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第2章ー16

 視点が変わります。トルコ軍側からの視点です。

 ムスタファ・ケマルは苦悩していた。

 サムライは遂にこの地に赴いてきた。

 正直に言って戦いたくない相手だ。

 いろいろな意味でな、ムスタファ・ケマルは自問自答した。


 トルコはそもそもが親日派が多い国だった。

 1890年のエルトゥールル号遭難事件の際に、日本が示してくれた友誼を覚えている者はまだまだいる。

 そして、日露戦争のあの勝利、トルコが散々苦杯を舐めさせられてきたあのロシアのそれも陸軍を相手取って、日本は奉天会戦で兵力が劣勢であったにも関わらず、有史以来最大の勝利とさえ謳われる勝利を収めたのだ。


 その前にも東洋一の難攻不落の要塞とロシアが豪語していた旅順要塞を半年も経たずに日本は落としている。

 しかも旅順要塞攻略に使用した兵力は、籠城していたロシア軍と日本軍とほぼ差が無かったという。

 信じられないほどの戦果だった。


 そして、旅順で奉天で日本軍の先鋒を務めていたのが海兵隊、サムライだった。

 その現場での総指揮官が、今、この地に向かっている林である。

 日露戦争後に最も急増したトルコ人の名前が旅順と奉天で活躍した乃木将軍にあやかったノギという名前だが、その乃木の最良の部下と乃木自身が公然と認め、周囲も認めていたのが林である。

 その林がサムライを率いて戦場に赴いているのを自分達は迎撃せねばならない。


 ムスタファ・ケマルとしては、ナポレオン率いる仏老親衛隊と戦え、と言われたのと同等以上の圧迫感を覚えていた。

 だが、祖国トルコのために最善を尽くさねばならない。

 ムスタファ・ケマルは第19師団長として、師団の幕僚の面々と作戦会議を開いた。


「日本海軍航空隊は到着すると早速、大規模な偵察活動を開始しました。

 偵察活動はガリポリ半島全域に及んでおり、7月中に日本の海兵隊を中心とする大規模な増援作戦が行われることもあり得ると思料します」

 幕僚の1人が報告もかねて発言した。


「偵察活動が重点的に行われている地域は分からないか」

 ムスタファ・ケマルは問い返した。

「分かりません。余りにも偵察機の数が多すぎます」

 先程の幕僚が渋い顔をして返答した。


「これ程の大規模な偵察活動が行われている以上、上陸作戦が行われることもあり得る。

 いや、それが本命であると考えますが」

 別の幕僚が発言した。

「上陸作戦が行われるとしてどこに行われると考える」

 ムスタファ・ケマルは質問した。


 幕僚たちは次々と自分の意見を言った。

 スヴラ湾に対する上陸作戦を懸念する声が大きいが、絶対的と言えるほどは幕僚たちの間で声が大きくは無い。

 そして、問題は時期だった。


 ムスタファ・ケマルは潮の問題から8月6日前後が一番、英仏軍、そしてサムライが上陸作戦を行うのに適していると判断している。

 だが、ここまで大規模な偵察活動をこれ見よがしに日本の海軍航空隊が行っていることが、ムスタファ・ケマルの脳裏で疑念を起こさせていた。

 本当にそのとおりにサムライは行動するのか。


 何故に英仏軍の航空隊は活動していないのに、日本海軍航空隊は派手に行動しているのか、まさか日本海軍航空隊は欺瞞活動を展開していて、英仏軍の航空隊は別戦域に移動しているのではないか、そして、思わぬ打開策を英仏日軍は共同して練っているのではないのか。

 では、それは何なのか。

 ムスタファ・ケマルは自問自答の罠に陥って苦悩した。


「とりあえず、隷下の部隊に警報を発するとともに、司令部に対して警戒すべきだと意見具申する。

 その上で敵の動きを待とう」

 ムスタファ・ケマルは当たり障りのない結論で妥協した。

 だが、それこそが林の罠だったと、後でムスタファ・ケマルは後悔した。

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