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第1章ー15

 9月6日現在の欧州の陸戦の概況の説明回です。

 林元帥と斎藤海相はその他にもいろいろ詰めたうえで、翌日の陸海軍協議会に出席した。

 欧州が戦乱に巻き込まれてから約1月、徐々に戦況は落ち着きを取り戻しつつあった。


 陸海軍協議会と言っても、参加者はごくわずかだった。

 内閣を代表して山本権兵衛首相と牧野伸顕外相と岡市之助陸相と斎藤実海相、軍部の代表として長谷川好道参謀総長と伊集院五郎軍令部長、それに欧州軍総司令官に内示されている林忠崇の7名に過ぎない。

 文字通り、トップの膝詰め談判だった。

 元帥とはいえ林は本来はこの場に出席できないのだが、行く先が行く先である。

 事前に内閣や陸海軍部と意思を疎通させておく必要があったために出席していた。


 最初に欧州の陸戦の最新の概況について、長谷川参謀総長から説明があった。

 西部戦線ではパリの目前までドイツ軍が進撃しているが、フランス軍がイギリス軍の協力も得て、ようやく反撃を開始しつつあるとのことだった。

 パリ陥落と言う事態は当面避けられるらしい。

 バルカン戦線ではセルビアが猛反撃を行い、オーストリア軍がロシア軍に対処する必要から主力を引き抜かざるを得なくなったことも加わり、逆にオーストリアへの逆侵攻を策す状況にあるらしかった。

 それに続く長谷川参謀総長の話には参加者全員が耳を疑った。


「ロシア軍が東部戦線で大攻勢を成功させています。ドイツ軍はヴィスラ河まで退却の上、そこを防衛線として反撃を行う模様です」

 長谷川参謀総長の第一声だった。

「何があった」

 参加者は口々に言った。

 日露戦争の際に奉天戦で大敗したロシア軍である。

 フランス軍を押し込み、世界最強を豪語するドイツ軍が大敗するとは。


 ロシア軍は日露戦争の大敗後、陸軍を再編制していた。

 ロシアが奉天戦の戦訓として重視したのは、偵察の失敗と通信網の混乱だった。

 乃木第3軍の大規模な迂回をロシア軍は戦闘中に掴めなかったし、クロパトキン総司令官の戦死という不運もあったが、迅速な通信が部隊間でロシア軍は行えなかった。

 その戦訓から航空隊を積極的に導入して偵察能力を高めること、通信機能の強化が図られた。


 一方、ドイツ軍は日露戦争の結果から、ロシア軍を軽視した。

 対ロシア戦用に向けられた第8軍は3個軍団しかいなかった。


 欧州が戦乱に包まれてから半月ほどしか経っていない8月17日、ロシア軍は第1軍と第2軍を協調させて東プロイセンへの侵攻を開始した。

 航空偵察を活用してのドイツ軍兵力の把握、通信網の強化(無線通信は簡単ではあったが暗号化されており、ドイツ軍はすぐには解読できなかった)は、ロシア軍を順調に進撃させた。


 ドイツ軍はタンネンベルクで2個軍団をかき集め、強引に攻撃したが、それを航空偵察で予期していたロシア軍の猛反撃により大敗した。

(フランソワ将軍率いる第1軍団が独断専行したため、共同攻撃がバラバラに行われたのが一因という)

 このため、ヒンデンブルグ将軍が援軍の4個軍団を率いて駆け付けてきたものの、是非もないとしてヴィッスラ河畔への一時退却をドイツ軍は決断した。


 長谷川参謀総長は以上のような説明の後でさらに続けて言った。

「オーストリアもロシア軍の攻勢の前にレンベルクを放棄しました。東部戦線はロシア軍が優勢です。ロシアは年内にベルリンへ進撃してみせると意気軒昂です。そこまでうまく行くとは私には思えませんが。とりあえず、我々の側がやや優勢にあります。欧州の陸戦の概況は以上です」

 長谷川参謀総長は話を終えた。


「海戦の概況はどうなのだ」

 山本首相は伊集院軍令部長に話を振った。

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