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第2章ー9

 草鹿龍之介少尉は、英国までの航海の間、周囲の士官連中共々、英仏語の勉強に励みつつ、飛行機についても学ぶという忙しい日々を送る羽目になった。

 ちなみに飛行機の教科書も英語が過半数以上を占め、残りも仏語が大部分である。

 教科書の言語の英仏日の比率は6:3:1といったところか、と草鹿少尉はざっと見積もった。

 日本語はもっと少ないかもしれない。


 こりゃ、下士官が欧州行の操縦士の第一陣に選ばれないわけだ、下士官で英語が分かるのは少ないし、仏語が分かるのはもっといないからな、と草鹿少尉は納得した。

 だが、それで、自分にとっての地獄が終わるわけではなかった。


「おい、この本は読めたか」

 大西瀧治郎中尉は、草鹿少尉に尋ねてきた。

 仏語の本で、草鹿少尉には目は通せているが、中が完全には理解できていない本だ。

「目は通しましたが」

 と草鹿少尉は言葉を思わず濁した。


「ここのこの箇所はどういう意味だ」

 大西中尉は尋ねてきた。

 草鹿少尉が見てみるが、さっぱり意味が分からない。

 草鹿少尉は思った。

 どうして専門書は専門用語を使うのだ。

 せめて、分かりやすい単語で内容を書いてくれ。


「すみませんが、分かりません。

 同期の吉良俊一中尉に尋ねてみては」

 草鹿は提案した。

「同期に聞くのは、どうも恥ずかしいから貴様に尋ねたのだ」

 大西中尉は言ってきた。


「仏語は今のところ、私は拾い読みレベルですよ。

 全く専門用語はどうしてこう分かりづらいのか」

 草鹿はぼやいた。

 大西もため息を吐いた。


「欧州派遣組に選ばれて喜んだのだが、こんな語学地獄が待っているとは思わなかった。

 聞いたか、いっそのこと士官同士の会話は全部、英語か、仏語でやるかという話が出ている。

 そうしたら、英語や仏語の習得がもっとできるのではないかとな。

 山本五十六大尉が冗談で言ったら、周囲は真面目に受け取って、いっそそうしますかと言いだしたそうだ」


「溺れる者はわらをもつかむと言いますが、私も同様の心境ですよ。

 英仏語を習得しないと書物の内容が分かりませんからね」

 草鹿と大西はお互いにうつむきあった。


 さすがに英仏語のみで士官同士が会話するという提案が実際に採用されることは無かったが、英仏語の習得に加え、飛行機についての座学も英国への航海中にまとめて行うという地獄の前に、多くの士官が悲鳴を上げまくったのも事実だった。


 4月初めに英国にたどり着くと、英国海軍の好意により、水上機基地の1つが日本海軍航空隊の訓練用として提供されていた。

 草鹿少尉達が、そこの水上機基地にたどり着いてから、そこに整備されている水上機の数を数えてみると30機ある。

 12機ではなかったのか、草鹿少尉が疑問を覚えていると、山本大尉が教えてくれた。


「残り18機は訓練用だ。

 英国海軍が貸してくれた。

 壊した場合の修理や代用機の調達費用、部品の補修費用や燃料代等は日本持ちということでな。

 英国海軍の教官同士賭けをしているそうだ。

 我々が訓練中に何機を壊すかな」


 それを聞いた草鹿少尉や大西中尉達は顔色を変えた。

「1機も壊さずに英国海軍に返しましょう。

 我々にも誇りがある。そんなことを言われては恥辱だ」

 大西中尉が吠えた。


「よく言った」

 山本大尉はにやりと笑ってから言った。

「30機あるので、全員が2交代で訓練できる。

 明日から英国海軍の教官達にしごかれるから、思い切り覚悟しておけ」


 草鹿少尉は思った。

 売り言葉に買い言葉か、英国海軍の教官達の挑発に乗せられた気がするが、悪い気はしない。

 明日から猛訓練を頑張るか。

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