第3章ー7
毒ガス等の描写について、できる限り調査したのですが、いろいろおかしい点があると自分でも思います。ご指摘ください。
大田実中尉はおっかなびっくり歩いた。
こんな光景は見た事が無いどころか、想像したことさえなかった。
ヴェルダン要塞を死守するために我々は赴いたはずだが、自分達のいるところが要塞地帯だとはとても思えない。
いざと言う際に自分が頼りにする部下の古参下士官の面々(その中の一人は何かと言うと旅順要塞攻防戦の際に203高地では林忠崇元帥と肩を並べて自分は戦ったというのを誇りにして語りたがる奴だが)も同様らしく、自分と同じように周囲を見回しながら歩いている。
「ヴェルダン要塞攻防戦が始まってから独仏両軍の砲撃の応酬で地上の建造物はほとんど壊されたとは聞いてはいたのだが」
大田中尉は独り言を言いながら歩んだ。
「確かにそう私も聞いてはいましたが、ここまで酷いとは想像以上です。
これでは砲撃の修正に使う目標すら存在しません」
下士官の一人が言った。
自分たちが歩んでいるヴェルダン要塞攻防戦の最前線への途中は完全に荒地と化している。
荒地を歩んでいると砲弾穴が目につく。
そして、下手に砲弾穴には入らないように、事前に毒ガス対策について教習を受けた仏軍士官から自分達は警告を受けている。
砲弾穴がガス溜まりになっていて、そこに入った将兵が滞留していた毒ガスにやられる例が多発しているというのだ。
塩素ガスなら有色なので事前に気が付けないことも無いのだが、ホスゲンになると完全に無色で無臭に近いので、事前にガス溜まりに気づくのは不可能に近い。
ヴェルダン要塞救援のために赴いた海兵隊2個師団はヴェルダンの街で下車した後、徒歩で最前線に赴いた。
仏軍から提供された海兵隊が守るべき場所はヴォー堡塁とその周辺だった。
ヴォー堡塁は、仏国内の新聞報道を信じるならばだが、2月末以来1日に1万発以上の砲撃を独軍から浴びており、仏軍もほぼ同等の砲撃を攻撃してくる独軍に浴びせ返すというヴェルダン要塞でも最激戦区域になっている。
そこを海兵隊に仏軍は守ってほしいという。
海兵隊が高評価を受けていることの表れと言えば表れであったが、実際にそこを死守することになった大田中尉達にしてみれば別の思いがあった。
「これ以上はとても近づけませんな。
この辺りにまずはたこ壺を掘って、それをつなげたらつなぐことで塹壕線を築いていきませんか」
下士官の一人が提案した。
目の前では独仏軍が死闘を繰り広げており、匍匐前進して更に進めないことも無いだろうが、いざということ(仏軍が崩れ立つ等)を考えれば、これ以上の前進は止めておいた方が無難だろう、と大田中尉も考えた。
「よし、各自でたこ壺を掘れ。
いざと言う際にはすぐにガスマスクを装着できるように準備を怠るな」
大田中尉は号令をかけた。
部下はすぐにたこ壺堀りを始めた。
大田中尉自身もたこ壺掘りを始める。
両軍の砲撃のために地面は柔らかくなっている。
すぐに自分の下半身が埋まるくらいにたこ壺が掘れた。
次は横にそれをつなごうとする番だ、大田中尉とその部下たちは黙々と作業を続けた。
幸いなことに、独軍の砲撃は自分達の所には飛んでこない。
独軍の砲兵隊は、最前線の支援に手一杯らしい。このままいけば何とか塹壕線が確立できるのでは、と大田中尉が思っていると、自分達に独軍の砲兵が気づいたらしく、自分達の近く(といっても試射段階で砲弾片による被害は自分達にはまだない)に砲弾が落ちだした。
そういえば、独軍の偵察機の爆音が聞こえていた。
「とりあえずたこ壺に籠れ、作業が出来そうなら、作業を続けろ」
大田中尉は号令をかけて、自分もたこ壺に入った。
砲弾の弾着音は段々近づいてくる。
大田中尉は直撃弾が出ないように祈った。
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