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第3章ー3

 黒井悌次郎参謀長が、現在のヴェルダン要塞攻防戦の勃発から現状に至るまでの説明を終えた後、会議の場には重苦しい雰囲気が流れた。

 かつての日露戦争時の旅順要塞と同様に、ここまで来た以上、お互いに容易には撤退できない。

 最早、独仏両軍にとってヴェルダン要塞はある意味で象徴と化してしまっている。

 日本軍から撤退を言いだすことはとてもできるものではない。


 空気を変えるためだろう、第1海兵師団長の柴五郎中将が思い切って発言した。

「そもそも何故に独軍はヴェルダン要塞に対する攻撃を開始したのでしょうか。

 要塞攻略と言う目標は分かりやすいのですが、あからさま過ぎませんか」

「そう言われれば」

 第2海兵師団長の吉松茂太郎中将が相槌を打った。


「ふむ」

 林忠崇元帥も顔をゆがめた。

「確かにそうだな。

 ヴェルダンは古い街だ。

 ヴェルダン条約と言う独仏間で有名な条約の締結地になった場所ではあるが、軍事戦略的に現在でも要地かというとどうかな」

 林元帥は半分独り言を言った。


 遣欧艦隊司令長官の八代六郎中将が口を挟んだ。

 尺八が趣味で、海軍軍人にならなかったらヤクザになっただろうともいわれる奇人でもある。

「ヤクザの看板と考えてはいかがでしょう。

 ヴェルダン要塞を。

 お互いの面子にかけて引くに引けない場になる。

 それが独軍の当初からの狙いと言うのは、うがち過ぎでしょうか」


「何だと」

 海軍航空隊司令長官の山下源太郎中将が言った。

「そんな面子を掛けて維持しないといけない場所などあってたまるか。

 首都パリならまだ分かるがな」


「いや、何となしにおかしくないですか。

 ヴェルダン要塞放棄論が仏軍内の一部で出ているところに、独軍がヴェルダン要塞を攻撃しようとしているという情報が仏国内に入ってきた。

 独軍が攻撃を仕掛けるという情報が入る前なら、仏軍はヴェルダン要塞を放棄できたでしょうが、最早、放棄できない。

 そして、仏軍は現在進行形でヴェルダン要塞を死守するために大量に消耗しています。

 仏軍を大量に消耗させるのが独軍の目的と言うことは無いでしょうか。

 何しろ独軍の方が総兵力では仏軍を人口の点からも上回るのですから」

 八代中将は言葉をつないだ。


「ヤクザの看板か。

 ヴェルダン要塞が。

 確かにそう言った観点は無かったな」

 柴中将が言った。


「そう言われてみると腑に落ちるな。

 ヴェルダン要塞で無かったら、土地を捨てて兵を仏軍は温存できるだろうが、今や土地を捨てて兵を守るということは仏軍にできなくなりつつある」

 吉松中将も同意した。

「そうか。独軍はわざとヴェルダン要塞攻略という情報を流したのかもしれん」


「どういうことだ」

 山下中将が吉松中将に尋ねた。

「ヴェルダン要塞を仏軍の地獄とするためにどうするかです。

 攻撃前に退却されては困ります。

 実際に戦線整理等のためにヴェルダン要塞を放棄するという主張が仏軍の一部から出ていました。

 そして、西部戦線全体を見回したとき、独軍が仏軍を攻撃するのに最も容易なのはヴェルダン要塞でした。

 仏軍をヴェルダン要塞に釘付けにするために、それとなく情報を独軍は流したのかも」


「考えすぎのような気もするが、独軍の目的として納得できるところがあるな」

 林元帥が言った。

「どういうことです」

 黒井参謀長が言った。


「つまり、独軍は2つの目的を持っているのではないか、ということだ。

 ヴェルダン要塞攻略と仏軍の消耗と。考えてみろ。

 軍が消耗しつくしたら、その国は戦えなくなるだろうが」

「言われてみればそうですな」

 会議の列席者は口々に同意した。

「では、その前提で考えてみるか」

 林元帥は言葉をつないだ。

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