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第2章ー21

 トルコ軍側の視点になります

 ムスタファ・ケマルは、8月6日の早朝に伝令にいきなり叩き起こされることになった。

 スヴラ湾に日本軍が上陸してきたというのだ。

 直ちに、隷下の部隊に対して警報を発して、日本軍を迎撃するように指示すると共に、伝令に対して現在の戦況を問いただした。

 その回答は耳を疑うものだった。


「日本軍の速やかな猛攻の前に、キレッチ・テベ高地は既に陥落し、テッケ・テベ高地で攻防戦が行われているが、我が軍が持ち堪えられるかは微妙だと」

 ムスタファ・ケマルは絶句した。

 幾らなんでも防衛線が崩れるのが速すぎる。

 事前に警報を発していたはずなのに、何故にそこまで我が軍は脆いのだ。


 伝令が恐る恐る発言した。

「何しろ警報が発せられてから10日以上が経ちます。

 最初の頃は部隊の面々も警戒していましたが、7日以上経つと誤報だったのではないかと多くの者が警戒を緩めてしまいました」

 その返答にケマルは唸り声をあげた。


 当たり前だ、人間の警戒感がそんなに長く維持できるわけがない、おまけに我が軍の戦意は基本的に低いのだ、警報が発せられて何もない日々が長く続くと反動から警戒心が過剰に緩んでしまう。

 それにしても日本軍の進撃が速すぎる。

 まさか、ケマルの脳裡に思いがけない考えが浮かんだ。


「日本軍は砲兵を既に上陸させているのか」

 ケマルの質問に、伝令は答えた。

「日本軍からの砲声は聞こえますが、どうも野砲や重砲ではなく迫撃砲の砲声ではないかと」

「しまった」


 ケマルは言葉を失った。

 英軍と同様に日本軍も砲兵を上陸させないと進撃しないという先入観が私にさえあった。

 日本軍は、サムライは砲兵支援無しの突撃を敢行したのだ。

 我が軍など迫撃砲で充分だと判断されたということか、我が軍に対する侮辱を怒るべきか、サムライの勇敢さを称賛すべきか、ケマルは迷った。


 だが、この戦況はどうだ、ケマルは自嘲めいた思いが突然浮かんだ。

 サムライは我が軍をどんどん押し込みつつある。

 我が軍はサムライに侮辱されても仕方ない。


 かつて、我がトルコ軍の精鋭イェニチェリは一時は欧州を震撼させたが、その後は堕落してしまい、近代化へのガンとして粛清されてしまった。

 それに対し、イェニチェリ成立以前から存在するサムライは見事に復活し、英軍でさえなしえなかった攻勢を見事に成功させつつあるではないか。ケマルは思わず天を仰いだ。

 すると空から爆音が聞こえてきた。


「あの音は何だ」

 言わずもがなの問いだと自分でもわかっていたが、ケマルは思わず声を出して、テッケ・テベ高地の方を望見した。


 機体に赤い丸を付けた30機程の航空機が、ほぼ同時に何かを落とすのが見えた。

 あれは爆弾だ。ケマルは遥か遠方で自分には関わりが無い物事が起こっているかのようにさえ感じた。

 衝撃が大きすぎて、心が現実を認識するのを拒否しているのだ。

 ケマルの内心を目の前の伝令が代弁してくれた。


「日本海軍航空隊が地上部隊支援のための空爆任務を遂行するとは」

「迂闊だった。

 サムライは海兵隊だ。

 日本海軍航空隊は、地上部隊支援の空爆訓練も当然受けている。

 これまで日本海軍航空隊が地上支援任務を行っていないから、日本海軍航空隊の空爆など有りえないと私でさえ錯覚していた」

 ケマルは平板な声をあげた。


 ケマルの目の前に林忠崇元帥の姿が幻影として見えた。

 その幻影は、ケマルに対して、戦とはこうやるものだよ、と哄笑していた。

 これが経験の差と言うものか、ケマルは歯噛みをする思いをした。

 だが、まだ負けたわけではない、最善を私は尽くす。


「何としても日本の海兵隊を、サムライを阻止するぞ」

 ケマルは吠えて、気持ちを切り替えた。

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