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第3章ー8

 たこ壺に大田実中尉が籠った後(実際にはある程度、時間が経っていたのかもしれないが、大田中尉の感覚的にはすぐだった)、独軍の砲兵隊の砲撃は試射から効力射に切り替わった。

 大田中尉の周辺に砲弾の弾着音が轟き渡る。

 大田中尉は独軍が毒ガス攻撃を行ってくる可能性に備えてすぐに自分自身がガスマスクを装着してたこ壺の中に伏せると共に、周囲の兵にガスマスクを装着するように更に警報を発した。

 たこ壺の中に自分の身を伏せた後は、ひたすら直撃弾を浴びないようにと大田中尉は祈り続けた。


 そうしないと自分自身が正気を保ち続けられるのか、自信が持てなかったからだ。

 大田中尉は弾着音を聞きながら思った。

 毒ガス対策を自分達に教習してくれた仏軍士官は、砲弾の弾着音で毒ガス弾か通常弾かが聞き分けられると言っていたが、本当なのだろうか、どの砲弾の弾着音もそう大差が無いように聞こえてならない。

 これは自分が経験不足のせいだろうか。だが今はひたすら耐えるしかない。

 大田中尉はひたすら耐え続けた。


 少しずつ砲声が間遠になった。

 大田中尉は意を決してたこ壺から目だけを何とか出そうと試みた。

 たこ壺の土の崩れ具合からすれば、独歩兵には気づかれずに済むかも、と祈りながら行動した。

 幸いなことに小銃弾が掠める音はしない。

 独歩兵は少なくとも自分には気づいていないらしい。


 独仏の歩兵同士が死闘を繰り広げていた辺りに大田中尉が目を配ると、独兵が前進してくるのが見えた。

 勿論、最先鋒は匍匐前進をしている。

 だが、少し後ろの兵の1人は匍匐前進が困難なのか中腰で何とか前進しようとしている。


 考えてみれば当然の行動だ。

 その兵は大型のボンベを背負っている。

 あんなものを背負っていて、匍匐前進ができるはずがない。

 そして、大型のボンベを背負っているということは、大田中尉は考えを巡らせて結論にたどり着いた。


 大田中尉は愛用の38式歩兵銃を構えると共にすぐに狙撃を開始した。

 遠距離だが、あいつは生かしておくわけにはいかん。

 気が付くと周囲の生き残った部下達も同様に狙撃を開始している。

 独軍の砲撃の中で生き残っていた機関銃班の一つも射撃を開始した。

 あいつは、絶対に生かしておくわけにはいかん、と部下達も考えたのだろう。


 誰の攻撃が当たったのかは大田中尉にはわからない。

 だが、ボンベに直撃弾があったらしく、ボンベが炸裂するのが大田中尉の目に入った。

 当然、ボンベを背負っていた兵はその衝撃で倒れると共に火達磨になった。

 やはり想像通りだ、あの兵は火炎放射器を背負っていたのだ。


 ヴェルダン要塞攻防戦が始まったのと同じ頃に独軍に火炎放射器が登場した。

 火炎放射器は塹壕に籠る仏兵に猛威を発揮した。

 特に堡塁に接近した後にガソリンを堡塁に流し込んでそこに火炎放射器で火をつけるという独軍の戦術は仏軍、日本軍にとって腹立たしいことに極めて有効だった。

 何とか引火して火達磨になることは避けられても、堡塁に籠っていた兵は酸欠で窒息死を余儀なくされることが多発していたからだ。


 堡塁を守備する兵が大量に死傷しては堡塁を守備することはできない。

 独軍はじりじりとヴェルダン要塞の堡塁を奪取して、要塞の陥落を策している。

 それに対処するためにも火炎放射器を背負っている独兵は、ヴェルダン要塞を死守している守備兵にとって第一の目標となっていた。


 もちろん、私怨も入っている。

 火達磨で死ぬのも、窒息死するのも御免こうむる、大田中尉はそう思ったし、部下も同様だった。

 その後も死闘が続き、大田中尉が気が付くと独軍の攻撃は止んでいて、部下も何人か死傷していた。

 こんな日々が続くのか、大田中尉はりつ然とする思いに駆られた。

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