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第2章ー13

「そして、私が8月の上陸作戦では総司令官に任命された。

 当然、日本海軍航空隊は私の指揮下に入る。

 まさか、私が上陸作戦の総司令官になれるとは思わなかったが、持つべきものは友だな。

 仏軍が私を総司令官にすべきだと運動してくれた」

 林忠崇元帥は笑みを浮かべた。


 増援作戦とはいえ、上陸部隊の総司令官になれるとは思わなかった。

 林元帥は望外の喜びを感じていたが、ここに至るまでの英仏の面子争いを仏軍から教えられた身としてはちょっと複雑な思いも感じていた。


 林元帥は仏陸軍が誇るサン・シール士官学校、フォンテンブロー砲工学校を共に優秀な成績で卒業した身である。

 実戦の戦歴も申し分が無いどころか、戊辰、西南、日清、日露戦争を最前線で戦い抜き、フランス留学から帰国した西南以降の戦役では敗北を知らない将帥だった。


 それ故にガリポリ半島戦役に日本の海兵隊が参加するのを聞いたシャノワーヌ仏元陸相は、旧知の仏陸軍の将帥に何気なく尋ねたという。

「林元帥は、当然、ガリポリ半島で上陸作戦の総司令官になるのだろう」

 これが裏の意図があったためか、単に好奇心からかは難しいところだが(シャノワーヌ自身は好奇心から尋ねたといっている)、その影響は甚大だった。

 英仏両陸軍の思わぬ対立を招いたのだ。


 当初、英軍は5年前に定年で退役していたスタッフフォード中将を特例で現役復帰させ、ガリポリ半島への8月の上陸作戦の総司令官にするつもりだった。

 他の優秀な陸軍の将帥は全て西部戦線に投入済みであり、英軍としては他に適当な将帥がいないという事情があった。


 仏軍は林元帥ではなくスタッフフォード中将が総司令官になると聞いたことから、林元帥を8月の上陸作戦の総司令官にするように推薦した。

 林元帥は実戦で無敗の名将であり、きちんと仏陸軍の学校で士官としての教育も受けており、優秀な成績を修めている。

 林元帥が8月の上陸作戦の総司令官で申し分ないではないか。


 それに陸戦とはいえ、元帥海軍大将が陸軍中将の下と言うのは階級上問題がある。

 英軍がスタッフフォード中将を特例で現役復帰させる必要はない。

 仏軍はそういった。


 それに対し、これを聞いた英軍のハミルトン将軍はこううそぶいたという。

「クレシー、アザンクール、ブレンハイム、ワーテルローと仏軍は英軍に負け続けではないか。

 そして、今回の大戦でもマルヌで我が軍に泣きつく惨状だ。

 とうとう、日本海軍の提督にも仏陸軍の将軍は陸戦では劣ると実感したか。

 そういえば、林元帥は日清戦争の際に清国軍の劉永福将軍に勝っているが、清仏戦争で劉永福将軍に仏軍は蹴散らされているな。

 仏軍も堕ちたものだ」


 実際にハミルトン将軍が言ったという証拠は無く、ハミルトン将軍の司令部の幕僚が言ったという説が強いが、この一言は仏軍の逆鱗に触れた。

「何を言うのだ。

 ガリポリ半島で救援を求めてきたのは、英軍ではないか。

 我が軍をそこまで馬鹿にするのか。

 そこまで言うのなら、我々はガリポリから全面的に引き上げさせてもらう」

 仏軍の多くの将帥が叫びだし、英仏両方の政府が仲裁に入る大騒動に発展してしまった。


 最終的に林元帥が8月の上陸作戦の総司令官に就任することで、英仏は妥協した。

 チャーチル海相が林元帥の経歴を知って、ここまでの名将が何故、海軍の提督なのだ、陸軍の将軍でないのがおかしい、といった鶴の一言が最終的な決め手になったという伝説がある。


 林元帥は8月の上陸作戦の総司令官になれたことを素直に喜んだ。

 これだけの大作戦の総司令官になれるとは長生きして欧州まで赴いた甲斐があった。

 思う存分辣腕を振るわせてもらおう。

 いい思い出になる。

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