世界を、起こしました
アイリスが地面を指さしくるっと円を描くとフレイの足元に円が現れ、淡く光り結界が完成する。
「絶対に出ないで、くださいね。気にあてられるかもしれませんから……」
気がどういう物かは知らないが危険かもしれないと思いこくこくと頷くと、アイリスはにっこり微笑む。そして、そっと笑みを携えたまま湖を振り返ると、体から再び銀の輝きを出し歩き出す。
結界の中からフレイはこの空間の全てが歓喜にうち震えるのがわかった。
キンッ、パシッパシッ、と空気が音を立てる
アイリスが歩きながら手をゆっくりあげると湖の水がゆらりと浮き上がり、空中でくるくると回りながら上昇し、降ろすと同時に湖へ還る。
水面に足を乗せても、沈むかもしれないという恐怖などなく全身の力を乗せる。そして、降り立ったときと同じように水面を歩くと波紋が揺れ動く。
すぅ、と息を吸うと引き寄せられるように木々が凪ぐ。
--『星霜に微睡む大地よ』
小さな唇から紡がれるのは、歌。
その声は森全体に響きわたり、大地を揺るがし、星に染み入る。
『目覚めよ、此は天命である』
言霊に音色を乗せ、息遣いから全てが魔法のように増幅され呼応する。
結界で阻まれていても感じるその巨大な力の奔流に流されかけるも、フレイはなんとかおし留まりアイリスを見守る。
『我が祈りと乞いを以て』
水が一滴、また一滴と浮かび上がる。
幻想的な世界はアイリスだけが楽しそうに歌っていて、しかし世界全てが応えるように喜びを伝えている。
その世界を創り出せるのもまた、アイリスだけなのだとフレイは実感した。
『この地に我が慈悲を、目覚めよ』
瞬間的に光が瞬き、瞼を貫く光がゆっくりと消えていくと、それが終わったのだと感じた。
フレイはそろそろとゆっくり目を開き……そして、目の前にある物に絶句する。
「終わりました、これでいいでしょう」
湖の中心に、大樹がそびえていたのである。
ま、また長さがバラバラに……。
アイリスさんはチート級です。なんせ、神様ですし。