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第1章ー17

「海兵隊の欧州派兵について一言述べたいがよろしいですかな」

 長谷川参謀総長が言った。

「海兵隊の欧州派兵自体に反対するわけではありませんが、かなりの死傷者を予め覚悟しておいた方が良いかと思いますが、林元帥や斎藤海相はどうお考えですか」


 分かりやすい奴だ、林元帥は斎藤海相に目くばせした。

 斎藤海相も目で答えた。

 死傷者が多数出たら、世論が批判するだろう、だから欧州に行くべきでないと言外に言っているのだ。


 林元帥はすぐに素知らぬ顔に戻って答えた。

「そうですな。日露戦争の経験から、8万人程は出ると覚悟しております」

 さらっと答えた言葉に長谷川参謀総長は大げさに驚いてみせた。

「海兵隊は平時兵力は3万人に満たないではありませんか。海兵隊を欧州の地で文字通り全滅させるおつもりか」


「それならば、陸軍に行っていただけますかな」

 林元帥は逆襲した。

「いや、それは無理です。陸軍は欧州派兵を想定していない」

「欧州に派兵されるのも、中国に派兵されるのも、日本の国外に派兵されることに変わりはありません。中国に派兵されるのを現在の陸軍は想定されていないのですか」

「距離が全く違います」

「日本国外への派兵であることに変わりはありますまい」


 長谷川参謀総長は思った。

 口のうまさでは、林元帥にどうも負けてしまう。

 更に斎藤海相が林元帥の助太刀に入ってきた。

「この欧州での戦争を好機として満州問題を動かすということに陸軍は反対ですかな」


「何をいきなり言われる」

 岡陸相が慌てて口を挟んだ。

 陸軍、特に陸軍省の少壮士官が欧州での戦争を機会に満州問題を日本の有利(できうれば米国までも排除して日本の独占)に解決できないか、と策謀を巡らしだしたのは秘中の秘のはずだが。


 斎藤海相は岡陸相の態度を見て気の毒にさえ思った。

 寺内元陸相や亡くなられた桂元首相なら、陸軍省の少壮士官の策謀を完全に迎えつけるだろうに、若しくは自分たちで逆用しさえするかもしれない。

 だが、岡陸相のあの態度からすると、どうにもなるまい。


 陸軍省内部では秘密裏に事が運べていると考えているようだが、外からはバレバレなやり方であり、既に軍令部第4部では裏まで完全に把握済みで、日本の国益を損ないそうなら、徹底的にやるということで山本首相や牧野外相にまで内報しているのだ。

 取りあえず、この場では警告に止めるか、斎藤海相は内心でそう考えて言った。

「陸軍内部、特に陸軍省から、欧州での戦争を好機として満州問題の解決を図るべし、という意見が出ていると仄聞しており、山本首相もご存知ですが。その情報は誤りで、陸軍としてはこの際に満州問題を解決するつもりはないということですかな」


「その情報は」

 岡陸相は言葉を詰まらせてしまった。

 陸軍省内の策謀が既に山本首相の耳にまで入っているとは思わなかった。

 岡陸相が山本首相を見ると、山本首相は見透かすような眼で自分を見ていたが、完全に追い詰める気は無いらしく、助け舟を一応は出してくれた。


「欧州での戦争を機会に、満州問題等を中国との間で解決を図ることに首相としては賛成しますが、欧米との協調を第一にします。欧米の反感を買ってまで、満州問題等を日本の優位に解決するわけには行きません。陸相は陸軍省内の意見を今一度とりまとめていただけますかな。それとも、満州問題等の解決をこの際に図る必要はないと陸相は言われますか」

「いえ、陸相としては、この欧州での戦争を機会に、満州問題等の解決をこの際に図ることに賛成いたします。そのためにも陸軍省内の意見を取りまとめることをこの場で確約します」

 岡陸相は言った。

 すみません、次に続きます。

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