プロローグー3
「そういえば南満州や朝鮮情勢はどうなのです」
土方大佐は尋ねた。
「まず、朝鮮が3年前の1910年に大韓王国と改名したのは知っているな。その際に大韓王国憲法を発布したのも」
「ええ。金弘集宰相の事実上、最期の大仕事になりましたよね。
初の国会議員選挙で全国を遊説して、安定した与党を作ろうとしたものの、結局、失敗しました。
予め国会議員の3分の1を勅選議員にすることで何とかなるはずだったのですが。あそこまで表向きは全国政党とは言っても実際には地域政党が乱立しては、どうにもなりません。
全国政党が事実上は政府党しかありませんが、ああ、韓国流に言えば愛国党でしたか、選挙ではほぼ全員が落選しましたからね。
地域のつながりが強いのも困りものだ」
林元帥の問いかけに、土方大佐は皮肉気に答えた。
「全くだな。日本とはえらい違いだ」
林元帥は土方大佐の答えに思わず笑った後で、続けた。
「日本では貴族院を作って、衆議院と対峙させているが、韓国では無理だ。
韓国で貴族院を構成するとしたら両班階級から構成することになるが、それがほぼ頑迷固陋な保守派の集まりだからな。
だから、富国強兵といった改革等に反対してしまうので韓国では貴族院は作れない。
だから、一院制を採用して、政府を安定させるためにその議員の3分の1を勅選議員にしたのだが、それでもうまくいかなかった。
金宰相は主に4つ程ある地域政党の対立を操作することで何とかしようとしたが、政府に反対するとなると地域政党は容易に一致団結するから厄介極まりない。
昨年、金宰相が病死したのは、議会対策の心労のせいだと言うが、本当だろうな。
韓国にまともな全国政党が出来るのはいつになることやら、立憲の議会を中心とする民主政治がこのままではまともにはできん」
「それで、韓国軍部がイラついているわけですな。
韓国軍部にとって富国強兵は祖国防衛のためには必要不可欠なことなのに現在の民政では、それがまともに進みそうにない。
それならば、まともな民政が出来ないならば、軍政がまだいいと言いだしている、新聞の記事にそんなことが書いてありました」
「その記事がまともというのが厄介なところさ。
韓国でも緊急勅令には臨時の法律と同じ権限があるからな。
緊急勅令によって、国会を解散して、軍人の誰かを首相にして、軍の下で政治を安定化させる。
その上で、民政に戻す。
それならば、日米両政府もそう抗議はしないだろう。
韓国軍部は、そう判断して動こうとしている」
「韓国政府の後見人たる日米両政府の実際の態度は?」
「とりあえず韓国軍部に対して動かないように自重を呼びかけるとともに、まともに民政を動かすように韓国政府に対して共同勧告をしている」
「従いますかね?」
土方大佐は疑問を覚えた。
何だかんだ言っても、韓国内では反日米感情が現在では強まっている。
韓国の近代化に日本の協力を仰がねばならなかったことが、韓国民の自尊感情を傷つけている。
また、米国が日本と協同して韓国に乗り込み、鉄道敷設や鉱山開発等を日米資本が中心となって進めているのが、自国の資源を日米が食い荒らしているという不満を韓国民にさらに呼んでいるのだ。
下手をすると、日米両政府の共同勧告が現在の韓国政府に対して逆効果になる危険性さえあった。
「日米両政府の共同勧告をあくまでも韓国政府が拒むというのなら、ウィルソン米大統領は否定的だが、山本権兵衛首相は韓国軍部の行動に暗黙の了解を与えるつもりだ」
林元帥はさらっと怖い話をした。
土方大佐は背中が冷たくなるのを覚えた。
この世界の韓国内の政治情勢しか描けませんでした。
次章こそ、韓国、南満州のこの世界の経済開発(主に鉄道敷設)について描きます。
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