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第3章ー18

 1916年7月の戦況等の説明回です。

 6月末に独軍がヴェルダン要塞攻略を完全に断念し、守勢に転じたのは戦況の全般的な悪化もあった。

 6月4日に東部戦線で露軍が後にブルシーロフ攻勢と名付けられる大攻勢を発動、最終的に墺軍に150万人もの大損害を与えるほどの戦果を挙げたうえに、伊軍もそれに呼応する姿勢を示した(実際に第6次イゾンツォ攻勢を伊軍は8月になって発動する。)ために、独軍は東部戦線に大量の増援を送らざるを得なくなった。


(もっとも、この攻勢は最終的に露軍の最後の大攻勢になる運命になった。

 露軍もまた大量に損害を被ったからである。

 最終的に露軍の損害は50万人から100万人に達したとされ、この損害がロシア2月革命の導火線の1つになった。

 結果的にブルシーロフ攻勢は墺露独土4つの帝国の最初の崩壊の引き金になったともいえる)


 更に西部戦線の英軍もソンムで攻撃を行った。

 これへ独軍が対処する必要もあった。

 そして、何よりも大きかったのは、ヴェルダン要塞攻撃で損耗したのは独軍の方だったという事実である。


 6月末の時点で、独軍の死傷者は40万人に達していた。

 一方、仏軍の死傷者は20万人、日本軍の死傷者は4万人である(なお戦病者も含む)。

 仏軍の2倍の損害を受けていては、独軍が先に破たんする。

 消耗戦略で自軍の方が消耗してはどうにもならない。

 独軍がヴェルダン要塞攻略を断念したのは、このこともあった。


 この結果を受けてペタン将軍は栄転し、その代わりにニヴェル将軍がヴェルダンの仏軍の指揮を執ることになった。

 ニヴェル将軍は、まずは攻勢防御に努めることにした。

 1914年の開戦から2年が経ち、仏軍の士気は低下していた。

 本格的な攻勢に転じるのは、日本の海兵隊の再編制が完了して、それを先鋒に立てることができるようになってからにしよう、ニヴェル将軍はそう考えた。


「岸、少将昇進おめでとう。

 更に第4海兵師団長拝命とは」

 土方勇志大佐は岸三郎少将の下を訪れて祝った。


「嬉しさも余り感じないがな。

 何しろこれだけ損耗した状態で師団長を拝命してもなあ」

 岸少将は言った。


 余りの損害に、とうとう海兵師団は旅団司令部を廃止し、4個連隊から3個連隊を基幹とする3単位師団への改編を余儀なくされていた。

 かつて奉天会戦時の海兵師団には16個海兵大隊がいたのが、今や9個海兵大隊が基幹になっている。

 その分、砲兵が増えたり、機関銃が増強されたりしているので、火力的には奉天会戦時の海兵師団より、この新しい海兵師団の方が遥かに優秀だが、索漠たるものが感じられるのは往時を知る者からすれば仕方がないことだった。


「土方はまた前線に行くのか」

 岸少将は尋ねた。

 もちろん、岸も知ってはいる。

 だが、土方本人の口から覚悟を直接聞きたかった。


「ああ、8月を期して再編制された第1海兵師団の一員として参加する。

 柴中将がまた前線で指揮を執ることになるだろう。

 後、第2海兵師団も参加だ」

「頑張れよ」

 岸少将は言った。


 旧第1海兵師団と旧第2海兵師団で特に損耗が酷かった1個連隊ずつが第4海兵師団の基幹となっている。

 後、第3海兵師団からも1個連隊が第4海兵師団に転属された。

 当然、補充と再編制には時間がそれだけかかる。

 第3海兵師団と第4海兵師団が前線に赴けるのは早くて10月になるだろう。


 何しろ、祖国の日本は余りにも遠い。

 補充兵が来援するのに2月は掛かる。

 しかもその補充兵が万単位で必要なのだ。

 第1、第2海兵師団にはとうとう現役水兵からの転属組が混じり出している。

 志願兵だけでは追いつかないのだ。


「ああ、できる限りのことはする」

 土方大佐は原隊に戻った。

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