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第3章ー13

 独軍航空隊のベルケ少佐は、新しく表れた赤い丸を付けた航空機の存在に悩んでいた。

 ベルケ少佐率いる第2戦闘機中隊は独軍最精鋭の戦闘機中隊として敵味方共に知られていると言っても過言ではない存在である。

 その第2戦闘機中隊がヴェルダン要塞上空の航空優勢確保に当たっている以上、独軍の空の優位は揺るぐことは無い、とベルケ少佐は誇りを持っていた。


 だが、赤い丸を付けた航空機は小馬鹿にするように日の出時と日没時に単機で表れている。

 あの航空機は囮だ、そう自分の勘がささやいている。

 だが、何のために囮任務をしている。

 1日だけならともかく、3日続けてやられている。


 とうとう上層部からも撃墜するように指示が出た。

 あそこまであからさまにやられては、確かに上層部も無視できまい。

 だが、自分には嫌な予感が拭えない。


「悩むよりは攻撃すべきでしょう。

 全機出撃すれば問題ないでしょう」

 列機のリヒトホーフェン中尉は言っている。

 確かにそうすべきかもしれない。ベルケ少佐は全機出撃を決断した。

 だが、その航空機は10機しか飛び立てなかった。

 そもそも第2戦闘機中隊には12機しかいないし、整備不良も生じた。

 リヒトホーフェン中尉機も整備不良で飛び立てなかった。


「やっと掛かってくれたか」

 大西瀧治郎中尉は笑った。

 草鹿龍之介中尉も苦笑いを浮かべた。

 独軍の戦闘機中隊は10機ほどしかいない。


 10機ならしばらく生き延びてみせる、と大西中尉は豪語し、草鹿中尉はとばっちりを食って、お供をする羽目になったのだった。

「よし、逃げるぞ。ついでに全機撃ち落とせ」

 大西中尉は相変わらず無茶を言う。

 草鹿中尉は迫ってくる敵機に照準を合わせた。


「何としても落とせ」

 インメルマン中尉の怒声が聞こえる気がする。

 ベルケ少佐は共に追撃に掛かりながら思った。

 赤い丸を付けた航空機は自分達を小馬鹿にするように逃げている。

 どう見ても囮だ、ベルケ少佐は周囲を警戒しようと目を配った。


 その目に小さな点々が入った。

 やはり、そうか、ベルケ少佐は一瞬、笑みを浮かべたが、次の瞬間に驚愕した。


「単機で対決するのが不利なら、10倍ぶつけたらどうかな」

 山本五十六少佐は笑いながら言った。

 草鹿中尉は絶句したが、山本少佐の言うことは正しい。

 戦は数だ。確かに自分達には120機がいて、しかも爆撃や偵察任務にあたる航空機さえ、複座戦闘機だ。


 相手に対して10対1の優勢で攻撃できるはずだ。

 山本少佐は、囮任務を大西中尉に命じ、大西中尉はそれを完遂した。

 最早、独軍戦闘機10機は完全に退路を断たれ、上空を日本軍戦闘機100機以上に封鎖されて、劣勢な状況下で戦わざるを得ない状況に陥った。

 後は殲滅するだけだ。

 草鹿中尉は笑い転げたくなった。


「何としても脱出しろ」

 無線機なんてない以上、聞こえるわけがない。

 だが、ベルケ少佐は絶叫した。

 そして、自分は敢えて敵機に躍りかかった。


 単機戦闘に慣れ親しんだ自分が経験したことのない、複数機の共同攻撃だ。

 自分は生還できるとは思えないが、何としても味方を逃がさねば。

 だが、日本海軍航空隊は容赦がなかった。


「何があった」

 リヒトホーフェン中尉は呆然とした。

 ベルケ少佐は再起不能の重傷を負い、残りの9人はインメルマン中尉を含め全員が戦死した。

 10機飛び立った戦闘機は1機も還らなかった。

 日本側の損害は0、独側の完敗だった。


 第2戦闘機中隊は一時、解体されることになった。

 リヒトホーフェン中尉は思った。

 最早、ヴェルダン上空に独軍航空機が飛ぶことはあるまい。

 ここまで大敗しても戦い続けては、ここ以外の航空優勢まで失ってしまう。

 独軍航空隊の終わりが始まったのだ。

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