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第3章ー17

 ヴォー堡塁にZ旗が掲げられたことは、この堡塁を攻める独陸軍を激怒させたことは間違いなかった。

 独陸軍にしてみれば、たかが海軍(しかも、黄色人種、独皇帝に言わせれば黄色い猿の)が護る堡塁1つ、独陸軍に落とす力はないと公然と日本海軍に嘲笑されたようなものだったからである。


 実際に、ロンドン・タイムスやフィガロ、果ては中立国の新聞であるワシントン・ポストまでが写真入りで、このことを報道して、ヴェルダン要塞は難攻不落である、何しろ日本海軍の水兵が護っているこの堡塁一つ、独陸軍は落とせないのだから、とわざと(戦意高揚のために)誤報した。

 独陸軍の面子は丸潰れだった。


 このことが遠因になってファルケンハイン将軍は参謀総長を罷免されてしまう。

 独陸軍は何としてもヴォー堡塁を陥落させようとした。

 そして、日本海兵隊はヴォー堡塁を死守するために死闘を演じることになった。


「全くいい加減にはヴォー堡塁攻略を諦めてほしいものだ」

 鈴木貫太郎少将は飄々とぼやいた。

「あそこまで挑発しておいて、諦めるわけがないでしょう」

 第3海兵師団司令部の参謀の1人が呆れるように口を挟んだ。

 ちなみにその参謀は中佐で米内光政という名前だった。


「わしは挑発はしとらん。

 挑発と取ったのは、独軍だ。

 相手の提案を黙殺すると言ったら、自分の提案が拒否されたと勝手に解釈して怒ったようなものだ。

 迷惑な話だ」

 鈴木少将は平然と言った。


「ものは言いようですね」

 米内中佐は呆れ返った。

 鈴木少将は米内中佐に尋ねた。

「ところで、ヴォー堡塁は護りぬけるか」


「参謀にそれを尋ねますか?」

 米内中佐は肩を思わずすくめた後で言った。

「塹壕線を何重にも第1、第2海兵師団が張り巡らせてくれています。

 そして、近接戦での火力発揮は旅順要塞攻防戦、営口の戦い、奉天会戦と海兵隊のお家芸です。

 我が海兵隊の将兵はヴォー堡塁を補給が届く限りは死守して見せますよ」


「よく言った。

 それでこそ、サムライだ。

 サムライならばそれくらいの大言壮語はできんといかん」

 鈴木少将は破顔大笑した。


 その笑いは周囲の参謀たちにも伝染した。

 よし、まだ、参謀に笑う余裕がある、我々は戦い抜ける、鈴木少将は表情に出さないようにしながら心の片隅で思った。


 実際にその通りに1か月の間、第3海兵師団はヴォー堡塁を護りぬくことに成功した。

 もちろん、損害は大きかった。

 師団司令部まで最前線で戦い、死傷したくらいである。

 鈴木少将は重傷を負い、ヴェルダンから完全に後送された。

 米内中佐も自ら最前線の指揮を執り、臨時の海兵連隊長として自ら機関銃を乱射した末に、独陸軍歩兵の突撃を阻止することさえした。


 6月の間に第3海兵師団の人員の7割以上が死傷してしまった。

 その奮闘振りは、ヴェルダン要塞攻略に当たるヴィルヘルム独皇太子をして

「援軍として独軍近衛師団をもらえるくらいなら、日本の海兵師団が欲しいくらいだ」

 と嘆かせ、これを後に知った日本の海兵隊が独皇太子からの逆感状と誇りにしたくらいであった。


 一時はヴォー堡塁の上を独陸軍歩兵が完全に制圧して、火炎放射により、堡塁に籠る日本海兵隊員に対して窒息死か、焼死かの二択を迫って、更にヴォー堡塁に独帝国旗を翻したくらいだが、海兵隊員の猛烈な逆襲の前に独軍歩兵は結局は撤退の止む無きに至り、そのすぐ後に仏の三色旗、日本の旭日旗、Z旗の3つの旗を日本の海兵隊はヴォー堡塁に翻させさせ、それを見た独軍のある師団長は激怒の余り双眼鏡を握りつぶした。

 だが、ヴォー堡塁攻略に独軍が総力を投じたために仏軍は逆襲に転じる余裕ができた。


 7月になり、仏日軍の総反攻が始まった。 

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