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第3章ー5

 会議が終了して参加者が所属部隊に戻った後、時間をかけて林忠崇元帥は電文を起案した。

 そして、黒井悌次郎参謀長にその電文を示して、速やかに軍令部に打電するように命じた。

 黒井参謀長は難色を示した。

 明らかに林元帥は軍令部を恫喝しているように思われたからだ。

 だが、林元帥はこの電文は英仏も暗号解読で読むだろう、と言葉を付け加えたことで、黒井参謀長は考えを変えることにした。


 確かに、日本欧州派遣軍の総司令官の直電に嘘が潜まれているとは英仏は思うまい。

 暗号をわざわざ解読することで真実味が増して思えるだろう。

 これが海兵隊のやり口か、黒井参謀長は頭を振って林元帥から受け取った電文をそのまま打電するように通信将校に命じた。


「すぐに内山小二郎海兵本部長を呼べ。

 ああ、それから一戸兵衛軍令部次長も呼べ」

 島村速雄軍令部長は林元帥からの電文を読み終えると、慌てて副官に命じた。


 斎藤実が海相を辞任した後、加藤友三郎が海相になったが、伊集院五郎軍令部長と加藤海相は微妙にすれ違うことが以前から多かった。

 そのため1月も経たない内に加藤海相は伊集院軍令部長を更迭し、島村を軍令部長に任命した。


 2人は以前から無二の親友であり、加藤海相は個人的友情から島村を軍令部長に任命したという海軍士官も中にはいるが、島村は極めて有能な海軍士官で、加藤海相が連合艦隊参謀長を務めた際の前任の連合艦隊参謀長でもある。

 だから、順当と言えば順当な人事だったのだが、島村軍令部長が生粋の海軍軍人として海兵隊のやり口にうといのも、また事実だった。


 内山海兵本部長と一戸軍令部次長は、島村軍令部長から見せられた電文を読み終えた後、目で会話した。

 林元帥らしいというか、むしろ、本多幸七郎提督らしいやり口だ。


「この電文の内容だが、以前からお前たちは聞いていたか。

 私は軍令部長になったばかりで天皇陛下からこのことは伺ってはいないのだ」

 島村軍令部長は2人に尋ねるというよりも詰問した。


「初耳ですが、我が海兵隊の上層部では自明の事柄ですな。

 天皇陛下の命令に従い全滅、玉砕する。

 天皇陛下の臣民として最高の誉れではありませんか。

 まさか、海軍本体は違うのですか」

 一戸軍令部次長はとぼけて尋ねた。


 内山海兵本部長が追い討ちをかけた。

「まさか、海軍の方が天皇陛下の命令より大事と言うのですか」

「いや、そんなことはない」

 島村軍令部長はしどろもどろになった。


「それならば、天皇陛下の命令に従うべきでしょう。

 海兵隊は喜んで死地に全員が赴きます。

 海軍本体も同様でしょう」

 一戸軍令部次長と内山海兵本部長は声を揃えて言いながら、腹の中で舌を出した。


 林元帥は電文に次のように書いていた。

「我が海兵隊は準備が整い次第、ヴェルダン要塞攻防戦に参加します。

 ヴェルダン要塞では激戦が続いており、海兵隊員全員が全員戦死するかもしれませんが、天皇陛下の命令に従い、我が海兵隊員はサムライとして同盟国の信義に応えて全員最期まで奮戦する覚悟です。

 全員玉砕し、永訣の電文が打てないかもしれませんので、予めここに打電しておきます。

 天皇陛下万歳」


 内山と一戸は揃って思った。

 こんな電文を見せられては日本の国民の大半が欧州派遣軍に物心両面の援助を叫ばないわけには行かないだろう。

 この電文を批判するということは、天皇陛下を誹謗すると受け取られかねない。


 大正天皇の対応が問題だが、林元帥め、と渋い顔を表面上はしながらも、内心では笑って許されるだろう。

 そして、と2人は更に考えた。

 この電文は英仏が暗号を解読して読むのを想定している。

 英仏はどう対応するだろうか。

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