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幕間ー1 対中国14か条の要求

 1914年末、山東省の独領が日本に制圧された結果、日中間で山東省や満州利権に関してトラブルが起こります。

 欧州に派兵された海兵隊員の多くが、早速、仏から提供された装備の説明書が仏語で書かれていることに四苦八苦している頃、日本政府上層部では、中国の袁政権との交渉をどうするか議論が巻き起こっていた。


 独の青島要塞は11月7日に守備隊が日本軍の猛攻の前に降伏を受け入れ、独東洋艦隊は11月9日にエムデンがインド洋で沈没、12月8日にフォークランド沖で東洋艦隊の最後の生き残りは全滅という結末を迎えた。

 ここに独のアジアにおかれていた陸海軍は全滅し、独のアジア領は日本の完全占領下に置かれた。


 だが、日本の行動は中国の中立侵犯だと袁政権は猛抗議をしており、日本政府は日本政府で米国が日本寄りの態度を取っていることや欧州諸国が大戦で中国問題に干渉する余裕がないことから、この機に満州利権等の半恒久化を策していた。

 お互いに問題にしていたのは、日本がどの程度の要求を中国の袁政権に最初に出すかだった。


 12月下旬、斎藤実海相は山本権兵衛首相に対中要求の内容について相談を受けるために首相官邸に赴いていた。

 外交問題であるために、当然、牧野伸顕外相もその場には同席している。

 山本首相も牧野外相も苦りきった顔をしていた。


 山本首相が口火を切った。

「外務省の若手外交官と陸軍の少壮士官がこの際に乗じて中国の半植民地化を完全にはかるべきだと騒いで仕方がない。海軍の力で押し止められないか」

 斎藤海相は暫く考えた末に答えた。

「首相や外相の力で何とかなりませんか」


「何とかできなくもないが、首相や外相は弱腰だと騒ぐのが目に見えている。下手をすると世論を煽りかねん。ただでさえ、欧州への海兵隊派遣について疑問視する声がある。海兵隊が日本に居ればとか言いだしかねん」

 牧野外相が口添えした。

「ほう」

 斎藤海相は考えた。


 林元帥の危惧があたっているな。

 では、とことんやらせてもらいますか。

「分かりました。海相としては、その動きに完全に乗せてもらいましょう。この際、中国の袁政権に対して、日本の最初の要求を丸呑みして日本の半植民地になるか、日本との全面戦争になるかの二択を迫りましょう」


「日本と中国との全面戦争だと」

 山本首相は目を丸くした。

 牧野外相が慌てて止めに入った。

「火に油を注ぐつもりか」


「外務省の若手外交官や陸軍の少壮士官にそこまでの覚悟があると思いますか」

 斎藤海相は反問した。

「あると思いたくはないが」

 山本首相は言葉を濁した。


「ある訳がありません。なお、日本と中国の袁政権と全面戦争になったら、袁政権が日本に対して無条件降伏して列強が租借していない中国全土を日本領にすることを承認するまで戦争をするつもりだと海相として公言しましょう。外務省の若手外交官や陸軍の少壮士官はさぞ慌てるでしょうな」

 斎藤海相は悪い顔を山本首相や牧野外相に示した。


「そんなこと英米をはじめとする欧米列強が認めるわけがないぞ」

 牧野外相は斎藤海相の外交感覚をとがめたが、斎藤海相は涼しい顔をしている。

「だから、最初の要求を引き下げようと外務省や陸軍の問題の輩は動かざるを得なくなるのですよ。大方、無理な要求は希望内容だとか言って、欧米列強を糊塗しようと考えているでしょう。山本内閣としては最初の要求から一歩も譲歩しない、全ては欧米列強に公表して最初の要求を行うつもりだと言ってください」


「ふむ」

 山本首相は元老候補とも目される政治家である。

 斎藤海相の腹の内をさすがに覚った。


 要するにとことん最初の要求を斎藤海相は外務省や陸軍に突き詰めさせるつもりなのだ。

 全面戦争と言われてはさすがに腰が引ける。

「よし、そうしよう」

 山本首相は決断した。

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