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第2章ー27

1915年9月現在のセルビアを巡る戦況と欧州派兵された日本海兵隊司令部の考えです。

 大田実少尉が野戦病院に緊急入院させられた頃、欧州に派遣された日本海兵隊では林忠崇元帥と欧州派遣軍参謀長の黒井悌次郎少将、第1海兵師団長の柴五郎中将と第2海兵師団長の吉松茂太郎中将、海軍航空隊長官の山下源太郎中将の将官5人だけの幹部会議が開かれていた。


「セルビア戦線の状況をどう考える」

 林元帥は他の3人に問いかけた。

「今のところは平穏ですが、ブルガリアが独墺土側に立っての参戦を決意したのではないか、との情報が英国から提供されました。これが事実ならば」

 黒井少将が言葉を切った。

 黒井少将としては信じたくないらしい。


 だが、吉松中将が続けて言った。

「その情報の確度はかなり高いと考えます。

 そもそも2度にわたるバルカン戦争でブルガリアはセルビアに対して遺恨を抱いています。

 今回の戦争はその遺恨を晴らす絶好の機会です。

 ブルガリアは我々の敵に回ると考えるべきです」


「ふむ。セルビアは発疹チフスの大流行で疲弊しきっているとのことだが、ブルガリアが独墺土側で参戦した場合、国土の防衛を完遂できると考える者はいるか」

 林元帥の問いかけに他の4人は全員が無言で首を横に振った。


 その中の柴中将が意を決したように発言した。

「セルビアの総人口は約300万人程ですが、半年間でその内の5パーセントが少なくとも亡くなったという大被害を発疹チフスにより被ったとのことです。

 にもかかわらず、セルビアは大セルビア主義からアルバニアに一部の兵を派遣したとか。

 私としては理解に苦しみます」


 柴中将の発言ももっともだった。

 現在の戦況は、セルビアにとって楽観できるものではない。

 それなのにアルバニアにセルビアが派兵するというのは、他の4人も理解に苦しむところだった。


 セルビア人に言わせれば、今回の世界大戦は大セルビア主義実現のための戦争なので、本来はセルビア領であるアルバニアに派兵したという論理らしいが、アルバニアは一応は中立国である。

 英仏露伊は独墺土に対抗するために不問に付しているが、本来は中立侵犯であるとして国際的な大問題になる話だった。

 日本の山本権兵衛首相や牧野伸顕外相もセルビアのアルバニアへの派兵には一言言いたかったらしいが、英国が宥めたので沈黙している。

 そして、セルビアの発疹チフスの大流行はそろそろ下火になりつつあった。

 独墺、そして、ブルガリアにとっては熟した果実にセルビアは見えているだろう。


「全くこんな伝染病の巣となってしまったガリポリ半島から撤兵して、サロニカ港に我々を輸送して、セルビア救援に赴く方が妥当なのでは」

 山下中将が半分独り言のように言って、更に続けた。

「ギリシャは我々のために半公然と物資の支援等を行ってくれるでしょう。

 ここガリポリ半島の突端部で我々や英仏軍が頑張るより、どうみてもこの戦争の行方を我々の有利に好転させる方法としてセルビア、サロニカ方面にここにいる全軍を転進させる方が有効に戦えるのではありませんか」


「全くだな。私もそう思う」

 林元帥は山下中将に同意した。

「だが、ここガリポリ半島全体の総司令官になるハミルトン将軍が強硬にガリポリ半島からの転進案に反対しているので、我々ではどうにもならない。

 命令無視位ならわしの独断で何とかなるが、ここにいる全軍をサロニカからセルビアへと転進させられるのはハミルトン将軍だけだ」

 他の4人は思わずため息を吐いた。

 あのハミルトン将軍が解任されないと転進は不可能だろう。


「だが、日本本国やフランスからの派遣軍司令部、更には英本国にもガリポリ半島の現状を訴えたので何とかなると思いたい。転進の準備はするように」

 林元帥は発言を締めくくった。

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