この世界は、複雑なのです
湖へ向かう道をさく、さくと。相変わらず草を踏みしめる裸足は軽やかな音を立てる。
フレイは靴をと思ったが、必要ないと手で示された。指先に導かれ足を見やると、傷はおろか土すらついていない。
「アイリス様、これは……」
「精霊が。彼らが、私を汚すことを良しとしないので、私には傷もつきません。その代わり、私の歩いた場所も私が汚すことはありません」
それに、アイリスと呼んでくれてもいいのですよ、と少女は笑う。
「そういうわけには……アイリス様、これから何をなさるのですか?」
「この世界を、もう少し活性化させるのです」
そう言われてもフレイにはわからない。だがアイリスは聞き返される前に言葉を紡ぐ。
「この世界の精霊は、力が多いです。ですが、大地と星の力がそれに追いついていないのです」
--この世界の精霊は、星の意思です。その力強さに惹かれて私はここに参りました。
しかし少し歩いてみるとこの星は、精霊の強さに比べて星の力が劣っています。これでは彼らの輝きは真価が発揮されません、なので大地を、この世界を少し活性化させるのです。
歩きながら話を聞いていたフレイは、理解したようなしていないような、霧の中を進むような気持ちになった。
「それは、この世界に、私達にどんな影響を及ぼしますか?」
「全てに、としか表現しようがありません……魔法も使いやすくなるでしょうし、人為的に滅びぬ限り大自然は尽きることはないでしょう。」
ただし、魔の者にも影響を及ぼしますが……と小さく呟いた言葉はフレイに聞こえたらしく、振り返れば表情が驚きのまま強ばっている。
思案するように揺れ始める瞳が不安を語っているようでアイリスはまたもやころころと笑った。
「大丈夫、今日明日で魔の者が強く変わることはありません。心配せずとも、魔に影響が出始めるのは何十年も先ですよ。」
「それは良かったです……」
「さて、湖に着きました。フレイ、そこで待っていていただけませんか?」
説明会になってしまいました。
長く説明させたくはないですが仕方がないはずです、はず。