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第2章ー4

「考えたのですが、ガリポリに英仏軍が上陸するよりもその部隊をセルビア救援のためにサロニカからセルビアへ向かわせた方がよいのではないでしょうか。

 セルビアという同盟国を救うことにもなりますし、上陸作戦後の部隊への補給物資の確保と言う観点からも一考に値しませんか」

 林忠崇元帥の先程の発言を受けて疑問を覚えた土方勇志大佐は思い切って空気を読まずに発言することにした。

 一部の海兵隊士官もその発言には肯いた。


 サロニカという良港が部隊への補給に使用できるセルビア救援作戦に対し、ガリポリ上陸作戦後の上陸部隊の補給には不安があった。

 何しろガリポリ半島には上陸部隊の補給に使えそうなまともな港湾が海兵隊士官の目からすると見当たらないのだ。


「確かに土方大佐の疑問も最もだ。

 だが、セルビア救援作戦は行わない。

 理由は2つある」

 林元帥が発言した。


「まず第一に今のセルビアには発疹チフスが大流行を起こしていることだ。

 そもそもロシアからバルカン半島、東ドイツに至る地帯は発疹チフスがしょっちゅう小流行を起こしている地域だ。

 それが今回の戦争をきっかけに発疹チフスが大流行を引き起こしている。

 セルビア人の人口は300万人程だが、現在、日によっては1万人もの新患者が発生しているとのことだ。

 そんなところに行きたいか」

 林元帥は皮肉気に言った。


 土方大佐は背中に冷水をぶっかけられた心境になった。

 そんなところに行きたくはない。

 発疹チフスに罹った場合の死亡率は平均4割に達する、場合によっては8割という話もある。

 今のセルビアに行くのは死を覚悟する必要に迫られるのは必至だ。


「今のセルビアにはまともな医師はいないらしい。

 何しろまともな医師は全員が発疹チフスにり患したらしいからな。

 赤十字社が中立国のアメリカ等から志願の医師らを募集して、その医師が治療に献身しているという話があるくらいだ。

 セルビアに個人として行きたいのなら、わしは止めないが、日本の海兵隊員をセルビア救援作戦に参加させるという命令が出たら、断固としてわしは拒否する」

 林元帥は言った。

 土方大佐を含め、周りの海兵隊士官全員は林元帥の言葉に黙って肯くしかなかった。


「そして、もう一つの理由は、ガリポリ半島に港が無いのなら、我々が港を作れば済むということだ」

 林元帥の言葉に海兵隊士官全員が唖然とした。

 林元帥は何を言いだすのだ。

 だが、林元帥は平然としたまま、言葉を紡いだ。

「何を唖然とした顔をしている。港が無ければ作れば済む話だろうが」


「しかし、港を作ると言ってもそう簡単にできるものではないと思いますが」

 柴五郎少将が疑問を呈した。

「船を沈めたり、仮設桟橋を活用したりすれば港などすぐに作れると英国陸軍は豪語していて準備万端整えているがな。

 簡単にできないと思うのは、我々日本人だけだ。

 フランス人も港などすぐに作れますよと言っておる」

 林元帥は平然と言った。


 日本の海兵隊士官全員が、その言葉を聞いて毒気を抜かれたような顔をさらした。

 日本と英仏とでは国力が本当に違う。

 英仏では、港など簡単に浜辺に作れるものなのか。

 日本ではそんなことはできはしない。


「だから、安心してガリポリ半島に上陸した後のことを我々は考えればいい。

 諸君の奮闘を期待するぞ。

 サムライの名を欧州で辱めるようなことはするなよ」

 林元帥はにこやかに言葉を紡いだ。


 会議に参加している海兵隊士官はお互いに顔を見合わせては、林元帥に無言で敬礼して林元帥の言葉に同意した。

 土方大佐も同様に無言で林元帥に敬礼した。

 林元帥も答礼して答えた。

「それでは諸君の奮闘に期待する」

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