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プロローグー8

 念のために書きますが。


 この世界では日本海海戦は起こっていません。

 従って、東郷平八郎元帥の神格化は海軍内で、陸軍に対抗するための虚像として行われています。

 主人公の土方勇志や林忠崇が東郷元帥に辛辣なのはそのためです。

 山本権兵衛が首相に就任して、第一に取りかかったのが軍部大臣現役武官制の改正だった。

 護憲運動の高まりを背景に陸軍の猛反発を迎え込み、軍部大臣の資格を予備役、後備役に拡大したのだ。

 また、政友会等の要望を入れて、文官任用令の改正をし、自由任用の官職を増やした。

 だが、政治主導で行政が乱れる原因になると言うことで、内務省を中心とする官僚の猛反発も生んだ。


 こうした状況を危ぶんだのが、林忠崇だった。

 林は東郷平八郎と共に元帥に昇進していた。

 山本首相は、海兵隊出身の林を好んではいなかったが、日露戦争の功績を理由に東郷を単独で元帥に任命しようとしては身内重用、身内びいきが過ぎるという非難が起きると考え、東郷と林を共に元帥にしたのだった。


 実際、日露戦争の戦果を比較すると、どうみても林の方が東郷よりも大きかった。

 陸軍からも山県有朋元帥を筆頭に東郷が元帥になるくらいなら林を元帥にすべきだろうという声があった。

 旅順で奉天で海兵隊の現場のトップとして奮戦し、陸軍に勝利をもたらした林は陸軍内部からも評価が高かった。


 元帥となった林は、山本首相に海兵隊出身の斎藤実中将を海相にし、粛軍することを勧めた。

 当時、海軍内では外国のメーカーに軍艦等を受注する際に、見返りの金品が上層部の海軍士官に贈られることが半ば公然の事実となっていた。

 儀礼上のものだと言い張っていたが、賄賂と見られても仕方ない。


 こういった悪習を廃止しないと足元をすくわれる、陸軍や内務省では山本首相に対する反感がかなり強い、大疑獄がでっち上げられても仕方ないぞ、と林は元帥として山本首相に忠告した。

 斎藤は海兵隊出身なので、海軍本体から離れており、粛軍をするにはうってつけだった。

 山本首相は林の忠告を受け入れ、斎藤を海相にし、粛軍を行った。


 そのためシーメンス事件が発覚した際は、既に該当軍人は軒並み処分されており、山本首相は身内と言えども襟をきちんと既に正しているとして、世論から悪評はそれほど出なかった。

 また、林は山県元帥と山本首相の間を仲裁して、海軍予算を割いて、陸軍予算に回すことも行っている。

 幾ら山県が山本首相に反感を抱く元老であり、伊藤公亡き後、元老の第一人者にあるとはいえ、ここまでの手が打たれては、山本内閣倒閣という動きまでは山県はしなかった。

 そのために1913年の年末現在、山本内閣は健在であったのである。


「実際問題として、第二次日露戦争が起こる可能性は当面低いがな。

 日英同盟と露仏同盟で戦っては独が笑うだけだ。

 それに下手をすると米国も日英側に立ちかねない。露の勝算は低い。

 露は伝統的に勝算が立つ見込みが立ってから開戦している。

 日本から開戦する理由も今のところは無い。

 当面はゆっくりと軍拡を図れば日本は十分なはずだ。

 実際問題として今の日本は、南満州と朝鮮半島の開発で手一杯だ。

 山本首相もそれを承知している。

 山本首相としては、私の忠告で海軍予算を割いて、陸軍に予算を回したことや粛軍によって海軍部内で自分に対する反感が高まっているので、露海軍の脅威を叫び、海軍増強は遅れてもやるという態度を取らざるを得ないのだろう。

 実際、金剛級に続いて戦艦2隻を建造するはずが、予算上1隻来年に延びてしまったからな。

 東郷元帥はそれで激怒していた。

 私が英米という味方がいるではありませんか、となだめたが、英米を本当に信用できるのか、と火に油を注いでしまった」


「薩英戦争の恨みがまだあるのかもしれませんな」

 林元帥の言葉に土方大佐は合いの手をいれた。

「全くだな。

 毎年、帝国国防方針を立ててはいるが、当面、日本は平和なはずだ」

 林元帥は言った。

 これで実質的にはプロローグは終わりです。

 

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