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プロローグー7

対露政策と現在の日本の政治状況の前編です。

「露はやはり警戒しないといけませんかね。来年の帝国の国防方針でも第一の仮想敵国でしょう」

「まあな」

 土方大佐の問いに、林元帥は答えた後で続けた。


「今となってみればだが、日露戦争時にバルチック艦隊の太平洋への回航を結果的に黙認してしまったのは誤っていたのかもしれん。

 お蔭てバルチック艦隊が太平洋艦隊に成り替わり、その脅威に日本はさらされる羽目になってしまった。

 山本権兵衛首相はその脅威を故意に煽っている。

 全く露のバルト海艦隊が日本に回航されるのには時間がかかるし、黒海艦隊が日本まで来ることはトルコとの関係からほぼ不可能だというのに、露海軍全体より優位な日本海軍整備が必要不可欠と首相自ら叫ぶことは無いだろうに」

「ま、元帥のいう馬鹿が煽っているからでしょう。

 戦艦1隻沈めてもいないのに元帥になるなんて、言語道断です」

 土方大佐は茶化した。


「言ってやるな。

 それは海兵隊が半分原因を作ったようなものだからな。

 それに、そのおかげで私が元帥になれたのも半分当たっているしな」

 林元帥は、ぼやきをこめて言った。


 日露戦争の際に、連合艦隊司令長官を務めた東郷平八郎元帥海軍大将は、結局、黄海海戦で旅順艦隊の戦艦1隻すら沈めることはできなかった。

 日露戦争当時、航行中の戦艦を沈めるのは技術的問題から極めて困難だったのだ。

 バルチック艦隊が来航した時は、と雪辱の思いに連合艦隊司令部は腕を撫して待ち構えていたが、露の停戦協定締結と言う奇策により、バルチック艦隊は悠々とナホトカに逃げ込み、ポーツマス条約締結後にウラジオストックにバルチック艦隊は移動して、太平洋艦隊として再編制された。


 実際問題として、露海軍全体と日本海軍を比較しても意味は無い。

 露海軍は、バルト海、黒海、太平洋と三つの艦隊に分散しているからだ。

 日本海軍は露太平洋艦隊を圧倒できるだけの戦力を揃えれば充分に足りるのだ。

 増援としてバルト海艦隊が来ても、各個撃破されるのがオチだ。

 だが、日本海軍としては組織防衛のためもあり、露海軍全体と匹敵する海軍力整備を叫んだ。


 しかし、日本にとって対露戦争に備えるならば、最も必要なのは陸軍だった。

 陸軍は規模拡張を叫ばざるを得なかった。

 それに併せて中国で緊急事態が発生した場合の派兵兵力として、英米からは日本の海兵隊の増強も求められた。


 日露戦争後の拡張によって、日本陸軍は19個師団を基幹とする兵力に拡張されていた。

 海兵隊も各鎮守府に1個海兵連隊を基幹とする鎮守府海兵隊が置かれ、平時には1個師団規模、戦時下においては海兵2個師団が編制可能になっていた、

(海兵隊は、戦時には3個師団にする構想もあったが、日露戦争時の消耗から補充兵が必要との反論が強く、2個師団になった)

 だが、それでも露陸軍の規模からすれば、蟷螂の斧と酷評されても仕方なかった。


 こうした陸軍増強問題から起こったのが、第二次西園寺内閣における上原陸相辞任問題だった。

 西園寺首相は海軍に好意的で、海軍予算は要求通りに認めたが、陸軍予算は認めなかった。

 上原陸相は抗議して辞任し、後任の陸相を陸軍は選任しなかった。


 山県元帥以下の陸軍首脳部としてはお灸をすえるくらいのつもりで陸軍予算を多少なりとも認めるなら、後任の陸相を選任するつもりだったが、西園寺首相が辞任したことから、陸軍に対する非難が護憲運動として巻き起こってしまい、陸軍にとっては逆効果になってしまった。

 かといって、政党内閣を陸軍は認められない。

 政治的妥協の産物として海軍出身の山本権兵衛内閣が成立した。

 長くなったので、次章に続きます。

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