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第3章ー2

 ヴェルダンに独軍が来襲するという情報が仏軍最高司令部に、そして、英軍に日本軍にと流れ出したのは、1915年末だった。

 その時、欧州に派遣された日本軍の主力たる海兵隊はガリポリ半島からの撤収に成功しつつある状況だった。


 その情報が流れ出す以前は、仏軍の一部はヴェルダンの放棄さえ考えていた。

 何故ならその時のヴェルダンは仏軍の戦線の中でやや突出した状態にあったからである。

 ヴェルダンを放棄して、戦線を整理短縮することで、自由になる兵力を増やす。

 仏軍にとって悪い発想ではなかった。

 更にもう一つ、ヴェルダンの放棄を仏軍が考える理由があった。


 ヴェルダンには16世紀に築かれた要塞があった。

 もちろん、それ以降も改修が重ねられており、第一次世界大戦が始まる直前までは、仏屈指の要塞と謳われた存在だった。

 だが、第一次世界大戦開戦直後にベルギーのリェージュ要塞等が容易に陥落したことから、要塞無用論が提唱されだした。


 更に第一世界大戦の激化は、要塞の守備に当てていた重砲を他の激戦区に転用することを多発させていた。

 そうしたことからヴェルダン要塞の守備力は急速に低下していた。

 要塞陥落はいざという時に敵に対して戦果を挙げたという分かりやすいシンボルになる。

(日露戦争時の旅順要塞がいい例)

 それもあって、事前にヴェルダン要塞を放棄してしまおうという主張が仏軍の一部から出ていたのである。


 だが、ヴェルダンに独軍が来襲するという情報が流れ出したことから、仏国内の雰囲気は一変した。

 ヴェルダン周辺の国会議員を中心に、これ以上の撤退は戦術的にも許されない、ヴェルダンは固守せねばならないという主張が声高になされた。

 慌てて仏軍最高司令部は、ヴェルダン要塞死守の方針を固めることになり、その準備に取り掛かった。

 だが、時間が余りにもなかった。


 実際に1916年2月21日を期して独軍がヴェルダン要塞に対する攻勢を開始した時、ヴェルダン要塞の守備力はまだ最盛期と比較すると大幅に低下した状態のままだった。

 ヴェルダン要塞守備に当たっていた仏軍は予備も含めて3個師団、一方の独軍は重砲、野砲を約1100門をかき集めて、その支援砲撃の下、6個師団をヴェルダン要塞に対する直接攻撃に、5個師団を牽制攻撃にと投入した。

 重砲の中にはベルギーのリェージュ要塞攻略に偉功を発揮した42サンチ砲まであった。


 慌てて仏陸軍航空隊が、独軍火砲に対する砲兵戦の観測のために応援に駆け付けたが、目標選定に苦慮する始末だった。

 余りにも独軍の火砲が多すぎたのだ。

 奇襲効果を重視した独軍は地域射撃と言う新戦術を採用していた。

 これまでは試射に何日もかける(砲弾不足に泣いた日露戦争時の日本軍でさえ何日かは試射を行っている。)のが常識だったが、目標一帯に弾雨を降らせればよいという発想から独軍はすぐに試射を止めて、本格的な砲撃を開始した。


 これは仏軍の意表を突いた。

 2月25日には、ヴェルダン要塞の堡塁の1つドォーモン堡塁を仏軍の不手際もあったが、独軍は陥落させるという大戦果を挙げることに成功した。

 仏軍は慌てふためくことになった。


 それから、仏軍は増援をかき集め、ヴェルダン要塞を何としても死守しようと奮戦している。

 だが、独軍の当初の攻勢も息切れを起こしつつあり、独軍の一部の本音としてはそろそろヴェルダン要塞攻撃の打ち切りを図りたいのではないかという意見が仏軍の一部から(希望的観測が混じってはいたが)出る有様になりつつあった。

 しかし、独軍も増援を送り込むのを止めようとはしない。

 独仏双方の地獄にヴェルダンはなりつつある。

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