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ありふれた異世界転生もの  作者: てきとうな人
ウルーク王国編
8/104

8、新たな旅立ち

 

 

「鉱山の町セルエムまで、商人の護衛をしてみんかね?」


 カルノー冒険者ギルドにて、支部長からの誘いは願ってもない、それゆえに怪しさ満載の依頼だった。

 世界を見て回ることを決めた翌日。次の目的地へ行くついでに、何か良い依頼はないかと冒険者ギルドへ来たらこれである。


「お断りします」


 あまりのタイミングの良さに、昨日の話を聞かれていたような気がして、即座に断ったのも仕方ないことだろう。


「ふぉふぉ。相変わらずつれないの。

 まぁ、話だけでも聞いてくれんか?」


 護衛するのは支部長が目をかけている商人だが、まだ独立したてで、あまり金の余裕がないらしい。本来なら、その少額の予算で雇える人員で十分なはずなのだが……。

 支部長曰く。


「どうも嫌な予感がするのじゃ」


 とのことだ。

 知ったことではない。と、言いたかったのだが……。


「商人のサミルといいます。あの、申し訳ありませんが、どうかお願いできませんか?」


 と、実に気の良いお兄さんなのだ。これでもし本当に何かあったら、とても後味の悪い思いをするだろう。


「……はぁ、分かりました。よろしくお願いします」


 それからすぐに出発したオレたちは、カルノーの東門から町を出た。移動はサミルさんの幌馬車。鉱山の町セルエムまでは、馬車で三日の距離だ。


「改めて、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。

 オレがアキラで、こっちがアリスです」


 オレが隣に寄り添うアリスを紹介すると、サミルさんは。


「良い関係を築いておいでですね」


 なんて、感心したように言ってくれた。

 サミルさんは二十三歳。三年前にカルノーの商人の所から独立し、行商を始めたらしい。


「アキラくん、……アキラたちは、二日でゴブリン十九匹も狩って来たんだって?」


 オレたちには敬語はいらないと言っておいた。そうしたら、オレも敬語を使えなくなったが……。


「たまたまゴブリンの巣を見つけて、奇襲することが出来ただけだよ」

「いやいや。Eランク冒険者の実力ではないよ。まぁ、こちらとしては安心して任せられるけどね」


 どうやら二日で十九匹はやり過ぎだったらしい。正確には、爆散させた分を合わせて二十匹だが、誤差の範囲だ。

 ここは話をそらそう。


「そういえば、嫌な予感がする。なんて言ってたけど、何かあるのかな?」

「あの方がそうおっしゃるんだ。何らかの情報を握っておいでなんだと思う」


 あのジジイめ。これは、高確率で面倒な事が起こると思っておいた方が良さそうだ。


(……もし盗賊とかだったら、オレは人を斬れるのだろうか)


 一応人型をしていたゴブリンだったが、やはりモンスター感が強かった。明確な人間となると、果たして斬れるのか。

 この世界で生きて行くと決めた。とはいえ、そこまで元の世界での価値観を捨てても良いものか……。

 


ーーーーーー

 

 

「サミル、馬車を止めて」


 オレがそう言ったのは、カルノーを出発して二日目。旅路も半ばを過ぎたころだった。

 天気も良く、夜はオレとアリスで交代して見張りをして、と順調にここまで来たのだが。


「どうした?」

「ご主人様……」

「うん、いるね」


 100メートル程先の岩を指差し、サミルに伝える。


「あの岩の陰に十二、武装したやつらがいる」


 指差されている事に気付いたのだろう。ゾロゾロと姿を現わす。


「チッ、なんだぁ? ガキ共じゃねえか」

「おいおい。尻が出てたヤツでもいたのか?」

「グハハ。そいつは今日メシ抜きな」


 騒がしく喋りながら、馬車に引き返す間を与えないように走って近付いて来た。

 剣や槍を持ち、鉄製らしき防具を身に付けている。


「どうやら脱走兵のようだね」

「脱走兵?」


 やや青ざめたサミルの分析に、馬車を降りながら尋ねる。


「崩して着てはいるが、似通った装備に紋章を削った跡がある」


 そうこうしていると、馬車の進路を塞ぐように半円形に囲まれた。


「おほっ! スゲェ上玉がいるじゃねぇか!」

「アレなら壊れてもしばらくは楽しめそうだな」


 ギャハハと下品に笑いあう。


(よし殺そう)


