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第2章ー8

 海軍省人事局は将来や語学の問題(何しろ教官を英仏軍にお願いするにしても、教官全員が英国人か仏国人になる)も考えあわせ、まずは中尉、少尉を欧州に派遣する航空隊の操縦士等にしようと考えた。

 その上で、操縦士等が増えたら、その士官を教官に活用することで、下士官も操縦士等にする予定である。

 次々と辞令が人事局から出された。


 海軍兵学校でいうと37期以降の卒業生が該当することになる。

 とはいえ、最初に手に入る水上機は12機しかない。

 とりあえず複座なので2倍の48人、予備等も考えると60人が第1陣の操縦士等の派遣人員として選抜されることになった。

 当然、41期の卒業生にも声がかかった。


 防護巡洋艦「音羽」の乗組員として、訓練に励む日々を送っていた草鹿龍之介少尉がいきなり艦長から呼び出しを受けたのは、夕刻のことだった。

 何事かと思って艦長の下に赴くと、欧州に行き、操縦士の訓練を受けるようにとの辞令をもらった。

 そのまま、欧州で実戦に投入される可能性もあると艦長に告げられ、海兵隊だけではなく海軍本体からも航空隊を出す事態になったのか、とその辞令に目を通した草鹿少尉は武者震いしてしまった。


 派遣人員は佐世保に集結し、そこから欧州へ船で赴くという。

 草鹿少尉は荷物を速やかにまとめて、「音羽」から降りることになった。

 急いでお世話になった方々に挨拶して艦を降り、佐世保に赴いた。


 斎藤海相は、人事局の派遣案を見て、基本的にそのまま裁可したが、1つだけ修正した。

 37期以下の中少尉のみでは、航空隊の現場の操縦士等の取りまとめ役がいないと考えたのだった。

 自分の副官に経験を積ませるか、という考えも湧いたことから、海軍大尉である副官を取りまとめ役として指名した。


 その大尉の名は山本五十六といった。

 山本大尉は、まさか自分が指名されると思っていなかったことから慌てたが、海相の指名とあっては是非もない。

 すぐに挨拶回りをして、佐世保へと赴いた。


 草鹿少尉が佐世保に到着すると、既に先着している者もいたし、後から来る者もいたが、続々と操縦士等の候補生が集まってきた。

 同期の松永貞市や青木泰二郎らも選ばれており、久々の再会を喜び合った。

 1期上の40期生も続々と集まってくる。

 吉良俊一、寺岡謹平といった先輩方がいるのが草鹿の目に入った。


 その内の1人、大西瀧治郎が草鹿少尉に声をかけた。

「貴様も選ばれたのか」

「ええ。欧州行を私も命ぜられました」

「欧州は激戦地らしいぞ。江田島魂を見せてやろう」

「はい」

 草鹿は答えた。


「ところで、誰が現場の取りまとめ役になるのかな。何か聞いていないか」

「海軍兵学校で校長を務められた山下源太郎中将が司令官とのことですが。

 現場の取りまとめ役は誰なのか、私は何も聞いておりませんが」

 大西と草鹿は首を傾げあった。


「私が、現場の取りまとめ役になる」

 いきなり、そこに声がかかった。

 大西と草鹿がそちらを見ると大尉の階級章を付けた人物が目に入った。

 基本的に中尉、少尉からなる操縦士等候補者の派遣士官団の中ではおそらく最上位の士官ということになる。

 大西と草鹿はその人物に思わず敬礼した。


「硬くならなくていい。

 大尉の山本五十六だ。

 このたび、操縦士等候補者の取りまとめ役として着任した。

 私も操縦士として訓練を受けることになる」

 その人物は自己紹介をした。


 大西と草鹿のみならず、その声を聴いた人物は思わず自分で自分を納得させた。

 声に人を引き付ける力がある。

 この人が取りまとめ役なら大丈夫だ。

 山本五十六大尉は、最初の顔合わせで部下の信望を集めた。

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