹を調べにきたってわけだ。
まぁ、あんなもの自然発生させられるほどこの世界は不思議で溢れちゃいない、あれはどうみても人為的なものだ。だが……
俺の生まれたフォルト村は森の民とも交流があり、俺自身は会ったことはないがおふくろ曰く「自然を愛する人達が集まって出来た民族のようなもので、地位や名誉などには興味がない」らしい。一言で纏めれば温厚だ。
第一、あんなに大きな樹を一瞬で出現させるなんて見たことはおろか聞いたこともない。
まぁ、御託を並べたところで森の民がやっていないという確証もないわけで。
やってたらやってたで真意を聞く、やってないならやってないで調査する、なんにせよ原因を突き止めなきゃ始まらねぇ。
というわけで聞き込みから、と同じく調査に同行した同僚のリオットと歩いた。
--聞き込みするはずが、いきなり長老に通され雑談になるとはどういうことだ?
しかも大樹のことは知らぬ存ぜぬ。リオットも怪しいと思ったのか苛ついてはいるものの粘り強く質問を繰り返している。
はぁ、とオースティンは心の中で溜め息をついた。慌てる様子もなくただ知らぬ存ぜぬを貫く老人に、自らの祖父の影を見たオースティンは、その様子に何か知っているなと確信する。
「ですからね、大樹について何故突如発生したのかについて知りたいのです、ここ数日なんらかの異変がありませんでしたか?」
「はて、異変と申されましても……神が降りてこられた以外は何も……」
神?とオースティンは長老をみる。--嘘をついてる様子にも見えない、妄言か……リオットもそう思ったらしく聞こえるか聞こえないかの音量で舌打ちをして剣を抜いた。
「おい、それ振り回すなよ。あくまで俺達は危害を加えるために来たんじゃねぇぞ」
「チッ、わーったよ……」
やれやれ、こいつも血の気が多いな……そう思いながらも長老が剣に驚かなかったことと神という言葉に引っかかりを覚えた。
それについて思考する前に、森を抜けて青年が現れる。
やや大人びたそいつに、何らかの直感が働く。
「ちょうどよかった、そこの優男。大樹が発生した 現象について何か知らないか」
青年を呼びつけた兵士二人が今年、いや人生で一番かもしれない程の驚きを得ることは知る由もなかった。
フレイ到着までの兵士視点の様子です。
オースティンとリオットは黒髪と赤茶髪の兵士です。二人は親友と呼べるくらいの気軽な仲ですがさすがに任務中はそういう姿は見せないようです。