 一瞬で迷いが晴れた。オレのアリスに手を出そうとしたのだ、慈悲は無い。


「オイ! ガキ共! 大人しくしてれば苦しまないように殺してやるぞ」


 クソが何か騒いでいるのをよそに、アリスに確認する。


「アリスはやれる?」

「大丈夫です。ご主人様の敵に容赦するつもりはありません」


 最低限の問いだったが通じたようだ。


「ありがとう。じゃあ、()ろうか」

「はい」


 どれほどクソでも、元兵士。訓練は受けていただろうから、実力は高いと判断。

 常に発動している『身体能力強化』を一段階上げて、『思考速度上昇』も発動。クソ共の中心で大剣をかつぎ、先ほどから何か言っている大柄なヒゲもじゃとの間合いを一瞬で詰め、抜き打ちで首を刎ねる。

 首を失った体を左の集団へ蹴り入れて、そちらを指差しアリスへ合図。オレは真ん中から右を殲滅することにした。

 驚愕の表情をしながらも、剣を構えようとする二人目の喉を貫くと、剣を引き抜くついでに、後ろにいるクソに向けて蹴り倒す。

 アリスも左の集団へ向かうと、瞬く間に呆然としていた三人の喉を突く。


「……な! なんだこいつら!?」

「バカな! 隊長と副長が!」


 発言内容を聞くに、部隊単位で脱走したような印象。

 そして狙い通り、オレが殺した二人がリーダー格の隊長と副長だったらしい。隊長(たぶんヒゲもじゃ)の実力は分からなかったが、副長|(たぶん二人目)は『身体能力強化』したオレの動きに反応し、剣を構えようとしていた。結構な実力者だったのかもしれない。

 あっという間にリーダーを失った為か、クソどもは状況を理解出来ず立ち尽くしている。


(一人ひとりはゴブリンより強いのだろうけど。こちらを完全に舐めていたぶん、本能で動いたゴブリンよりやり易かったな) 


 逃げ出さないでくれたので手間が省けた。

 オレが五人、アリスが六人倒した時、残っていたのは、副長の下敷きになってもがいているクソだけだった。


「……ひぃっ。何なんだよお前ら」


 まだ殺していないのは、聞きたい事があったからだ。


「お前らどこから来た? これで全員か?」

「ひっ! ネシアス帝国からだ。この近辺へ来たのはこれで全員だ。……なぁ、頼むよ、見逃してくれ」


 どうやら、これ以上はいないらしい。一安心だ。


「そうか。ありがとう」


 そう言って最後の一人の首を刎ねる。この手のクソは、生かしておいてもロクなことをしないだろう。


「ありがとう。アキラたちじゃなかったら終わっていたよ。それにしても、本当に凄いな。まったく動きが見えなかった」

「いやいや。こちらを完全に舐め切ってたし、最初にリーダー格を倒せたのは大きかったよ」


 効果があるかは微妙だが、オレの実力自体は大したことはないのだと言っておく。


「フフ、まあそういうことにしておこうか。

 ところで、どうする? 彼らの装備は僕が買い取ってもいいけど?」

「ありがとう。お願いするよ」


 さすがは商人。仕入れのチャンスは逃さないらしい。

 サミルから聞いたのだが、ネシアス帝国は、ここウルーク王国の東に位置する大国だ。


「ネシアス帝国といえば、最近は軍備を増強していると聞く。数が増えれば目が届き難くなり、こういった輩も増えるということだろうね」


 ここで何事か考え込んでから。


「……これは、各地に報せておいた方が良さそうだ」


 と言っていた。

 そのあとは何事もなく、予定通り三日目には鉱山の町セルエムに着くことが出来た。

 

 

ーーーーーー

 

 

「じゃあ、ここまで本当にありがとう。また今度よろしく頼むよ」

「あぁ、こちらこそありがとう。馬車のおかげで楽にこれたよ。また今度」


 サミルに依頼達成証明書を貰い、門の所で別れた。


「……ここが、セルエム」


 アリスが感慨深げに呟く。


「じゃあ、まずは冒険者ギルドへ行こうか」

「はい♪ 分かりました」


 暮れゆく陽に照らされて赤く染まる石造りの街並みは、鉱山の町ゆえか無骨な印象がある。


「はい、確かに。では、こちらが報酬になります。お疲れ様でした」


 やはり役所のようなギルド内。これも変わらぬ受付のおばちゃんに報酬を貰った。


「よし。観光は明日にして、今日はもう宿に行こうか」

「はい。今日はお風呂に入れますね♪」


 今回も食事が美味しいという噂の宿屋だ。


(この町の名物料理が今から楽しみだ)


 宿屋のある通りへの近道のつもりで裏路地へ入ったのは、ほんの気まぐれだった。

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