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第2章ー20

 大田実少尉は部下の小隊員の先頭に立って、テッケ・テベ高地へと突撃した。

 海兵隊の攻撃の基本は中隊単位の攻撃である。

 1個小隊が突撃するのを2個小隊が支援し、残りの1個小隊は中隊長が予備として適宜に投入する。

 中隊長の国府尽平大尉は、大田少尉を信頼して大田少尉の率いる小隊を最初の突撃小隊に指名した。

 大田は国府大尉の信頼に応えようと先頭に立った。


「空から見るのと地上から見るのとではやはりトルコ軍の陣地等の見え方が違うな」

 大田は内心で思ったが、地図だけで地形を考えたり、事前偵察無しで突撃したりするより数等マシである。

 鉄条網も充分にトルコ軍は陣地の前に張っていない。


 大田は地形を按じて、支援小隊の銃火の支援の下で小隊をトルコ軍の第一線陣地内に突撃させた。

 塹壕内で激しい白兵戦が始まる。

 白兵戦の練度に海兵隊は自信を持っている。

 その自信通りに大田の部下はトルコ軍の兵を圧倒しだした。


 やがて第2戦陣地のトルコ軍が応援に駆け付けようとしているのが、黎明の薄明かりの中で見えだした。

 それでもトルコ軍の兵の数は、海兵隊よりかなり数が少ないようだ。

 勝てるな、大田少尉は思った。

 それに、もうすぐ我々の切り札、海軍航空隊が到着する。


 土方勇志大佐は部下の海兵連隊員が中隊単位で敵のトルコ軍の陣地に突撃していくのを、やや後方から指揮していた。

 段々、夜が明けてくる。

 テッケ・テベ高地の陣地は少しずつ海兵隊が制圧しつつあるようだ。


「弱ったな」

 土方大佐はぜい沢な悩みを覚えた。

 あのまま行くと海兵隊は予定以上に進撃してしまう。

 そうなると味方の海軍航空隊の爆撃に自分で巻き込まれることになる。

 かといって勢いに乗って突撃している部隊を引き留めることなど、そう簡単にできるものではない。


「あそこまで突撃できるとは予想外だった。

 とりあえず、もうすぐ爆撃がある旨、指揮下の部隊に警報を発するか。

 一応、知っているはずだが、戦場の興奮に部下も呑みこまれてしまったか」

 土方大佐は独り言を言うと、直ちに指示を部下に対して下した。


 山本五十六大尉は宇垣纏中尉の操縦する水上機の後席に座っていた。

 本当は自分が操縦桿を握りたいが、自分よりも宇垣中尉の方が腕がいい。

 それに部隊の現場指揮官は戦場全体を見回す必要がある。

 後席に自分が座るのは仕方なかった。


「そろそろか」

 山本大尉は、宇垣中尉に確認した。

「はい。地文航法からすると、この辺りを爆撃することになっています」

 宇垣中尉は返答した。


「それにしても30機全機出撃可能で、無事にここまで全機が来られてよかった」

 山本大尉の半分独り言に宇垣中尉は答えた。

「中島知久平大尉に感謝しないといけませんな」


「全くだな。

 それにしても、林忠崇元帥から、ここまで予想外の作戦を指示されるとは思わなかった。

 ばくち打ちとしては見習わないといかん。

 相手の裏を掛けないと強いばくち打ちにはなれん」

「ばくちにのめり込み過ぎて、山下源太郎中将から雷を落とされても知りませんよ」

 宇垣中尉は山本大尉をたしなめた。


「程々にする。程々にする」

 山下中将の名を出されて、山本大尉はさすがに縮こまって言った後、爆撃目標の最終確認を行った。

「さて、爆弾を落とすことにするか」


 山本大尉は、指揮下にある29機に爆弾を落とすように指示を出すとともに、自らも爆弾を投下した。

 30機全機が、500ポンド爆弾を1発ずつ投下していく。

 まさか海軍航空隊が地上部隊の直接支援を行うとは、トルコ軍は予想もしていないだろう。

 山本大尉は、トルコ軍の将兵が慌てふためく姿を想像した。

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