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第2章ー19

いよいよ、スヴラ湾への日本海兵隊による上陸作戦が始まります。

 8月5日の深夜から8月6日の朝にかけてスヴラ湾への夜間奇襲上陸作戦を日本海兵師団2個は断行していた。

 星明りが頼りで、闇が深いが、上陸作戦が不可能という訳ではない。


 大田実少尉は第1海兵師団に所属の身で、上陸作戦の第一陣の一員として参加していた。

 大田少尉は、上陸用舟艇の舳先で、闇を透かすように前を見ながら進路を指示した。

 これまでの訓練で、部下の面々は完全に上陸用舟艇の動かし方をマスターしているはずだが、実戦では何があるか分からない。

 大田少尉は緊張の余り、体の震えが止まらなかった。

 同期の市丸利之助少尉らも同様なのだろうか。大田少尉はふと思った。


 その後方では土方勇志大佐が上陸用舟艇に乗り込んでいた。

 これ程の敵前上陸作戦に参加することは、日清戦争以来の戦歴を持つ土方大佐をもってしても記憶にないくらいである。

 だが、これまでの経験から来る土方大佐の戦場勘はスヴラ湾に上陸するまでは安全だというささやきがしていた。


 問題は上陸した後だ。

 砲兵を上陸させる時間を惜しみ、朝一番の空爆を活用することによって、スヴラ湾を取り囲むようにある高地群のトルコ軍陣地を海兵隊が突撃することにより制圧する。

 全ては時間との競争になるな。

 土方大佐は周囲の舟艇群を見回しながら考えた。


 林忠崇元帥は、上陸船団の旗艦に乗り込み、双眼鏡を使って上陸用舟艇の群れがスヴラ湾に向かっているのを眺めていた。

 実戦経験豊富な林元帥にしても、これ程の作戦はそう経験しているものではない。

 その上に今回の作戦では初めて行うこともあるのだ。


 内心の緊張を部下に覚られないように細心の注意を払ってはいるが、それでも周囲の者の中には自分の内心に気づいている者がいるだろうか、と林元帥はふと思った。

 そう思った瞬間、林元帥は自分の緊張が何故か緩むのを覚えた。

 作戦の成功云々よりも自分の内心の緊張が周囲に気づかれるのが大事だというのか、海兵隊の先達、土方歳三提督か誰かが自分の内心を叱り飛ばしているのを感じたからだ。


 確かにおっしゃられる通りです。

 林元帥は内心で頭を下げた。

 作戦の成功を第一に考えるべきでした。


 そう林元帥は考えて、スヴラ湾の海岸線に近づきつつある海兵隊の将兵を見ていると、トルコ軍の将兵の多くがまだ寝入っているのか、海兵隊に応戦するための銃火がトルコ軍からの陣地から余り閃いていないことに気づいた。

 上陸用舟艇の音に夢心地の中で気づいてもトルコ軍の将兵は夢だと錯覚している者が多いのだろう。

 林元帥は満面の笑みを顔面に浮かべた。

 少なくとも海兵隊の上陸は成功するな。


 大田少尉は上陸用舟艇の船底が海岸に接地するのを感じた。

 実際、船はこれ以上は前に進めなくなったようだ。

 大田少尉は決然として号令を下した。

「全員、速やかに高地に駆け上がれ」


 部下全員が上陸用舟艇から速やかに降りて、闇の中に垣間見える正面の高地の頂上を目掛けて駆けだした。

 自分も部下とともに続く。

 黙っていれば奇襲効果がより上がるのに、誰かが万歳、と大声を上げて高地へと駆けていく。

 気が付くと他の者達まで、万歳、万歳と唱和しだした。

 自分も万歳と声を挙げている。


 もうすぐ夜が明ける、夜明けと同時に高地の山頂近辺のトルコ軍陣地に日本海軍航空隊が爆弾の雨(?)を降らせる筈だ。

 それなのに誤爆の危険を無視して、自分達は高地の山頂へ突撃している。

 自分達は突撃馬鹿だ。


 だが心地よく感じるのは何故だろう。

 大田少尉は自問自答したが、答えが出ない。

 よかろう、そういったことはこの戦闘が一段落してからゆっくり考えよう。

 大田少尉はテッケ・テベへ部下と共に突入した。

 スヴラ湾上陸作戦が本格的に始まった。

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